Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

昨日急に思い立って "David Burke" でネットを検索してみたら、いまちょうど公演中でした。お元気で仕事を続けていらっしゃるのがうれしくて、劇場のウェブサイトとそこにある写真をご紹介します。

ウェブサイトがこちらです。
http://www.donmarwarehouse.com/whats-on/donmar-warehouse/2013/roots

Arnold Weskerが1959年に書いた "ROOTS" というお芝居です。公演は10月3日に始まっていて、11月30日までだそうです。各紙の劇評もよいようで、このウェブサイトのページで短く引用されている3つの批評では、星が4つ、5つとついています。

このページには写真があって、その中でデイビッドが写っているのは、リハーサルと公演、それぞれ1枚ずつです。

公演の時の写真はこちら、リハーサルの写真がこちらです。(この二つのリンク先のアドレスの最後の6文字を削ると、ものすごく大きな写真になります。コンピュータのコードに無知でよくわからないのですが、大きな写真をアップロードしているけれども、この6文字を加えることで、普通にネットでみる時には大きさを制限しているということでしょうか。)

1枚目、がっしりしたからだつきが、よくわかりますね。2枚目、ぼんやりした表情ですが、これは役の上でしょう。

舞台のお芝居では、劇場の隅々まで舞台上の表現を届けることが要求されて、それはおそらくとてもエネルギーがいることなのだろうと想像します。デイビッドが今もコンスタントに舞台に立ち続けていらっしゃるのは、なんと素晴らしいのでしょう。昨年の秋と2009年のお芝居については、「David Burkeのお誕生日です」の記事でご紹介しました。



同じ劇場での2010年の芝居もご紹介しましょう。"THE PRINCE OF HOMBURG" という1809-10年の戯曲からの芝居で、上の劇とは違ってコスチューム劇なので、また違った格好よさがあります。

写真が載っているページはこちらです。

これが公演時の写真、これがリハーサル時のものです。リンク先のアドレスの最後の6文字と写真の大きさの関係については、先程のページと同様です。1枚目、堂々とした姿です!2枚目、衣装はつけずに、手に台本とペンを持ったリハーサル風景です。

今日の4枚の写真を見て、お年を召してさらに格好よくなられたと感じました。どうぞこれからも、私たちにお元気な姿を見せて下さいますように。

RM
"A Study in Scarlet" を読みました!」の記事で、著作権が切れているので無料で読めるホームズのeBookと、英国の俳優が朗読していて無料でダウンロードできるaudiobookをご紹介しました。でもその後、挿絵つきで読みたくなりました。パジェットの挿絵も(全部かどうかは知りませんが)パブリックドメインになっていますので、挿絵付きの無料のeBookがあるのではないかと思ったのですが見つかりませんでした。そこでAmazonで購入したのがこれです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00C2YEVV6

北米アマゾンの同じ本は中を覗けるようになっていますので、そちらのアドレスも参考までに。
http://www.amazon.com/dp/B00C2YEVV6

なんと300円で、全作品をイラスト付きでKindleで読むことができます。Sidney Pagetとそれ以外の画家がストランド誌に描いた全イラストが含まれていること、その他にアメリカでのFrederic Dorr Steeleのイラストが17枚ついていること、事件の年代順のリストがあって、そこから簡単に該当する作品に飛べることなどが魅力です。

楽しく読んでいてある時びっくりしたのですが、"The Speckled Band"にパジェットが描いた挿絵の一枚で、ホームズが右腕を背中にまわしていました。

Spec-04.jpg
Source: http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Spec-04.jpg

片方の腕を背中に軽くまわすのは、ジェレミーのホームズで印象的で、この仕草についてはトビィさんがコメント欄に書いて下さったのがきっかけで、「あっ、これ、癖だったみたいですね!」に書いています。ジェレミーが20代の頃にも映像の中でこれをしていたことは、「ジェレミーの仕草;Girl in the Headlines (1963) から」で触れました。また「ジェレミーの仕草(3); The Prodigal Daughter (1975)」で書いたように、その後の作品でも同様です。でも、パジェットの挿絵でこの仕草のホームズを描いたものがあるということを、私は知りませんでした。

