Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

もう一つ、ジェレミーの無防備で屈託のない笑い声を。

BBCラジオの1989年のインタビュー番組からです。こちらもJeremy Brett Informationにあったのですが、今はInternet Archiveに音声ファイルが残っています。下のリンク先の一番上がそうです。
http://web.archive.org/web/20110821081115/http://jeremybrett.info:80/media.html

ここから、笑いを含む部分を42秒ほどのクリップとして引用します。
JB 1989 interview clip.mp3

これは残念ながらトランスクリプトが手に入らないのですが、笑っているのはジェレミーが他のインタビューでも言っていた、「映画スターになろうとしてアメリカに行ったんですけど、だめだったんです」というところです。そのあとは「カウボーイになりたかった」という話ですね。

この笑いも格好つけてなくて小さな子供みたいで、一緒に笑い出してしまうくらい好きです。

RM
ジェレミーの屈託ない笑い声を久しぶりにききたくて、Desert Island Discsのインタビューの音声を再生しました。このインタビューは何回かご紹介したことがあります。たとえばこちらです。
ホームズにとってのIrene Adler:1991年のインタビューより

1991年にアメリカで収録されたものです。トランスクリプトと録音は、フランスのSociété Jeremy Brett de France (JBSF)というグループが"A thrilling time"というタイトルで以前出版しました。

この音声は、Jeremy Brett Informationにありました。今はこのサイトはなくなってしまいましたが、Internet Archiveにページと音声ファイルが残っています。
http://web.archive.org/web/20110821081115/http://jeremybrett.info:80/media.html

このページの上から二つ目に"Desert Island Discs (half hour edit).mp3"とあるのがそうです。

まず最初にインタビューアのRobert Aubry Davisがジェレミーに、

John Hawkesworth(ジョン・ホークスワース)がこの番組に出演したときに、あなたの名前が出たんですよ。ホームズの映像化の権利を得たときに、ぜひあなたにホームズを演じてほしいと思った、と。でもジェレミーにはぎょっとした、て言っていました。

と切り出します。John Hawkesworth(ジョン・ホークスワース)はグラナダ・シリーズの構成を担当、脚本も「最後の事件」「四人の署名」など、いくつも書いています。

この後のジェレミーとインタビューアのやりとりをJBSFによるトランスクリプトから、二人の声が重なっているところなどを一部改変して引用します。

RD: 思い当たることがありますか?

JB: つまりホームズが私をぎょっとさせた、っていう意味ですね。(笑い)

RD: それもあり得ますね!でもジョン・ホークスワースが言ったのは、あなたがあまりに役になりきっているので... ホームズそのままになったので...

JB: ああ、わかりました。ジョンは... ジョンはずっと... ジョンがこう言ってるって聞きましたよ、私がほとんどホームズそのものだったので、私がわからなかったって。

RD: そう、そのことです。

JB: 「私がわからなかった」っていうのはつまり...。

RD: ジェレミーだってことがわからなかったんですね。

JB: そのこと、たぶんききました。


RD: Does that ring a bell at all, or not?

JB: I think what you mean is that Holmes frightened me!

RD: That could be true also! He actually said that you become so much that character, so much the Holmes character...

JB: Oh, I see. I didn't know that John... I know John's been... I heard that he'd said... that I had become close to playing Holmes and that he didn't recognise me.

RD: Yes, oh, yes.


JB: Me, I mean...

RD: You, as Jeremy.

JB: I think I did hear that.


ジェレミーの最初の返事のあと、実に屈託のない笑い声が入るのです。最初これをきいたとき、ハンサムさんがそんな笑い方していいの?と、私も笑いだしてしまいました。

引用した部分の音声を切り出して、いわば、声の引用をします。約30秒です。
DID1.mp3

RM
週末に更新できませんでした。今日はとても短い記事を書きます。記事、といっても、写真のご紹介なのですが。

落札されましたので、数ヶ月後には見ることができなくなると思いますが、eBayのこのページにあります。
https://www.ebay.com/itm/352261106389

残念なことに透かし模様(watermark)が入っていますけど、そして口元はジェレミー自身の手でかくれていますけど、ジェレミーらしい表情で、私はこれははじめてみました。後ろに1986年2月2日というスタンプが押してあります。

RM
前回の続きです。カナダの微生物学者の女性はグラナダ・ホームズが好きで、4年間にごく普通のファンレターを何回か出して、ジェレミーから短い感謝の返事をもらっていました。

