Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

BBC版、人形劇版、そして原作でのIrene Adlerについて、ナツミさんのブログの記事とコメント欄の両方で、興味深い考察や感想が書かれています。
アイリーン・アドラー

BBC版、人形劇版では完全に遅れをとって、原作においてもとてもシャーロッキアンとは言えない私は何かを書くことはできなかったのですが、皆さんの言葉を読みながら想像の翼を広げて、心の中でイメージを描いていました。そのイメージの中にはもちろん、グラナダ版でのIreneの姿もあり、ジェレミーが語る言葉が私の中に呼び起こしたイメージもあります。そこで、それを少し書いてみようと思いました。久しぶりの「勝手に連動企画」です。

ただその前に、Ireneの名前をカタカナで書こうとして、発音のことに触れない訳にはいかなくなりました。

以前、Lestradeの発音について書いたことがあります。グラナダ版では多くの映像作品が用いているレストラードではなく、レストレードでしたね。これはデイム・ジーン・コナン・ドイルが語ったことにもとづいている、というものでした。
Lestradeをどう発音するか(2)

あのときご紹介した同じ本に、Irene Adlerの名前の発音についても書かれています。ただしこれは、あの時とりたててこのブログで書くほどではなく思えたので引用しませんでした。でもグラナダ版でのIreneの話の前なら、書いてもよいかもしれません。以下の本からです。

The Sherlock Holmes Miscellany
by Roger Johnson & Jean Upton
The History Press, 2012
http://www.amazon.com/dp/075247152X

下のリンク先はGoogle Booksでの該当するページです。
http://books.google.co.jp/books?id=OHc7AwAAQBAJ&pg=PT116#v=onepage

Irene Adlerの名前の発音をどうするかは、(Lestradeの場合とは違って)それほどわかりやすいものではありません。標準的なアメリカ発音では'Eye-reen'(アイリーン)と読みます。アメリカのニュー・ジャージー出身だということからは、この発音が適切だとも考えられるでしょう。英国での発音は、ペネロピーやハーマイオニーといった古代ギリシャにその由来を持つ名前では最後の'e'をギリシャ語発音に従うことにより、'Eye-ree-nee' (アイリーニー)となります。グラナダ版では、英語圏以外で使われるもっと異国風な発音を選びました。'Ayr-ray-na'(エレーナ、イレーナ)です。これには、ヨーロッパのオペラハウスでその名声を誇ったプリマドンナにふさわしいヨーロッパ大陸の香りがします。BBCのSherlockシリーズでは熟慮の末に、よく使われる、そしてもっと現代的なEye-reen(アイリーン)を選びました。後は読者にその判断をまかせます。

Irene Adler is not quite so clear cut. There is the standard American pronunciation of 'Eye-reen', which would be appropriate since she is said to have come from New Jersey. British usage follow the original Greek in pronouncing the final 'e' of the name, thus: 'Eye-ree-nee' (as in 'Penelope', 'Hermione' and other names of Ancient Greek origin). The Granada TV series opted for a more exotic version - 'Ayr-ray-na' - which has a continental flavour fitting for a diva who made her name in the opera houses of Europe. The BBC Sherlock series, after considerable deliberation, went for the popular and more modern Eye-reen. We leave it to the reader to decide.


この本ではグラナダ版での発音を'Ayr-ray-na'と表記していて、これをカタカナであらわすならば「エレーナ」となるのかもしれません。でも耳できくと「イ」により近いようにきこえて、「イレーナ」も併記しました。ちなみに下記ページではグラナダ版での発音を"ee-RAY-nə"と表記しています。またこの発音はドイツ語、フランス語、オランダ語での発音に似ていると書かれています。
http://bakerstreet.wikia.com/wiki/Irene_Adler

下記サイトできける音声では、イタリア語はカタカナであらわせば「イレーネ」に近くきこえます。フランス語では「イレーヌ」。
Pronunciation of Irene | How to say or pronounce Irene

ドイツ語では下記サイトでの書き方では ee-RAY-nuh、カタカナで書けば「イレーナ」が適当でしょう。
Behind the Name: Comments for the name Irene

こちらでは iyREHNah in German と書かれています。この表記の最初の部分は、グラナダ版でボヘミア国王が最初に発音する時の音をはじめとして、ワトスンやホームズの発音を想起させてくれるように思いました。
Irene - Meaning of Irene

いくつかのサイトを巡って、グラナダ版ではヨーロッパのオペラハウスで活躍したIreneの発音として「イレーナ」を選んだということが理解できました。

今日は名前の発音の話で終わってしまいましたが、いつか(次回?)ジェレミーがホームズとイレーナについて言っている言葉を少しご紹介しようと思っています。

RM
前々回の続きです。撮影時はちょうど100歳で、101歳と二日で亡くなった女優Gwen Ffrangcon-Daviesとジェレミーとの共演シーンのリハーサルについて書かれている文章を今回はご紹介します。