映像の中では、この挿絵のシーンそのままは出てきませんでした。ロイロット博士が部屋に入って来てホームズと対決した時、ホームズとワトスンは並んではいませんでしたから。でも宣伝用のスチルにはこのシーンの写真があります。アメリカのアマゾンで、北米版DVD全集のページ(http://www.amazon.com/dp/B000RPCJB6)に6枚ある写真の内の1枚です。以下は写真への直接のリンクです。
http://g-ec2.images-amazon.com/images/G/01/dvd/Sherlock/sherlock-center-bottom-LARGE.jpg

挿絵と同じ位置から撮るためには、カメラの位置に無理があるので、逆から、つまりホームズの右手側から撮っていますね。そして挿絵ではホームズは左手を前に出し、右手を背後にまわしていますが、写真ではジェレミーは右手を前に出しています。これはカメラの位置が逆になったためでしょう。そして写真での左手は、と見ると、ちょうどワトスンに隠れて見えないのです。残念!でも挿絵にあわせて、腕を背中にまわしていたのではないでしょうか。ここはそう思いたい気持ちです。

この写真は以前からよく知っていましたが、ジェレミーのホームズの見えない左手が、背中にまわされていたかもしれない、と思ったことはなかったので、この挿絵は私にはちょっとうれしい発見でした。ジェレミーも、自分の以前からの仕草を挿絵にみつけて、喜んだでしょうか。これ以外にこういう挿絵があるか、今後も気をつけながら読んでいこうと思います。

RM
前回の記事を書いていて、Michael Coxの "A Study in Celluloid" の表紙の写真を思い出しました。eBayに出品された時の、本の表紙の画像を載せます。
A_Study_In_Celluloid1_Cover.jpg

第二版では表紙は別の写真に変わりましたが(「"A Study in Celluloid" 第二版」の記事に載せています)、二つの版のどちらにも本の中にこの写真が載っていて、そこには "Jeremy's favorite picture of himself as Sherlock Holmes" (シャーロック・ホームズを演じている自分の写真でジェレミーが特に気に入っていたもの)という説明がついています。

こちらのサイトにはその写真の大きな画像があります。
http://www.listal.com/viewimage/891966h

これは「踊る人形」でキュービットが死んだと駅できいた後、屋敷に向かう馬車の中のホームズだと思うのです。駅では雨は降っていませんでしたが、馬車で向かう途中、そして屋敷で馬車から降りた時は冷たい雨が降っていました。でももしも、他の作品を思いつかれたら、どうぞ教えてください。以下は「踊る人形」のあの場面という仮定のもとに書いています。

ジェレミーがこの写真を好んだのは、一面に水滴でおおわれた窓の向こうのホームズをとらえるという、雰囲気のある画面のつくりと、前回の記事でご紹介したインタビューから言葉を借りれば、「大理石の彫像に割れ目を入れた」ようにホームズの内面が馬車の窓越しにみえるからなのでしょう。それではこの時のホームズの内面とは、どのようなものなのでしょうか。

この表情は、映像の時とはまたニュアンスが違っていて、実に不思議な、複雑な表情に感じます。映像での私の印象は、目が虚ろで、でも内面では何かが静かにすごい速さで動いている、という感じだったのですが、この写真は、虚ろなだけでなく微笑んでいるようにさえ感じます。衝撃を受けた後の諦念、と言うと言い過ぎでしょうか。

さらに、物語における状況は脇において写真としてだけみると、「アルカイック・スマイル」という言葉さえ浮かんできます。想念が地上を離れてしまったような表情にも思えます。

それにしても、もしも私達がジェレミーのホームズで好きな写真を選ぶとすると、こういう一枚は入らないような気がします。これを選ぶのは演じる本人ならでは、ジェレミーならではとも言えるのかもしれません。その意味でも、興味深い写真です。

もう一枚、これもやはり同じ時の写真だろうと思います。こちらは馬車の窓越しだということが、はっきりわかるように撮られています。

http://www.listal.com/viewimage/891976h

RM
昨夜のNHKでの放送はご覧になりましたか。私は観ることができる環境にないので、NHKで放送が始まってから第一回(10月6日)の「ボヘミアの醜聞」を観たきりなのですが、目の前のテレビ画面にジェレミーのホームズが久しぶりにうつっている、そして全国でたくさんの人と一緒にあの画面をみているという、その時の幸せな気持ちを毎週思い出しています。昨夜は「海軍条約事件」でしたね。

「海軍条約事件」についてジェレミーが話している部分が、先日「ホームズとワトスンの友情」というタイトルで書いた時にご紹介した"The Armchair Detective"という雑誌のインタビューの中にあります。その前の「踊る人形」の部分も含めてご紹介しましょう。


"Interview with Jeremy Brett"
By Rosemary Herbert
The Armchair Detective, vol.18, no.4, 1985

Brett: ホームズが失敗する時を演じるのが好きです。そういう時にホームズの人間的な面が出ます。たとえば「踊る人形」でホームズが駅について、キュービットが撃たれて死んだ、ときいた時、彼はいつもの平静さを失います。依頼人が死んだ!彫像のようなホームズの内面をのぞかせるシーンが好きです。

Herbert: 他に思い出に残るシーンはありますか?