その彼女が人生の危機を経験したのが、前年のクリスマスの頃と書かれていますから、1994年の12月です。おばが末期ガンと診断されて入院し、母が脳卒中で倒れたのです。そして1995年1月はじめ、思わずイギリスにいるジェレミーにカナダから電話をかけました。(番号をなぜ知っていたかは書かれていません。俳優年鑑のようなもの、あるいはファンレターへの返事にあったのでしょうか。)

出典はこちらです。
Lost, a great heart
by Michael Walsh
The Province, Oct 15, 1995

「仕事を休んで、この空っぽの家でうろうろとして、自分を持て余していました。」1月4日は「どん底の気持ちでした。」

「取り乱して、多分自分を哀れむ気持ちだったのでしょう」としっかりした声で語った。「それで私ったら誰に電話をかけるっていうんでしょう。」

そのことを語るのはいまだに少し落ち着かないようだった。「もともとは、こんなことをするタイプじゃないんです。すごく控え目なんです。」(中略)

その日彼女は誰かに話さずにはいられなかった。そしてその日、ブレットの家の電話番号が手元にあった。ダイヤルを回すとブレットが電話に出た。

「私にとても役にたつアドバイスをたくさん話してくれました。そしてなによりも、私を気遣ってくれました。私のことをこころから心配してくれたのです。」

「いつでも君の助けになるよ (I'm here for you, luv,)」ブレットはこう言った。

「私のために祈ると言ってくれました」とKoppは言う。ブレットは病院にいる彼女の母親とおばに写真と手紙を送ってくれた。何日かたって、ブレットはKoppに電話をしてこう尋ねた。「どうしている? 大丈夫?」

「私が懐かしく思い出すのは、一人の人間としてのブレットなんです。俳優としてではなく。」


"I had taken time off from work and was rattling around in this empty house," she says. On Jan. 4, "I hit rock bottom.

"I was distraught and, I guess, suffering a little self-pity," she says in a firm, even voice. "And who the hell am I going to phone?"

Kopp is still uncomfortable with the memory. "It's not the sort of thing I tend to do," she says. "I'm very conservative." [...]

On a day that she had to reach out to someone, she had Brett's home number. When she dialled it, the actor answered.

"He was wonderful and offered me a lot of good advice." More than that, "he cared. He really did."

"I'm here for you, luv," Brett told her.

"He said he would pray for me," Kopp says. He sent photos and notes to her mother and aunt in hospital. A few days later, he called her to ask "how are you doing, how are you getting along?"

"The memories I hold dear are of Brett as a man, not as an actor," she says.


ジェレミーが心筋肥大症と診断されたのが同じ年の2月頃です。David Stuart Daviesがジェレミーと最後に会ったのが2月で、それが診断が出てから間もない時だとBending the Willowに書かれていますから、診断は1月か2月でしょう。ですから1995年1月4日というと、もう健康状態もかなり悪かったことでしょう。でも大西洋を隔てて突然かかってきた電話に親身になって、悲しんで混乱している女性をなぐさめ助けたのですね。

ジェレミーはお母様を交通事故で、奥様を病気で亡くしています。愛する人を見送る気持ちも、病気の家族を見守る気持ちも、そして病気のひとの気持ちもわかっていて、あのやさしさで彼女に手を差し伸べたのでしょう。そしてジェレミーが亡くなったのが、同じ年の9月でした。

RM
今までジェレミーからの電話のお話をしてきましたが、今日はジェレミーに思わず電話をかけて、親身になってもらって助けられたひとの思い出です。彼女はそれまでファンレターを出してきたけれども、ジェレミーに会ったことはありませんでした。そして彼女が住んでいたのは、海を隔てたカナダでした。出典はこちらで、The Provinceはカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーの新聞です。

Lost, a great heart
By Michael Walsh
The Province, Oct 15, 1995

今日ははじめの方から引用します。これはジェレミーが亡くなってから約一ヶ月後の記事です。

私たちはみな、あの名優を覚えている。俳優と演じた役が最高の調和に至ったテレビシリーズにおいて、ジェレミー・ブレットはシャーロック・ホームズそのものだった。

今までに100人以上がホームズの役を演じたが、ビクトリア朝英国の有名な諮問探偵の本質を最もとらえたのは、ブレットだった。9月12日に亡くなったという知らせで、世界中のたくさんの視聴者は悲しみ、喪失感を感じた。

Nancy Koppは大切な友となったひとのことを思い出す。1月に個人的なことで精神的危機に陥った時、バンクーバーの微生物学者であるKoppはその有名な俳優に助けを求め、親身になって思いやってくれる一人の人間としての彼と出会った。(中略)

Koppは彼女の家の西側の居間で私のインタビューに答えて、英国にいたブレットが、世界の向こう側からかかってきた助けを求める電話にどう答えてくれたかを話してくれる。


We all remember the great actor. In what became the perfect marriage of a performer to a role, Jeremy Brett was Sherlock Holmes.