今そのシーンを見直していますが、気品のあるしっかりとした声、不幸な出来事の後でうちひしがれるのではなく、達観を感じさせるような笑みをうかべて話す貴婦人の表情としぐさの魅力をあらためて感じました。そして、童女のような可愛らしさも感じられます。

以前フォーラムでこのシーンが話題になったとき、ホームズが別れ際にDame Gwen(デイム・グウェン)の手にキスをする姿に、ホームズだけではなくジェレミーの気持ちも感じる、と言った人がいました。同感です。伝説の名女優への敬愛の気持ちがこもっているのでしょう。今回もそう思いながらこのシーンを見返しました。

ジェレミーは彼女の手にキスをした後、微笑みかけています。カメラがホームズを後ろからうつしているのと、一瞬なので、私は以前は気がつきませんでした。


彼女の伝記の一部をGoogle Booksで読むことができます。そこに、この撮影のリハーサルの時のことが少しだけ書かれています。そして彼女の演技に関しての放映後の新聞評も。そのページを埋め込んでみました。

"Forever Juliet: The Life and Letters of Gwen Ffrancon-Davies, 1891-1992"
By Martial Rose
Larks Press, 2003
http://books.google.co.jp/books?id=fIOoYGF9LrgC




リハーサルについて書かれているところを引用します。

グウェンの目と耳がおとろえていたために、最初のリハーサルの時には彼女はとまどった。だがジェレミー・ブレットのすぐ近くにすわってその唇が動くのを見れば、もっと楽に自分の演技のきっかけをつかめるのがわかった。それからのリハーサルは順調に進んだ。

An account of the first rehearsal describes how, because of her failing eyesight and hearing, Gwen was quite at a loss, but she found by coming close to Jeremy Brett and watching his lips move she could more easily pick up her cues. Rehearsals from that moment went smoothly.


これを読んで、100歳のデイム・グウェンがリハーサルの最初の時よりももっと自分に近づいてすわって、唇を読みながら完璧なタイミングで演じるのをみたジェレミーの気持ちを想像していました。

次回、あるいはもう少し後で、アメリカでのインタビューでジェレミーがデイム・グウェンのことを話しているところをご紹介できたらと思っています。

RM
「犯人は二人」の最初、はじまって5分くらいのところで、貴族の未亡人が孫息子を陥れた恐喝王の手がかりとしてホームズに詩集を手渡して、そこに書かれている"CAM Devil"の文字を見せるシーンがありますね。
The Master Blackmailer

この老貴婦人を演じたのはGwen Ffrangcon-Daviesという名女優です。たとえばEncyclopedia Britannicaのサイトの記述では、「80年の経歴のなかで、英国の古典劇の舞台における伝説のひととなった、イングランドの女優」となっています。
http://global.britannica.com/EBchecked/topic/205728/Dame-Gwen-Ffrangcon-Davies

生まれたのが1891年1月25日、亡くなったのが1992年1月27日ですから101歳と2日ですね。「犯人は二人」が英国で放送されたのは1992年1月2日だそうですから("The Television Sherlock Holmes"より)、このスクリーンでの最後の姿を英国の人たちがみた25日後に、この世を去られたのですね。撮影はジェレミーが秋にアメリカツアーに行く前で、アメリカツアーは1991年の10月から11月にかけてでしたから、スクリーン上のDame Gwen(デイム・グウェン)はちょうど100歳だったはずです。

このシーンの撮影に関して少しだけですが触れている本がありますので、それを次回ご紹介するつもりです。そして、ジェレミーがインタビューでこの時のことを話していますので、それもいつか。

RM
前回の記事の「授賞式で贈られたパイプ」でご紹介した写真の説明文に、「ホームズ・スタイルのパイプ」という言葉がありました。ホームズ・スタイルというと、少なくともジェレミーのホームズの前までは、キャラバッシュ・パイプが一般的だったのでしょう。

キャラバッシュ・パイプは特にWilliam Gillette(ウィリアム・ジレット)とBasil Rathbone(バジル・ラスボーン)のホームズに特徴的だったようですね。Wikipediaの記事のアドレスです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Tobacco_pipe#Calabash