Brett: 「海軍条約事件」が特に好きなのですがその理由をお話しましょう。ホームズが抽象的な言葉で宗教への共鳴を語った唯一の時だからです。ホームズはバラに関して素晴らしいことを唐突に語り始めます。驚くべきことです。この世をこえたものについても語ります。原典の中でこの時だけです。この短編でドイルが英国の階級制度を馬鹿げたものだとしているのも、とても好きです。この話は私の気持ちによく添っています。


Brett: [...] What I love [as an actor getting into the part] are the moments when Holmes fails, because that makes him human. Now, for example, in "The Dancing Men," when he arrives at the station and hears that Cubitt's been shot. He's absolutely off kilter. His client is dead! I like scenes showing cracks in the marble. [...]

Herbert: Were there any other moments which are particularly memorable for you?

Brett: I'll tell you why I liked "The Naval Treaty" so much. It is the only time when any metaphysical religious identification takes place. [Holmes] makes a remarkable, quite non-sequitur speech about a rose. This is very surprising. And he does talk about a hereafter. It's the only time in the Canon that he does. [The story] was also very much up my street because it's Doyle's knocking of the English class system. That one was very near to my heart.



「踊る人形」で、雨の中をキュービットの屋敷に向かう時のホームズのあの表情、見事でしたね。衝撃を受けて目が虚ろ、でも多分彼の頭の中はその時虚ろな訳ではなかっただろう、と思わせるものがありました。

「海軍条約事件」のバラのスピーチをジェレミーがとても好きだったということは、Jeremy PaulもMichael Coxも書いていました。以下はJeremy Paulの追悼文からです。


Scarlet Street, vol.21, 1996

ジェレミーは原作の中の哲学的な面を演じるのを楽しんだ。「海軍条約事件」のバラのスピーチを特に好んだ。ホームズは自身が生きた世紀末のことだけでなく、我々が生きている20世紀末のことも語っていると、ジェレミーは固く信じていた。

He relished also the philosophical moments in the Canon. The "rose" speech from "The Naval Treaty" was a particular favourite—and he carried forward the notion with total conviction that Holmes was speaking for the end of our 20th century as well as his own.



上のThe Armchair Detectiveのインタビューでの、バラのスピーチに対するジェレミーの言葉をきちんと理解して訳しているか、完全な自信はありません。英語の原文もどうぞご参照ください。特に"He does talk about a hereafter" のところの解釈は迷いました。hereafterは辞書では「〖単数形で; 通例the ~〗あの世, 来世.」となっていました。そしてバラのスピーチの中に、直接的に「あの世」に言及した部分はありません。だからまったく違うふうに訳してしまっている恐れも皆無ではありません。でもジェレミーは十六歳で死の淵の手前まで行ってから、この世のかたちあるものをこえたものを信じていただろうと思っているので、「この世をこえたもの」と訳しました。

宗教というのは、大切なものはこの世で価値あるとされているものだけではない、ということを示してくれるものだと思います。バラのスピーチで言えば、「力だとか欲望だとか食物だとか」をこえるものです。もちろん宗教だけがそれを指し示してくれるわけではなく、また言うまでもなく宗教のもたらす害もあるのですが。ジェレミーはそれぞれの宗教、それぞれの宗派について、柔軟な立場をとっていたと思っています。たとえば母親がクェーカーで、兄は英国国教会の聖職者、自身は仏像を傍らに瞑想する、ということからも。

ジェレミーの十六歳の時のことは、以前この記事で触れました。
大病の後に;インタビュー記事 When the lights went out (1990) より

さて、ジェレミーは「海軍条約事件」が好きな理由として、ドイルの階級制度に対する考えが自分と近いことにも触れています。これについては具体的に述べていないのでわかりにくいのですが、Michael Coxは"A Study in Celluloid"の中で、ジェレミーは俳優が持つ知性と理解力で、この物語のサブテキスト(作品のおもてにみえる主題の後ろに隠れた別の主題)に気がついたと書いていて("He brought an actor's intelligence to the series, and that prompted him to unearth a fascinating subtext in this particular story.")かなりくわしくその内容を述べていますが、それについては別の機会に譲ります。

この記事を書くために、あらためてバラのスピーチを読み直したので、覚え書きもかねて、最後に原文と延原謙訳を引用しておきます。


"What a lovely thing a rose is!" [...]