Though more than 100 others have played the part over the years, it was Brett who best captured the spirit of Victorian England's most famous consulting detective. His death on Sept. 12 left millions of viewers around the world with a real and immediate sense of loss.

Nancy Kopp remembers a great friend. In January, during a moment of personal crisis, the Vancouver microbiologist turned to the actor and found a caring and compassionate man. [...]

Now, sitting in her west-side living room, Kopp tells me how Brett responded to a call for help from the other side of the world.


途中で略したところには、彼女がこの著者にジェレミーの思い出を記した手紙を送り、コラムの題材にどうかと提案したことが書かれています。

最初のところにも書きましたが、彼女はジェレミーのファンとして、それまでの4年間に短い、いわばごく普通のファンレターを何回か出したことがあるだけでした。そんな彼女がジェレミーに思わずかけた電話、そしてジェレミーの返事はどんなだったかは、(多分)次回の記事でご紹介します。

RM
前回はホームズに関するインタビューの後で、インタビューで話した内容の追加のためにジェレミーから突然直接電話がかかってきて、驚いたお話でしたが、それで思い出した記事があります。Peter Hainingは、グラナダ・シリーズについての本"The Television Sherlock Holmes"を書いているあいだ、そしてその改訂版をつくっている時に、しばしばジェレミーが電話をくれたと語っています。

The Case of The Sunday Morning Phonecalls
By Peter Heining
Sherlock Holmes Gazette, issue 11, Spring 1995

その電話が鳴るのは、たいてい日曜日の朝の早い時間だった。相手が誰かは、その声で間違いようがなかった。

"Peter, dear heart," その声の抑揚はいつものように、今にもこれから劇のせりふを口にしそうな調子だった。続いてこう言う時に彼の両眉が上がるのが見えるようだった。「君のためにちょっとしたことを、またみつけたんだよ!」

私が"The Television Sherlock Holmes"の本を書いていた1986年、そして第二版と第三版のための改訂作業をしていた1991年と1993年のあいだ、ジェレミー・ブレットは頻繁に電話をくれた。

ジェレミーは、グラナダ・シリーズの制作に関して新しく知るためにはこれも読者にとって役立つだろう、と思うような舞台裏の話をしてくれた。このシリーズでジェレミーはホームズの決定版と賞賛されるようになった。

長いことテレビのシリーズものについての本を書いてきたが(中略)、ジェレミー・ブレットほど自分の演技の内に何があるかを話してくれる俳優にはめったに会わなかった。あの偉大な探偵を演じるにあたってどれほど意欲を感じているかを、彼はいつも率直に語ってくれた。


It was early on Sunday mornings when the phone usually rang. The voice was instantly recognisable.

"Peter, dear heart," the inflection in the caller's voice sounded, as always, as if he was about to deliver a line of dialogue. I could almost see the eyebrows arching as he went on: "Another little piece of information for you!"

Telephone calls from Jeremy Brett were a regular occurrence during the time I was writing my book The Television Sherlock Holmes in 1986, and then while I was revising later editions in 1991 and 1993.

He rang with pieces of behind-the-scenes information concerning the unfolding story which he felt would help inform readers about the making of the Granada series which has deservedly won Jeremy the accolade of being our definitive Holmes.

In a lifetime of writing book about TV series [...] I have rarely come across an actor more willing to talk about the secrets of his art than Jeremy Brett. He was always completely honest explaining the enormous challenge he felt in playing the Great Detective [...].


最初のところ、あの声と調子は日常を劇の空間に変えてしまうのですね。ごく普通の話をしていても、シェークスピアなどが多用した韻律の弱強5歩格のようにきこえる、と書かれた新聞記事があったのを思い出しました( https://news.google.com/newspapers?&id=ZOUcAAAAIBAJ&pg=5779,6115475)。

後半からは前回の引用部分にもあったようにジェレミーが作品を大切に思っているところや、グラナダ・シリーズを本で紹介してくれる著者の役に立ちたい、読者に楽しんでもらいたいというジェレミーの気持ちがうかがえます。そしていつも率直でまっすぐです。このこともよくインタビューアが口にします。