ウィリアム・ジレットは舞台でホームズを演じて大成功をおさめ、1916年には映画にも出演したそうです。ホームズがキャラバッシュ・パイプをふかすことなど、一般の人が持つホームズのイメージで原作には直接由来しないものには、ジレットがつくりあげたものが多いということです。ちなみに、失われたと思われていたジレット主演の1916年のサイレントのホームズ映画が、フランスでみつかったというニュースが今月はじめに流れましたね。
http://www.theguardian.com/film/2014/oct/02/holy-grail-of-sherlock-holmes-films-discovered-at-cinematheque-francaise

ラスボーンについては今日ご紹介する記事の中にも書かれているように、ジェレミーにとっての映像上でのホームズはラスボーンが演じたホームズでした("However, to Brett himself, the quintessential Sherlock Holmes is Basil Rathbone.")。

さて、ホームズを原作の姿にもどしたグラナダシリーズでは、キャラバッシュ・パイプは使われなかったのですが、例外があります。多分皆様ご存知でしょう、「最後の事件」のスイスでのシーンで、ジェレミーがキャラバッシュ・パイプをくわえていましたね。途中で口からはずしてパイプに眼をやりましたが、私にはパイプを興味深げにながめているようにみえました。そして軽く微笑みます。

このパイプのことにふれているインタビューをご紹介します。

"Five New Cases For Brett's 'Holmes'"
By Jerry Buck
The Free Lance-Star - Nov 12, 1991
http://news.google.com/newspapers?&id=pgFOAAAAIBAJ&pg=4710,2174495

ブレットは鹿撃ち帽もインバネスコートも身につけず、キャラバッシュ・パイプもくわえない。すべて原作にはなく、俳優たちが後で演出のために加えたものだからだ。ブレットはシルクハットか中折れ帽をかぶり、柄(え)の長いパイプを吸う。しかしあるエピソードでは彼はキャラバッシュをふかした。これはラスボーンとジレットへの賞賛の挨拶だとブレットは言った。ジレットはホームズを舞台で演じた最初の俳優で、1893年のことだった。

(訳注:ジレットがホームズを演じた年も、彼がホームズを演じた最初の俳優というのも、おそらく間違いだと思いますが、そのまま訳しました。)

Brett doesn't wear a deerstalker hat or the Inverness cape or smoke a calabash pipe, all of which were embellishments added by performers. Brett wears a top hat or a homburg and smokes a long-stemmed pipe. In one episode he did smoke a calabash, which he said was a salute to Rathbone and William Gillette, the first actor to portray Holmes on the stage in 1893 [sic].



このシーンでキャラバッシュ・パイプをくわえたことについて、Michael Coxが"A Study in Celluloid"でこう書いていたのは覚えていました。「最後の事件」に関する章から引用します。

このエピソードではジェレミーは、ホームズなら絶対これと一般に思われたり面白がられたりしているキャラバッシュ・パイプを、ちゃんと知っていますよという合図として、口にくわえた。

In this film Jeremy allowed himself the calabash pipe of Holmesian caricature as a nod to the legend.


ちょっと意訳しました。ニュアンスが違っていないといいのですが。

この記述では、ジェレミーが積極的にこのパイプを選んだことはうかがえましたが、二人の先輩俳優への挨拶として、というのは先に引用したジェレミーへのインタビュー記事ではじめて読んだので、ちょっと面白いと思って書いてみました。

RM

追記:ジェレミーがキャラバッシュ・パイプをくわえている宣伝用写真を、Jeremy Brett Informationからどうぞ。(このサイトは写真のアドレスをかつてつけかえたことがあります。またそうなって違う写真にかわったらご容赦を。)
http://jeremybrett.info/Holmes_C/images/Colour_Holmes%20%2899%29.jpg
前回に引き続いて、というより前回は触れずじまいだった本題にやっとはいって、Lestrade警部の名前をどう発音するかについて、下記の本に書いてあったことをご紹介します。

The Sherlock Holmes Miscellany
By Roger Johnson & Jean Upton
The History Press, 2012
http://www.amazon.com/dp/075247152X

「これの正しい発音はどうなんですか?たとえば...。」

ホームズの物語は舞台・映像・ラジオなどで何度も演じられていますが、登場人物の名前の発音についてはいろいろと論議されてきました。

まずはLestrade警部の名前の読み方からみていきましょう。彼の名前はフランス語由来で、その元々の発音は口を広くあける"a"の音、つまり「レストラード」でしょう。初期の多くの映像作品ではこの発音を使っています。でもDame Jean Conan Doyle(デイム・ジーン・コナン・ドイル)と話すなかで、お父さんのドイルが彼女のために声に出して本を読む時、お父さんはいつも長くのばす"a"の音、つまり「レストレード」と発音していたということを教わりました。ドイルの身内からのこの間違いのない情報を得て、この発音をジェレミー・ブレットは選びました。


WHAT'S THE CORRECT PRONUNCIATION OF ...?