"There is nothing in which deduction is so necessary as in religion," said he, leaning with his back against the shutters. "It can be built up as an exact science by the reasoner. Our highest assurance of the goodness of Providence seems to me to rest in the flowers. All other things, our powers our desires, our food, are all really necessary for our existence in the first instance. But this rose is an extra. Its smell and its color are an embellishment of life, not a condition of it. It is only goodness which gives extras, and so I say again that we have much to hope from the flowers.

「バラの花ってきれいなものですね」(中略)

「およそこの世に宗教ほど推理を必要とするものはありません」鎧戸にもたれかかりながら彼はいう。「宗教は推論家によって一つの厳正科学にまでまとめあげられます。神の真髄の最高の保証は、花のなかにこそ見られるのだと私は思う。そのほかのもの、力だとか欲望だとか食物だとかは、われわれの生存のため第一に必要だけれど、このバラは余計なものです。バラの香りや色は人生の装飾でこそあれ、必要な条件ではありません。その真髄は余分のものを与えるところにある。だから私は、花にもっともっと期待すべきだと重ねていうのです」



RM
図書館で光文社文庫の「新訳 シャーロック・ホームズ全集」の数冊をめくっていたら、「事件簿」(アマゾンではこちら)の最後に、漫画家の坂田靖子さんが「読者たちのホームズ」という文章を書いていらっしゃいました。全集のそれぞれに、「私のホームズ」というお題でいろいろな人が文を書いていて、その内のお一人でした。

漫画家の坂田靖子さんの作品を私は大好きで、ナツミさんのブログの記事がきっかけで、そのコメント欄で坂田さんについてのお話が盛り上がったことがありました。こちらの記事です。
ビリーは二人いる

坂田さんが、パスティーシュの「わが愛しのホームズ」の表紙を描いていらっしゃること、ご自身のウェブサイトに書かれた「影響を受けた作家・アーチスト」の中に「シャーロック・ホームズ」が挙がっていること、ホームズを描いた短編もあることをナツミさんのところで教えていただきました。その坂田さんがホームズ全集に何か書いていらっしゃる!大喜びで読みました。そしたらなんと、ジェレミーのことも、文章の中で触れられていました!わーい!

全体は6ページです。そのうちで、ジェレミーについて書かれているところを引用します。


 ちなみに、非常に人気のあった英国のテレビシリーズの「シャーロック・ホームズ」も、私は非常に楽しく拝見していた。
 主人公がなかなかのホームズぶりで、「イギリスの役者さんは、やっぱり渋くて落ち着いてていいなぁ」などとニコニコして観ていたら、若い頃にあの名画「マイ・フェア・レディ」で貴族のヘンなバカ息子フレディを演じていたと聞いたときはガクゼンとした。
 私は「マイ・フェア・レディ」のファンで、百回以上は観ているはずなのに、同じ人物だとは全く気がつかなかったのだ。
 教えてくれた友人に何度も聞き返し、フレディとホームズの写真を並べて見比べ、それでもまだ信じられなかったことは、恥ずかしいので内緒にしておく。
 しかし、これで何となく思ったのは、「ホームズが若くてハンサムな青年じゃなくてよかったかもしれない......」という事だ。
 イギリス人は中年以降が勝負かもしれない。


わはは、坂田さん、「貴族のヘンなバカ息子」ですか!「貴族のバカ息子」までならまだわかりますが、「ヘンな」までついちゃいました。フレディとホームズの両方をジェレミーが演じていることを知った時、私は信じられずにコンピュータの前で思わず「えーっ?!」声をあげましたが、坂田さんは写真を並べて、ためつすがめつして、自分を納得させようとなさったのですね。それでも信じられなかった...!