ジェレミーからの電話について、三つ続けて書きました。これ以外にもまだいくつも思い出します。


ところで、Peter Hainingが書いて、その執筆中にジェレミーが電話でちょっとした裏話や逸話を伝えたというこの本のことは、ほとんどの方がご存知でしょう。念のために日本のアマゾンのページを記します。リンク先は原書の第三版です。
https://www.amazon.co.jp/dp/0863697933

こちらは日本語に翻訳された「NHKテレビ版 シャーロック・ホームズの冒険」です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4763098241

RM
前回は、ジェレミーからの突然の電話に、"Who?"と言っちゃったマーカスのお話でした。今回はDavid Stuart Daviesがかろうじて、そう言う前に気がついたお話です。でもマーカスの名誉のために申し上げますが、明け方にくたくたになってベッドに転がり込んで、電話で叩き起こされた、しかもまだジェレミーと話したことがなかったマーカスだったのですが、今回は状況が少し違います。

David Stuart Daviesがはじめてジェレミーに会ったのは、ジェレミーが"The Hound of the Baskervilles" (バスカヴィル家の犬)の撮影をしていた現場でした。10分のインタビューのはずが、二人は1時間近く話し続けました。ジェレミーはDavidがシャーロッキアンで、ホームズ物語にもその映像化にも精通していることがすぐにわかったのです。

そしてその後におきたことです。

Bending the Willow, New Edition
By David Stuart Davies
Calabash Press, 2010.

私が驚いたのは、いや驚いたどころでなく呆然としてしまったのは、その数週間後に、家にいる私にジェレミーから電話がかかってきたことだ。受話器を取ると声がきこえてきた。「やあ、こんにちは、ジェレミーだけど。」ありがたいことに、天からの導きか何かで「どちらのジェレミー?」とは言わなかった。あの名優自らが私に電話をしてくれるなど、思ってもいなかった。ジェレミーはただ、先日の「バスカヴィル家の犬」についての議論に、いくつか付け加えたいことができたのだ。こんなふうに、その時の気持ちのままに、親しくひととつきあうこと、そして出演作品を大切にしてよく考えていること、これが彼の本質だった。5分後には電話は切れて、呆然とした私がその部屋に残された。

It surprised me—no, shocked me—when a few weeks later I received a telephone call at home from him. I picked up the receiver and a voice said, 'Hello, it's Jeremy here . . .' Thank goodness, some guardian angel prevented me from responding with 'Jeremy who?' I certainly wasn't expecting the great man himself to ring me. He just wanted to add some comments to our conversation about The Hound. That kind, impulsive gesture and care about the production was the essence of the man. In five minutes he was gone, leaving me a little shell-shocked.


いつもながら、「ジェレミーって、こうなんですよね」と言うしかないです。にっこり笑いながら。

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今日、りえさんと私宛にマーカスからまたメールが来ました。先日のブログで、Wyndham's theatreの楽屋での36枚の写真が入ったボックスセットを、りえさんと私が2010年に購入したお話をしましたが、そのボックスセットが今でも購入できることを知らせてくださいました。あれは本当に美しくて素敵です!

写真プリントのサイズは11インチ x 8インチ(約28 cm x 20 cm)です。(先日のブログに私が載せた写真は、新しく届いた「ハンドバッグ・サイズ」のボックスの方で、いまご紹介しているのは一回り大きい「ノーマル・ボックスセット」の方です。)そして購入希望があれば今回新しくプリントし直すので、その時には「ローズ・プリント」も入れてくださるそうです!プリントは美しい箱に入っていて、箱にはそのほかに証明書とコンタクトシート(プリント一覧)が入っています。お値段は250ポンドと送料です。

もしも購入者が多ければ、今回新しくプリントして作るセットは200ポンドと送料という値段にするとのことです。「これは、この季節の挨拶として、日本のジェレミーのファンに親愛の気持ちを示すためで、こちらだけのこと(This is a little seasonal goodwill to the people of Japan and not offered elsewhere.)」とのことです。

あの写真は特別、そしてあのボックスセットは、それにまつわる思い出も含めて私には宝物です。あの値段だけの価値は十分ありました。かなり高額ではありますが、欲しいとお思いになるかたがいらっしゃったら、マーカスに直接メールするか、あるいは私たちが間に入った方がよいようでしたら、私かりえさんに連絡なさってください。

マーカスと私のメールアドレスは先日のブログの「追記」をご覧ください。

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これが今年最後の更新になると思います。

どんなかたが、どのくらいここに来てくださっているのでしょう。以前来てくださったかたも、もう今は多くがここにはいらっしゃらないのでしょう。でも、何かのときにふと、あんなブログがあった、と思って立ち寄って、あらまだ続いている、と懐かしいような安心したような気持ちになってくださったら嬉しいと思っています。

今読んでくださっているかたも、以前ここに来てくださったかたも、よいお年をお迎えになりますように。

RM
前回に続いて、Marcus Tylorが写真集の最初につづった、当時の思い出から引用します。

a roll with Jeremy Brett
By Marcus Tylor
Blurb, 2010.