In the many dramatisations of the stories there has been much debate over the pronunciation of the names of some of the characters.

Le't first deal with Inspector Lestrade. The original French pronunciation of his name would have a broad 'a' as was used in most of the earlier films; 'Le-straahd'. However, in conversation with Dame Jean Conan Doyle we learned that her father, when reading aloud to her, always pronounced it with a long 'a': 'Le-strayed'. With such impeccable insider knowledge, this is what Jeremy Brett chose to use.


私は初期の映像作品をちゃんと観ていないのでわからないのですが、「レストラード」が多かったのですね。

英語版WikipediaのInspector Lestradeのページの、"Granada Television series"の項にもわざわざ、「映像や音声作品ではフランス式の発音を採用するのが普通であるが、それとは違いこのシリーズでは長くのばす"a"の音、つまりtradeと韻を踏む音(訳注:「レストレード」)で発音された(Unusually, in this series, Lestrade's name was pronounced with a long a sound, rhyming with "trade," as opposed to the usual practice in screen or audio adaptations of using the French pronunciation.)」と書かれていますから、おそらくそれまでの有名な作品、たとえばBasil Rathbone(バジル・ラスボーン)がホームズを演じた作品でも「レストラード」だったのでしょうね。

グラナダシリーズではそれまでとは違う「レストレード」という発音を使うようにしたのは、デイム・ジーンが話してくれたことにもとづいてジェレミーが決めたということを、今回はじめて知りました。デイム・ジーンのこともジェレミーのこともよく知っていたこの本の著者が書いていることですから、他で読んだことがない記述ですが、信頼性が高いでしょう。

正確にはプロデューサー、ディレクターも含めた話し合いの中で決まった、つまり「グラナダ・チームが決めた」と言うべきかもしれませんが、でもご存知のようにジェレミーは、ドイルの物語をできるだけそのまま映像化することに積極的・主体的に関わったひと、プロデューサーと共にその中心となったひとですから、ジェレミーが決めた、と言っても言い過ぎではないのだと思います。

ところで、日本の翻訳書では「レストレード」が多いようです。日本語のWikipediaでも、ページの題は「レストレード」となっていて、「訳者によりレストレイドの表記も用いられる」とは書かれていても「レストラード」はありません。「レストラード」と発音する英語圏の映像・音声作品が日本に入ってきても「レストレード」を使い続けたのには、理由があったのでしょうか。ドイルがそう発音していたという情報が入ってきていたのでしょうか。もっとも特別な理由があったわけではなく、外国名のカタカナ表記は、一度使い始めたらよほどのことがなければ変えない、という日本の習慣のためという可能性もありますね。ご存知の方はどうぞ教えてください。

また、BBCの"SHERLOCK"では、たしか「レストラード」でしたね。この選択については今回の本では何も言及していませんが、もしかしたらラスボーン版への、あるいはそれも含めたグラナダ版より前の作品へのオマージュがこめられているのかもしれないと想像しました。

RM
Lestrade警部の名前をどう発音するかという問題、これはシャーロッキアンには知られていることなのかもしれませんが、私は以下に紹介する本で、Sir Arthur Conan Doyle(サー・アーサー・コナン・ドイル)のお嬢さんのDame Jean Conan Doyle(デイム・ジーン・コナン・ドイル)がどう言っていたかを数ヶ月前にはじめて知りました。

本はこちらです。
The Sherlock Holmes Miscellany
By Roger Johnson & Jean Upton
The History Press, 2012
http://www.amazon.com/dp/075247152X

私は迷ったあげくKindle版を買いました。元々活字が好きで紙も好きで本という形も好きで、でも最近では次第に電子書籍の方を買うようになってきました。本が本棚に入らず積み重なっていますから。本好きには共通の悩みでしょうね。

この本はKindle版では現在3.79ドル、日本のアマゾンで398円という安さです。この値段では申し訳ないような良い本で、ホームズと共に育ってきたのではない私のようなものにも読みやすいです。本の題は上にあげたとおり"The Sherlock Holmes Miscellany"で、「シャーロック・ホームズについての色々」という感じでしょうか。内容は多岐に渡っていますが専門家がとうとうと述べるという感じはまったくなくて、のどかに楽しく書かれています。

著者二人はどちらもシャーロッキアン、そしてご夫婦です。二人の結婚式にアーサー・コナン・ドイルのお嬢さんのジーン・コナン・ドイルも招かれたことが、彼らの知人による序文に書かれています。著者の一人のJean Upton(ジーン・アプトン)については、ここでも何回かふれました。