「イギリス人は中年以降が勝負かもしれない」の一文でまたにっこり。つまりはホームズの頃のジェレミーの方が、若い頃よりお好きだということ、ジェレミーは歳を重ねて「勝負あった!」ということですよね。うれしいです!私も40代以降のジェレミーがすごく好きです。でも、若いジェレミーも私はだんだん好きになったんです、と一言付け加えさせて下さいませ。



引用したこの部分の前には、小学生の頃に読んだ児童書のホームズのこと、そして後ろには、グラナダ版のベーカー街の部屋について書いていらっしゃいます。それが最終的に「読者たちのホームズ」というタイトルで書かれたこの文章のテーマに収束するのですが、そこはどうぞ皆様、光文社文庫の「新訳 シャーロック・ホームズ全集」を手にとって、ご自分でお読みくださいませ。「この世の中には、読んだ人の数だけホームズが出来上がっていくことになる」という、最後の方の一文へとつながっていきます。

ジェレミーは、ホームズのことが大好きな人たち、ホームズに夢中な人たちはそれぞれにホームズのイメージを持っていて大切にしているので、それを壊してはいけないと思っている、という意味のことをインタビューで言っていました(後でみつけたら、引用して出典を書きます。追記:下に書きました)坂田さんが書かれているように、読んだ人の数だけできあがったホームズ、でもジェレミーのホームズをみたとたん、多くの人が自分が思い描いていたホームズが本の中から現れたように感じるのですよね。ジェレミーは本当に素晴らしい作品を私たちに残してくれました。

坂田さんの文章を読んで、坂田さんがジェレミーのホームズもお好きなことを知って喜ぶとともに、あらためてジェレミーのすごさを感じました。

RM

追記:ウェブサイト Brettish Empirerにありました。出典もこちらに書かれています。
http://www.brettish.com/Quotes_of_Note.html

 "There is a tremendous delicacy in preserving Holmes in other people's imaginations because there are a million different ways of seeing him. You try not to interfere with anybody's image."
前回からの続きで、同じインタビューからの引用です。最初の段落、原文はとても長いので、訳文では改行を2回入れました。


Herbert: どんなふうにワトスンの性質を演じようと、二人で決めたのですか。

Brett: 私たちはこんなふうに自問してみました。「ホームズと一緒にいられる人って誰だろう?そう、ワトスンは一緒にいる。でもそれなら、どうして彼はホームズのそばにいるのだろう。」彼は推理にこころ奪われているのです。自分がアフガニスタンから戻ったところだとホームズが知っているのに驚いて、その驚きは消えずにずっと続いています。でもそれだけではありません。ホームズは一緒に住むには最悪の人間なんです!私にわかったのは、私は「演ずる役の寝具の下」という言い方をするのですが、外からは見えないところでどういうわけかワトスンは、ホームズという人間が何を必要としているかを知っているということです。

何より、ホームズは事件がないと精神的にやられてしまいます。これは演じるのはたやすいのです、俳優もそうですから。我々も突然仕事がなくなると、ひどい状態になってしまいます。でもホームズはどうするのでしょう?直接静脈に7%のコカインを打つのです。煙草をひたすら吸って、バイオリンをギーギー鳴らします。化学実験をして、注意が足りないと周りの人を吹き飛ばして粉々にしかねないのです。「孤独な自転車乗り」の時のように、ベーカー街221Bで火事を出しそうになります。だから彼は素晴らしい友人であると同時に問題児なのです。

ワトスンはそれをわかっています。ワトスンはホームズが「ありがとう」と言えないこともわかっています。「お休み」とも言えない、「助けてくれ」とも言えない。でもホームズは時にちょっとした優しいことをするのです。「ボヘミアの醜聞」でワトスンにこう言います。「君が帰ってくるのはちゃんと覚えていたよ。葉巻を用意しておいた。」そしてこういうのは小さいことですが、とても意味があることなのです。私はホームズが本当にどれほどワトスンを必要としているかを、実際にそれを言葉で言うのでなく示そうとしました。

ホームズは死んでしまうと思うんですよ、(ジェレミーは目をきらきらさせて)つまり二人が実在の人だとしてですが、もしもワトスンがいなかったら死んでしまうと思うのです。もしワトスンが突然ホームズの元を去って、たとえばマダガスカルに住むことになったら、ホームズは6週間もたたずに死んでしまうでしょう。そんなふうに私たちは演じることにしたのです。


Herbert: What sort of decisions did you make about the Watson character together?