以下のサイトで本の中身の一部を見ることができますし、購入ができます。この写真集のタイトル、書影を見ていただくとわかりますが小文字で始まっていて、私の書き間違いではありません。なお今日ご紹介する部分は、プレビューでみることができるページの中には含まれません。
http://www.blurb.com/b/1613794-a-roll-with-jeremy-brett

マーカスは前回の引用部分に続けて、当時の暮らしのことを書いています。劇場で多く写真を撮っていた時期で、劇場から家にもどると暗室で長い時間をすごし、午前4時よりはやく床に着くことはほとんどなかったそうです。その暗室というのは、昼間はキッチン・夜は暗室として使う部屋のことで、ここに光がもれるため夜明けは現像には危険で、牛乳配達の人がミルク瓶をかちゃかちゃいわせる音で夜明けが近いことを知った、と書かれています。

1988年10月10日(月)の夜、写真家として関わっていた芝居がはねた後、その興行の2周年記念パーティが午後11時からはじまり、それに参加したマーカスはとんでもない時間に家に帰りつき、暗室に疲れきってよろよろと入ります。ようやくできるだけのことをして、ベッドに倒れこみます。その朝、火曜日の午前8時50分に電話が鳴りました。

このすぐ後の部分を引用します。"Its Jeremy."のような、句読点のつけ方が非標準的だと思う部分などがありますが、そのまま引用しました。ただし"blur"が "blurr"となっている誤植は訂正しています。(もしかしたら現在の版ではなおっているかもしれません。)

ここはどこで、あの音はなんだ?そう考えたあと、このうるさい音を今すぐとめなければと思って、そのためにやっと受話器をとった。

「マーカスですか?」
「はい、えっと...。」
「ジェレミーです。」
「何ですか?」
「ジェレミー。」
「誰ですって?」
「ブレットです。ジェレミー。」
(しばらく無言)「誰ですか?」
「ウィンダムズ・シアターに出ているブレットです。」
「ウィンダムズ・シアター?何の... ああああああ、はい!」

どうにかこうにか態勢を立て直して、木曜日の夜にウィンダムズ・シアターに行く約束をした。その後の会話がどうだったか、今は記憶がぼんやりとしている。そして多分当時も、私はぼーっとしていたはずだ。ただ暗い寝室に立って、この夜型の生活をなんとかしようと固く誓っていた。


Where on earth was I and what was that noise? In the end feeling rather compelled to end this disturbance at once I picked up the phone.

Marcus ?

Yes errr.....

Its Jeremy.

What ?

Its Jeremy.

Who.... ?

Brett, Jeremy.

(silence) who ?

BRETT from Wyndhams....

Wyndhams ? What................... Ahhhhhhhhhhhhh... YES !!

I somehow managed to get it together and we made an arrangement for me to go on Thursday evening to Wyndhams. The rest of the conversation is a blur to me now, probably as it was to me at the time, standing in my bedroom in the darkness and adamant of changing my nocturnal ways....


ここも好きなのです、二人の会話の調子が想像できて。特にジェレミーは、あの声ですものね!マーカスの"Ahhhhhhhhhhhhh"というのも(ここ、ちゃんとhの数を数えて書きました!)、メールなどでマーカスは感嘆詞をよくこんな感じに書きますので、私の中で勝手にマーカスの調子に変換されます。私にはこんなに多くのhは重ねませんけど。

ジェレミーはこんなふうに気軽に突然電話をかけるので、はじめて電話をうけた人がびっくりしたお話、もう一つ思い浮かびます。次回、それを書くかもしれません。

RM
前回の記事「Marcusからのローズ・プリントのお知らせと、ジェレミーと赤いバラの思い出」を書いた数日後、マーカスから追加でお知らせが届きました。

ああ、サイズ書くのを忘れてた!台紙も含めたサイズは25.5cm x 20cmです。

とのことです。

また、マーカスのこのメールへの返事として、「教えていただいた写真のサイズ、次の記事で書きますね」と書いて送ったのですが、送信できなかったというメッセージがメールサーバーから届きました。そこで他の手段でマーカスに連絡をとったところ、今メールの送受信ができない状態だけれども、できるだけはやくメールを使えるようにしたい、とのことでした。