アメリカに住んでいて父親を亡くしてまだ時がたっていない頃、The Sherlock Holmes Society of London(ロンドン・シャーロック・ホームズ協会)の会員の一人としてイギリスのグラナダスタジオを訪れて、そこで会ったジェレミーからしっかりと抱きしめられたこと、そしてジェレミーが亡くなる時まで親交があったこと。
The Sherlock Holmes Society of Londonのグラナダスタジオ訪問(1987);Sherlock Holmes Gazetteの記事から
最期の日々(1)

彼女がデイム・ジーンとはじめて会ったのは、"The Secret of Sherlock Holmes"の初日、Wyndham's Theatreのジェレミーの楽屋に迷い込んだ時で、そこでジェレミーとデイム・ジーンのあの素敵な写真(http://jeremybrett.info/behind/imgpages/image027.html)を撮ったこと(下の記事の最後で触れています)。
Jean Conan Doyleとジェレミー(3)

BBC版"SHERLOCK"の最初のエピソードがイギリスで放映される2日前、つまり一般の人はまだ誰もこの作品を観ていなかった時に、このドラマを高く評価するコメントをBBCのページに寄せていて、ホームズ映像化の歴史においてこの作品が画期的な位置をしめることを公の場で予言した、おそらく最初のシャーロッキアンの一人であること(これも下の記事の最後で触れています)。
Michael McClure君のこと;1991年のインタビューから


この本には、BBC版"SHERLOCK"のロケ現場でジーン・アプトンが撮ったBenedict Cumberbatch、そしてMartin Freemanの写真もあります。

そして上で触れたジェレミーとデイム・ジーンの写真も掲載されていて、上にあげたJeremy Brett Informationにある写真では切り取られている、部屋の中の様子も見ることができる点(右の壁か扉にイラストが貼ってあって、人物はホームズにみえますが、誰が描いたのでしょう)、ジェレミーのメッセージとサインが書いてある点が、うれしいです。筆記体で、100%の自信はないのですが、

Special moment!
from
Jeremy Brett

と読めます。以下はGoogle Booksで該当するページのアドレスを書いたつもりですが、うまく飛んで写真をご覧になれるでしょうか。写真の説明に1988年9月22日とありますから、秋の今頃だったのですね。
http://books.google.co.jp/books?id=OHc7AwAAQBAJ&pg=PT117#v=onepage


長くなったので、肝心の"Lestrade"の読み方については、次回に書きます。

RM
台風は皆様のところではどのようでしょうか?当地は今のところ静かです。


「悪魔の足」に関して、以前「『悪魔の足』のリハーサル初日:The Black Box Clubのウェブサイトより」の記事の最後にこんなふうに書きました。

それから「悪魔の足」の幻覚のシーンで使われている、ホームズの子供の頃と思われる写真、あれはジェレミー自身の子供の頃の写真を使ったと書かれている本があるのですが、皆様はどう思われますか?私はその記述を読むまでは、考えたこともなかったのです。あまりに古めかしい洋服ですし。でも今では(7割9分くらいの感じで)そうかもしれないと思っています。

これについて、よい機会ですので書いてみます。

グラナダシリーズのプロデューサーであるMichael Cox(マイケル・コックス)の本"A Study in Celluloid"に、以下のような記述がありました。ここでGaryとあるのは、上にあげた以前の記事でもご紹介した、「悪魔の足」の脚本を書いたGary Hopkins(ゲリー・ホプキンズ)です。


Gary(ゲリー)の脚本で特に私がひきつけられたのは、ホームズの悪夢の具体的なイメージを示していることだった。そのすべてが、このエピソードの間ずっとホームズがとりつかれていた死のイメージを表現していて、カイン、オイディプス、ネブカドネザル、そしてホームズ自身の宿敵モリアーティの禍々しい姿が画面に次々と映し出される。この一連の映像に特に興味がある読者は、"It's a Print!: Detective Fiction from Page to Screen"という本を読むとよいかもしれない。これはWilliam ReynoldsとElizabeth Trembleyが編集した本(Bowling Green state University Popular Press、1994年発行)で、その中でDr Trembley とKen Hannamは、この悪夢のシーンを詳細に分析している。

[O]ne of the aspects of Gary's script which particularly appealed to me was that he offered specific images for the nightmare which Holmes undergoes. They are all images of death which has obsessed Holmes throughout the episode—Cain, Oedipus, Nebuchadnezzar and his own nemesis, Moriarty—orchestrated by the director into a disturbing series of images. Readers who are particularly interested in this sequence might like to track down a book called It's a Print!: Detective Fiction from Page to Screen, edited by William Reynolds and Elizabeth Trembley (Bowling Green state University Popular Press 1994), in which Dr Trembley and Ken Hannam analyse the nightmare in depth.