Brett: We asked ourselves, "Who'd stay with Holmes? Well, Watson does. But therefore why does he stay?" All right, he's fascinated with deduction—he still has never recovered [from his surprise at] Holmes's knowing he had just come back from Afghanistan—but there's more than that. [Holmes is] an impossible person to share rooms with! I think that what I found in what I call the under-bedding of the part is that somehow Watson see this man's need. First of all, Holmes falls apart when he's not working. Well, that's easy to play because actors do that-we all fall apart, really, when we're suddenly made redundant. But what does Holmes do? He actually shoots up, straight to the vein, the seven-percent solution. He smokes too much. He scrapes on his violin, not very well. He does chemistry—nearly blows people to pieces if he's not very careful or, as happens in "The Solitary Cyclist," nearly sets fire to [221B] Baker Street. So he's obviously a problem child as well as a brilliant friend. Watson sees that. Watson see that Holmes can't say "Thank you"; he can't say "Good night," can't say "Help." But what Holmes does occasionally is rather sweet little things like in "A Scandal in Bohemia" he tells Watson, "You see, I did remember you were coming; here are your cigars." And it's the little things that mean a lot. I tried to show how much Holmes does actually need Watson without actually saying it.

I think that Holmes would be dead—(with a twinkle in his eye) I mean, just pretending that they were real people—if Watson weren't there. If Watson suddenly decided to go and live, let's say, in Madagascar, Holmes would be dead inside of six weeks. And that's what we chose to play.


ホームズとワトスンの関係を魅力的に話してくれていると感じます。特に "Holmes can't say 'Thank you'; he can't say 'Good night,' can't say 'Help.'" という繰り返しのところ、そしてそれをワトスンはちゃんと理解しているというところは、初期のホームズと、デイビッドのワトスンを思い浮かべると、ああ本当にそうだなあと思います。一見自信満々、強気にふるまい、ワトスンをリードするホームズ、でもその裏にはこういう関係、ワトスンのホームズの性質に対する理解がありましたね。

さて、今日は「踊る人形」ですね!

RM
ホームズとワトスンの友情について、ジェレミーがインタビューで語っていることは、時期によって違っていると感じています。それが原作の解釈がジェレミーの中で変わっていったからなのか、そのように演じたいというふうに気持ちが変わっていったのか、それともインタビューで同じ答え方をするよりも、違う角度から話したくなったのか、私にはまだよくわかりません。わかる時は来ないかもしれませんね。ホームズは一筋縄では行かない複雑な人ですし、ジェレミーもまたそうだと感じますから。

私は上にあげた三つの理由は、それぞれ程度は違ってもすべて当てはまるように感じています。そしてさらに、病気も原因の一つになって、その時々でジェレミーの気持ちが揺れていた、ということもあるかもしれません。インタビューアがそれに類する推測を書いていた例を二つ知っています。一人はインタビューの中での揺れ、もう一人は複数のインタビュー間での揺れを言っていました。

でも、英語のニュアンスが全く理解できない私が、こんなふうに推測の上に推測を重ねるのはおかしいと思われるかもしれませんね。私はただ、ものすごく遠くからであることを承知で、ジェレミーの気持ちを感じたいと思っているだけです。

さて、それではホームズとワトスンの関係について話している、あるインタビューをご紹介しましょう。「最後の事件」を撮り終えて、二度目の奥様のJoan Wilson のいるアメリカへ戻った間の1985年4月にニューヨークで行われたインタビューからの引用です。


"Interview with Jeremy Brett"
By Rosemary Herbert
The Armchair Detective, vol.18, no.4, 1985

Herbert: シリーズでのホームズとワトスンの関わりあいかたがとても好きだったのですが、David Burke(デイビッド・バーク)とどんなふうにこの二人の関係を表現したか、話してくださいますか?

Brett: 二人で話して、いろいろなことを考えたのですよ。デイビッドの性格と私の性格からすれば、私はとにかく誰かに少し寄りかかることになります。ホームズのような役がこわいのは、孤独に陥りがちだということで、これはとても危ないことだと思います。本当にこう言えるか確かではありませんが、この役を演じた役者の多くが誇大妄想気味になったと思います。たった一人でホームズを演じようとするのです。私は一人を好む性格ではないので、これはとてもむずかしい、だからこの役はとてもむずかしいのです。

H: あなたとデイビッドはセットかどこかで、二人の役をどう演じるか相談したのですか?