そのようなわけですので、もしもこの数日マーカスへメールしたのに送れなかったかたは、日をあらためてメールを送ってみてください。



前回触れた写真集の最初に、マーカスが思い出を書いています。プレビューで読める箇所から引用してみます。プレビューで一部を見ることができて、写真集が買えるサイトはこちらです。
http://www.blurb.com/b/1613794-a-roll-with-jeremy-brett

a roll with Jeremy Brett
By Marcus Tylor
Blurb, 2010.

満面に笑みを浮かべたポートレートにはまるで興味がなかったし、魅力を感じることもなかった。もっと内面を映し出すような、そして被写体の本質に少しでも迫るような写真を私は撮りはじめていた。ロンドンの劇場の舞台裏や楽屋の持つ雰囲気、感情、影といったものはその年の間ずっと、そしてその後も私にインスピレーションを与え続けるものとなった。そこでみるものは、観客席からみえる色彩豊かなはなやかさとはしばしば対照的だった。

Not really ever being interested or remotely attracted to big smiley portraits, I had set myself out to capture something more insightful and reach just that little bit deeper with my sitters. The moods, shadows and atmosphere of London's backstage was to inspire me significantly throughout that year and beyond, often contrasting greatly with the colour and splendour seen in the auditoria.


マーカスはジェレミーに、写真を撮りたい、と手紙を書きます。手紙の内容について触れたうちの一部です。

(ジェレミー・ブレットへの手紙の中で)ポートレートを撮るときに私が好むスタイルについて短く説明した。「単ににっこり笑っているというのをこえた何かを写しだす」といった意味のことを書いたはずだ。

I explained, briefly, my chosen style of portraiture of "bringing out more than just a smile" or something or other [...]


このあと、ジェレミーからマーカスに電話が入ります。マーカスは"It's Jeremy"と名乗られても、最初はピンと来なくて、何度か聞き返します。このやりとりの描写も、ジェレミーの声を想像しながら読むと楽しいのですが、今日はそこまでは書かないことにしますね。とにかく、ジェレミーからOKの電話が届くのです。ジェレミーも多分、マーカスの撮影の方針・スタイルに興味を覚えたのでしょう。

たしかにあの一連の写真は、「素敵なポートレート」という感じではなく、とても雰囲気のある、そしてジェレミーの内面をうつすような写真だと思います。力のある鋭い目の写真、話しかけるような表情のもの、寂しそうな表情もあります。遠くをみているようだったり、おだやかに微笑んでいたり、お茶目な笑みを浮かべていたり。

あの写真に私が魅了されたのも、そのような部分でした。

RM
1996年の昼食会のお話はお休みして、写真家Marcus Tylor(マーカス・タイラー)氏と久しぶりにメールのやりとりをしたお話をします。そして、あとでくわしく書きますが、マーカスから、ジェレミーの写真の限定版に興味があるひとはいないだろうか、というお尋ねがありました。その限定版について、ブログを読んでいる方に何か短く書いて下さらない?とお願いしたら、こころを打つ文章を送ってくださったので、お伝えします。

でもまずは発端から。(少し長いですが、限定版がどういうものか知っていただくために、どうぞお付き合いください。)

2010年4月にマーカスに、メールと封書で連絡をとったのが発端でした。そのとき私にわかっていたのは、マーカスは1988年にWyndham's Theaterの楽屋でジェレミーを撮影した写真家であるということだけでした。楽屋での一連の写真のうちの何枚かはネットで見かけていましたが、全部で何枚かも知りませんでしたし、写真の撮影の順番もわかりませんでした。でもネットの海を浮遊する小さい画像で見てさえ、とても好きでしたので、きちんとしたプリントとして全部の写真を順番に見ることができたらどんなによいだろうと思っていました。ジェレミーのファン・サイトであるBrettish Empireの1996年11月の記事に、Marcus Tylorに連絡すればプリントしてくれると書かれていました。しかし住所だけでHPもメールアドレスものっていませんでしたし、それから十数年後の2010年当時でもプリントを買えるのかもわかりませんでした。