それで、この本に興味を持ってGoogle Booksで探してみたら、ありました。(二つ目のアドレスは"Jeremy Brett"でこの本の中を検索した結果のページです。)
http://books.google.com/books?id=d7m8gSLmjEQC&
http://books.google.co.jp/books?id=d7m8gSLmjEQC&q=jeremy+brett

ホームズの幻覚についての分析は24ページから27ページにあって、27ページに脚注の(3)として、その時のホームズの動き、音楽や効果音、ホームズの幻覚の内容がコマを追うようにして示されています。その中にこういう一節があり、私には意外なことが書かれていました。


ホームズがこちらに走ってくるのが二つの直立した岩の間から再びみえて、そして楕円形の鏡がそのイメージの手前、スクリーンの真ん中方向へ浮かぶようにあらわれる。それからホームズがクローズアップとなり、その背後は嵐のような空で、恐怖感が高まっていく。荒れ狂う波が少しの間あらわれ消えるのと同時に鏡がまたみえてくる。鏡にはジェレミー・ブレットの子供の頃の写真がうつる。だからおそらくそれはホームズの子供の頃を示しているのだ。

Again we see Holmes running toward us between the two uprights; then an oval mirror floats in front of that image to the center of the screen. A close-up of Holmes, with stormy sky in background, growing alarmed. Another glimpse of the waves appears, and fades out as the mirror fades in. The mirror itself then becomes a photograph of actor Jeremy Brett as a child, so presumably of Holmes as a child.



この最後のところで驚きました。あの写真はジェレミーの写真なのでしょうか?あまりに古めかしい洋服、雰囲気ですし、髪型もやはり古い感じがします。だから当時の誰かの写真をどこからか持ってきたものだと私は思い込んでいました。

Devils foot

それで、もう3年も前になりますがファンフォーラムでこれを尋ねたことがあります。皆さんは、これがジェレミーの写真だと思いますか?と。

それに対して、これはジェレミーのお父様の写真ではないか、ビクトリア朝風の写真だから、と答えてくれた人がいました。別の人が、これはジェレミーだと思うと言い、さらに、耳がジェレミーだ、と言う人がいました。

耳!確かにジェレミーの耳は特徴的なんですよね。前からみると、ちょっと耳の上がとがってみえます。そう言われてみればその通り、この子の耳はジェレミーの耳の特徴を備えています。でも、この洋服はあまりに古いものにみえませんか?

そうしたら、これは子供用のNorfolk jacketで、エドワード朝時代にはすでにすたれているスタイルだ、ジェレミーの写真をホームズの子供時代に相当する時期の写真に重ね合わせたものだと前から思っている、という人がいました。なるほど、切り貼りしたという可能性は考えていませんでした!たしかに顔の向きとからだの傾きが、ちょっと不自然かもしれません。

これをきいて、一気に7割9分、いえ今回これを書くために見直した後は9割3分くらいまで確信を持てるようになりました。この髪と洋服を手で隠せば、うん、確かにジェレミーにみえます。皆様はどうですか?もしかしたら以前から疑問の余地なく、これはジェレミーだと感じていたかたもいらっしゃるかもしれませんね。

マイケル・コックスが、幻覚シーンに興味がある人はこの本を読むようにと勧めているのですから、彼はもちろんこの本を読んだのでしょう。そしてこのシーンを含めてグラナダホームズを論じた章("Holmes Is Where the Heart Is: The Achievement of Granada Television's Sherlock Holmes Films")を書いたElizabeth Trembleyは直接マイケル・コックスに取材したようで、出典・引用元のリストの中にマイケルへの2回の個人的インタビューをあげています。また彼女は雑誌The Armchair Detective1992年第1号ではジェレミー、エドワード、マイケルの三人にインタビューしていますから、もしかしたらジェレミーにもこのシーンについて尋ねたかもしれません。この写真がジェレミーの写真だという彼女の記述の信頼性は、そう低いとは思えません。

写真を並べてみますね。2枚目は「四つの署名」からです。どうでしょう?