B: (スタジオがある)マンチェスターはロンドンから150マイル離れているので、そこまで列車で2時間半の旅なんです。何度列車でかよったことか!


Herbert: I loved the interaction of Holmes and Watson in the series. Can you tell us how you worked on this with David Burke?

Brett: We talked and munched it through. The very nature of David and the very nature of me means in any case I'm going to be leaning a little bit on somebody. A part like that can be very frightening because you're so alone. I think this is the great danger. I'm not sure that it's true, but I think that many actors who have played this part have become megalomaniacs to a degree. They try to do it alone. By the very nature of my not being a loner, I find that very difficult; that's why I find the part so difficult.

Herbert: Did you and David discuss your parts on the set or elsewhere?

Brett: Well, Manchester [where the studio is located] is one hundred and fifty miles from London, so we had about a two-and-one-half-hour train journey—and God knows how often we made that!



ジェレミーとデイビッドは、列車の中でどんな話をしていたのでしょう。俳優どうしの話、ホームズとワトスンをどう演じるかの議論、きいてみたかったですね。そして友人としての二人の会話も。ホームズの話ではありませんが、こちらで、列車の旅での楽しい逸話をデイビッドが話しています。
いたずらっ子ジェレミー(とデイビッド)(2)

このインタビューではここからさらに、ホームズとワトスンについて話しています。

RM
これがeBayに出たのは、今年の春ごろだったでしょうか。221Bの玄関のいたずら描きがかわいいですね!

JB221b.jpg

1981年に描かれたもののようですね。"A Study in Celluloid" によれば、グラナダテレビでホームズを演じないかという話をジェレミーが最初にきいたのは、1981年の秋だったそうです。

Like Dr Watson I have a poor head for dates, but I am reasonably sure that Jeremy and I first talked about Holmes in the autumn of 1981. We met for dinner at a restaurant in Charlotte Street: Jeremy, his son David, Doreen Jones and I.

一方、ジェレミーがワトスンを演じた "The Crucifer of Blood" は1981年1月17日までの上演でした。この絵が秋以降に描かれたのなら、ホームズを演じることが頭にあったからと想像できますし、秋より前なら1月まで舞台でワトスンを演じたことを思い出しながら、ということになりますね。単純に確率を考えれば、後者の可能性の方が大きいということになりますが、さてどちらでしょう。

この日付を調べていて意外だったのは、ワトスンを演じた時とホームズの話が持ち上がった時がこんなに近かったのか、同じ年だったのかということです。

そしてもう一つあらためて思ったのは、こんないたずら描きをするくらい、探偵とその友人が住むベーカー街221Bは、1981年の時点ですでにジェレミーのこころに確かな位置を占めていたということです。そのことはジェレミーのホームズを愛する私たちにとっても、うれしいことですよね。それがたとえ、ジェレミーが自分が演じる対象としてホームズを見つめ直す前、つまりグラナダ版の計画をきく前であっても。

いえ、もしホームズの話がある前だったのなら、ジェレミーはこの時すでにホームズを演じる運命にあったのだ、演じるべくして演じたのだ、と思いたくなります。



さて、NHKでのハイビジョン・リマスター版「シャーロック・ホームズの冒険」の放送が間近になりましたね。ウェブサイトはこちらです。
http://www4.nhk.or.jp/sherlockholmes/

わあ、そしてこんなページもいつの間に!「秋の夜長はシャーロック・ホームズ三昧」(「ドキュメンタリーなどが続々登場」ってどういうことでしょう?! )
http://www2.nhk.or.jp/navi/holmes/


うれしいですね!実は私は「あまちゃん」も「半沢直樹」も一回も観ていないというテレビと無縁の生活なので、これも観ることができないのですが、でもこうして久しぶりにテレビで放映されて、楽しみにしている方がたくさんいらっしゃるのが、とてもうれしいです。私もこれにあわせて、Blu-rayで観ましょうか。

私が宝島社DVDムックの発売がきっかけで、ジェレミーのホームズと再会して今に至っているように、日本中のたくさんの方がこれを機会に懐かしいホームズを堪能し、あるいは新しく出会って、この作品の素晴らしさとジェレミー・ブレットという俳優の魅力を感じる時が間もなく来るのを、わくわくしながら待っています。

RM

 RM

Author: RM
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和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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