ところが幸いにも、2010年4月の私からのお尋ねにマーカスから返事がきて、プリントを購入することができました。美しくて大きなセピア色のプリントが、撮影順を示す通し番号、エディション番号、マーカスのサイン付きで全部で36枚、黒の箱に入って届きました。その頃イギリスに住んでいらしたりえさんにもご紹介して、りえさんも同じボックスセットを購入して、直接マーカスと会って親しくお話をなさっています。

それから少しして、マーカスからメールが届いて、この36枚の写真をはじめて本にしたというお知らせをいただきました。
ジェレミーの写真集


さらにその数ヶ月後、2010年10月13日、マーカスがジェレミーを撮影した日のちょうど22年後に、日本でマーカスとりえさんと私と3人で会いました。
マーカスとりえさんとすごした奈良(1)
マーカスとりえさんとすごした奈良(2)


マーカスはジェレミーが亡くなって20年目の2015年9月12日にClaphamで行われた集いにも参加しています。この日のために限定版としてマーカスが特別にプリントしたのが、Wyndham's Theaterの楽屋でジェレミーを撮った中の一枚の写真を元に、手に持った煙草を赤いバラにかえたものでした。ジェレミーは赤いバラが好きだったのをご存知のかたも多いでしょう。この集まりについては、たとえばこちらで触れました。
今年の9月12日の集まり
今日で二十年です そして「こころは一緒」:1995年のインタビューより



そして先月マーカスから私とりえさんにメールで連絡がありました。

あのJBのための集まりに寄せて特別に作った品物が残っているのだけど、誰か欲しいひとはいないかと思って。キュートな6インチ x 4インチのボックスセットで、あのローズ・プリントも入っているんだ。値段は元々の半額と送料。6つ作って2つ残っていて、この先作らないだろうから、すごく希少なものなんだよ。

そして箱の写真がついていました。マーカスから許可をいただいたので小さくして載せます。
Boxset.jpg

私からの質問:確認したいんですけど、そのボックスセットには、あのWyndham's theatreの楽屋であなたが撮った36枚と、それにあの、ジェレミーが煙草でなく赤いバラを持っている写真が入っているってことですか?

マーカスからの返事:うん、あのビッグセットと同じ写真セット、でもハンドバッグサイズなんだ!それに証明書とあのローズ・プリントが入っている。

「あのビッグセット」というのは私たちが2010年に購入したもののことです。今回のものはハンドバッグサイズ!もちろん美しさは大きな写真のほうが堪能できますが、身近に楽しむには「ハンドバッグサイズ」はキュートで魅力的です。小さな箱は机の脇にでも置いて、いつでも開けられます。買うことに決めました!このWyndham's theatreでの写真は私には特別なのです。

そしてそれが届いたのが先週末です。りえさんも少し遅れて購入のお返事をなさったそうですから、 りえさんのところにも届くでしょう。一足先にご紹介します。大きさがわかるように(あるいは小ささがわかるように)、箱と一緒にカップも写しました。このカップのことはこちらで書いています。下に敷いているのは手ぬぐいです!
221Bの食器;Mason's Blue Mandalay
My boxset

ちなみに最初のマーカスのメールでは6"x4" boxsetsとなっているのですが、プリントは(まわりの余白も含めて)7"x5" (18 cm x 12.5 cm)、箱の大きさは7.7"x5.3"くらい (20 cm x 13.5 cm) でした。マーカスもジェレミーと同じで、数字にこだわらないたちなのかしら、それとも写真の大きさの表記について、私が知らない慣習があるのでしょうか。

「ローズ・プリント」と、36枚の中の4枚を箱から出してみました。指紋がつくかも、ほこりが落ちるかもなんて心配してしまい込むのではなく、しょっちゅう取り出してながめましょう。
JB prints

マーカスにお礼を書いたり、ブログに写真を載せてもいいですか?と尋ねたりしているうちに、マーカスからこんなお知らせがありました。

(2015年9月12日の)Claphamでの集まりのために作った他のものも出てきたんだ。君のブログのメンバーに、いい新年のお祝いの品になるといいんだけど。日本に送ってもまだ新年に間に合うしね!これも元々の半額にするよ。これ以外にはもう何もないんだ。3種類の色のマット台紙に固定されている。白とグレイとゴールド。それぞれ10枚ずつくらい残っている。

1枚5.50ポンド。航空便で日本まで4.75ポンド(プリント4枚まで)か、7.45ポンド(プリント5枚から11枚まで)。

£5.50 each print.
Shipping via standard airmail to Japan is £4.75 (1 ~ 4 prints) or £7.45 (5 ~ 11 prints)



サイズがわかるように、君たちのボックスセットと一緒に写っている写真を添付するよ。

Matane
!