Devils foot2
Sign.jpg

RM
前回、ホームズがワトスンを「ジョン」と呼んだ時のことを、ジェレミーがどう話しているかについてご紹介したのですが、あの記事を読んでびっくりしたかたも、もしかしたらいらっしゃるかもしれないと後で思いました。2009年発売の宝島社DVDブック版の字幕では、ここは"John!"ではなくて"Done!"となっているのですよね。そして日本語字幕は「何と!」となっています。

それでは2012年のBlu-ray版ではどうなっているのでしょう。気になって調べてみました。ここの日本語字幕は何も無しで、英語字幕は相変わらず"Done!"です。そして吹き替えは言葉にならない唸り声でした。さらに調べると、2007年のアメリカDVD版も"Done!"、しかし2009年のイギリスDVD版では"John!"と正しく書かれています。

アメリカ版も"Done!"になっているということは、台詞を文字に起こしたものは各国で用意したのではなく、映像とともにイギリスから両方の国に提供されたのでしょうね。文字起こしをした人は、原作ではホームズは「ジョン」とは呼ばないことを知っていて、「ジョン」のはずがないと思い込んだのでしょうか。

2012年の日本のBlu-rayでこの箇所の日本語字幕をなくしたのは、従来のものが間違っていると気がついたから、と考えるのが妥当だと思いますが、それならなぜ「ジョン!」にせず、また英語字幕がそのままなのでしょう。修正もれでしょうか。

さらに同じ「悪魔の足」で、日本のDVDで文法的に明らかにおかしい"What where your plans?"となっているところがありますが、アメリカ版でも同様に間違っています。しかしイギリス版では原作どおりの"What were your plans?"で、日本のBlu-ray版でも同じです。ということは、日本でBlu-ray版をつくった時に、英語字幕を修正している箇所もちゃんとあるのですね。

ところで、アメリカでこの秋にBlu-rayが発売されるようです。
http://www.amazon.com/dp/B00L2YXV2W/
字幕が修正されて、ジェレミーの意図のとおり"John!"になるでしょうか。

これでBlu-rayは私の知る限りでは、日本、スペイン、フランス、ドイツ、そしてアメリカでの発売ということになります。
http://www.amazon.co.jp/dp/B008YRDQOI/
http://www.amazon.es/dp/B00DK9P9IG
http://www.amazon.fr/dp/B00D82H7MQ/
http://www.amazon.de/dp/B00HHO8WQG

グラナダ版のホームズが世界で愛されている証しと言えるでしょう。さあ、ホームズの本国イギリスでもはやくBlu-rayになりますように!もちろん日本のBlu-rayを持っていますから私には直接は関係ないとも言えるのですが、ホームズとジェレミーの故郷で、現在の最高画質の映像が手に入らないというのは残念ですし、もしも特典映像がついたらもう狂喜乱舞です。

RM
NHKでの放送、先週は"Devil's foot"(悪魔の足)だったのですね。それでこの作品に関するいろいろなことを思い浮かべていました。このブログでは、リハーサルの時のことと、コカインを捨てるシーンについてジェレミーがドイルの娘さんに承諾をとった話を書いたことがあります。
「悪魔の足」のリハーサル初日:The Black Box Clubのウェブサイトより

それ以外にもいろいろなシーンが思い出されます。たとえば、ホームズがワトスンを「ジョン!」と呼んだこともそうです。

David Stuart Daviesの本、Bending the Willowには短く、"[...] it was Brett who decided to cry out Watson's first name, 'John', when he emerged from his near-fatal experiment with the drug."(毒物の実験でほとんど死にかけて意識がもどった時に、ワトスンのファーストネーム「ジョン」を叫ぶと決めたのはブレットだった。)と書かれていますが、米国版DVD全集についていたブックレットにはもう少しくわしく、ジェレミーの言葉が引用されています。


毒によって半ば意識を失っていたホームズの目がさめた時、理性による抑制がはずれた状態で、友人のワトスンを思わずクリスチャンネームで呼ぶ。これは正典では起きなかったことである。議論を招いたこの瞬間について、ジェレミー・ブレットは雑誌Scarlet StreetでインタビューアのDavid Stuart Daviesにこのように言っている。

「ホームズはその時、意識が半分しかもどってなかったんですよね。彼がワトスンを『ジョン』と呼ぶなら、この時しかなかったのです。死に瀕したような危険な状況では、ホームズは『ジョン』と呼ぶかもしれないと思います。それでまた別の見方が生まれます。僕がホームズに『ジョン!』と言わせたのは、彼のこころの奥底は、よく言われるような『理性だけで感情がない』というのではなく、ちゃんと何かがあることを示すためでした。」

When Holmes awakens from his drugged stupor, he's so out of control that he calls his friend and companion by his Christian name, something that never actually occurred in the canon. Jeremy Brett defended the controversial moment to Scarlet Street interviewer David Stuart Davies.

"Well, Holmes is semiconscious at the time, right? It really was the one time that he could call him John. I think in extremis he might have said 'John.' It gives another slant to it. I slipped in 'John' just to show that, underneath it all, there was just something more than what they say, that Holmes is all mind and no heart."