私からの返事です。

それは素敵!喜んで、ブログにお知らせを書きます。

あなたが書いてくださったプリントの説明を日本語に訳してブログに載せますね。もしも、ジェレミーの思い出とか、あの限定版のローズ・プリントをなぜ作ったかとか、何かさらにちょっと書いてくださったらすごく嬉しいのですけど。そうしたら訳して載せます。ジェレミーのファンのみんなは喜ぶでしょうから。

添付してくださった写真はブログで使っていいですか?

あなたと直接連絡がとれるように、e-mailアドレスをブログに書いてもいいでしょうか。もしも英語が得意でないなどで、私がかわりにあなたに連絡してほしいということだったら、そうしますね。

Matane!


私が、できればextra few wordsをとお願いした時は、頂けても短いものを予想していたのに対して、丁寧な文章を送ってくださいました。

「赤いバラとジェレミーは、僕の思い出の中で一つになっていて分かち難い。今でもはっきりとこころに浮かぶのだが、コベントガーデンでのクリスマスパーティで、ジェレミーは彼のいつもの濃紺のセーターに、バラを一輪さしていた。悲しいことにそれが僕がジェレミーと会った最後の時だった。ジェレミーの思い出は決して変わりようがないし、赤いバラの記憶もそうだ。」

"The rose and Jeremy are as one in my memory and are inseparable. It is still clear in my mind when I saw him at a Christmas party in Covent Garden and he was wearing a rose pinned to his navy blue jumper. It was sadly the very last time I saw him, the memory can not be changed and nor can that of the rose."


その後、こう書かれていました。「書くと悲しくなるんだ...。」

このクリスマスパーティのことは、本(写真集)でも触れています。本はこちらで購入できます。
http://www.blurb.com/b/1613794-a-roll-with-jeremy-brett

この返事をいただいて、こころを打たれました。マーカスはジェレミーとの思い出をこんなに大切にしていて、いまも鮮明に覚えていて、そして思い出は悲しみを誘うのですね。赤いバラを手にしたジェレミーの写真を、ジェレミーが亡くなって20年の集まりのために作ったマーカスの気持ちを思いました。そして私がお願いしたのに応えてこうして書いてくださったことに、感謝の気持ちでいっぱいでした。

ああ、マーカス!

あなたが書いてくださった文章は、私のこころをゆり動かしました。あなたの思い出は悲しくて、でも美しいですね。ジェレミーがバラを胸につけてどんなふうだったか、私には想像できます。

ありがとう!




これがこのプリントが2015年につくられた理由、そして今回、もとの半分のお値段でご紹介することになった経緯です。

マーカスが送ってくれた写真はこちらです。こちらも小さくしています。大きい写真が見たいかたはおっしゃってください。伏目の、雰囲気のあるジェレミーの写真に、赤のバラが映えています。サイズはミニボックスセットの箱の大きさが 20 cm x 13.5 cm ですからそれと比較なさってください。
Rose Print 1

興味があるかたがいらっしゃるとうれしいです。代金に送料の占める割合が大きく、お得ではない買い物に思えて躊躇なさるかもしれませんが、これは送料が高いからではなくプリントが驚くほど安いからだと思います。私が持っているのとは違って、写真はマットボードに挟んだ形ですから、このままできれいに飾れます。1枚の購入で10.25ポンド、2枚で15.75ポンド、今日現在のレートで送料込みで1枚1560円、2枚2400円です。(実際には、クレジットカードを使えば、カード会社が手数料を少しだけ上乗せして請求してきますから、もう少し高いです。)

・直接マーカスに連絡なさる場合はアドレスを追記に記します。マーカスにどの色を何枚購入するか、住所、そして送金方法を知らせてください。送金は私はPayPalしか使ったことがありません。

・直接ではなく、私があいだに入ったほうが良い場合は、私のアドレスをしばらく追記欄に書いておきますので、ご連絡ください。個人情報(名前、住所)を私に知らせてくださる必要はありません。名前、住所は直接マーカスにご自分でメールして、それ以外の連絡は私が代行します。英語での住所の書き方、送金のしかたなど、よろこんでご相談にのります。

ここを読んでくださっているかたのどなたかの元に、新しい年のためのお祝いがマーカスから届きますように。

RM

追記:マーカスと私の、それぞれのメールアドレスです。2行をつなげて、間にアットマークをいれてください。
mail
marcustylor.co.uk

(私のメールアドレスは削除しました。2018.2.10)

 RM

Author: RM
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和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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