From the DVD booklet for "Sherlock Holmes: The Complete Granada Television Series", 2007
By Richard Valley


ジェレミーは、普段のホームズは友人のことを「ワトスン」と呼んでいても、意識がもうろうとした状態、身体的に危険な状況では、思わず「ジョン」と呼ぶだろうと思っていたのですね。

RM


----- ----- ----- ----- -----
昨日7月1日の、憲法解釈変更の閣議決定は衝撃でした。私にとって二つの衝撃がありました。一つは国の憲法の特に大切な部分の解釈が、ある一人の人の力によって、国民にも議会にもはかられずに変更された、という点です。それではこの国は立憲国家でも民主主義国家でもないのでしょうか。

二つ目は、他国に出て行って人を殺さねばならない若者、殺される若者が出る可能性と、自国にいてさえ報復攻撃で死ぬ人間が出る可能性が高まったことです。

これからの動きを見続けること、次の選挙まで忘れないことが必要だと思います。現政権のおかげで景気がよくなったとしても、給料や時給があがったとしても、一つの国にとって本当に大切なのは、そんなことなのでしょうか。私はそうは思いません。

RM
グラナダ版の221Bの部屋にあるものとして、カーテンMason's Blue Mandalayの食器のことを以前に書きました。コーヒーカップは毎日使っています!あの柄の食器をあつかっていて、写真をたくさんみることができるサイトとして私が書いたアドレスや、トイカメラで自分のカップを撮った、あのぼけぼけの写真が、最近ロシアのジェレミーファンのコミュニティに転載されていて、びっくりしました。ちゃんとここのアドレスも書いてくれていました。

221Bの部屋にあるものとしてさらに思い浮かぶものの一つは、暖炉の上の滝の絵です。画素数が比較的大きいファイルとして私が知っているものをご紹介します。1145 x 1660 の190万画素ですから、暖炉の上にかける大きさは無理でも、2L判くらいまでなら印刷できるでしょう。カナダのToronto Public Libraryの、ホームズ関係のコレクションの中にありました。このコレクションの一部はFlickrで公開されています。その中には例えば"Sherlock Holmes in Japan" なんていうのもあります。
https://flic.kr/p/7owa8D

ホームズ以外のコレクションも、ながめるとなかなか楽しいです。図書館の58のアルバムセットのタイトルを並べたページはこちらです。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/sets/

それでは本題の、あの滝の絵です。あの絵がグラナダ版の221Bの暖炉の上に飾られるようになったいきさつについては、以前こちらに書きました。
暖炉の上の滝の絵;A Study in Celluloidより
補遺、備忘録 その1

あの絵(正確には版画)はこちらです。1835年の作品で、タイトルが"Upper Cascade of the Reichenbach"、原画を描いたのがW.H. Bartlettで版画にしたのがJ.T. Willmoreだそうです。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8347100528/
最大のサイズでのダウンロードはこちらからどうぞ。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8347100528/sizes/o/

原画を描いたW.H. Bartlettについてはここに説明があります。
http://www.vintage-views.com/upper-cascade-of-the-reichenbach-canton-bern-in-switzerland-1835-swiss-view.html
1836年には色付きのものも発行されたようです。でもグラナダ版では白黒を使っていましたね。
http://www.ancestryimages.com/proddetail.php?prod=g7580

このコレクションで、もう一つうれしいのは、パジェットの原画を一枚持っていて、比較的大きいファイルをダウンロードできるようにしてくれていることです。"The Adventure of the Cardboard Box" からです。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8345811615
こちらがダウンロードできる最大のサイズ(1920 x 1297)です。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8345811615/sizes/o/
その他、ホームズとモリアーティの決闘の場面があります。これは原画ではないですね。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8346045675
最大画像はこちら。
https://www.flickr.com/photos/43021516@N06/8346045675/sizes/o/

パジェットの原画と言えば、ご存知の方も多いでしょうが"Silver Blaze" の挿絵の原画がオークションにかけられるというのが話題になっていました。
http://www.bestofsherlock.com/ref/black-peter-christies-2014.htm#paget2
この記事は5月末に書かれたもので、ここには6月にオークションにかけられると書いてありますが、その後のニュースをきかないので、多分オークションはまだなのでしょう。グラナダ版でもBBC版でも、この挿絵を意識した写真がありましたね。こちらはグラナダ版の写真の内の1枚です。(ただしリンク先のJeremy Brett Informationの画像は、名前のつけかえによってかわる可能性があります。)
http://jeremybrett.info/Holmes_C/images/Colour_Holmes%20%2867%29.jpg

RM

 RM

Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

全ての記事を表示する

04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08 

QR