Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

先日は1961年6月24日にスコットランドのグラスゴーの新聞に載ったハムレット評を引用しましたが、それ以外にネットで読める比較的長文の劇評としては、雑誌The Spectatorの1961年6月29日付けの記事があります。下記アドレス中には"30th-june-1961"という文字が含まれていますから、30日発売の雑誌だったのかもしれませんね。

"Not Single Spies"
By BAMBER GASCOIGNE
The Spectator, June 29, 1961
http://archive.spectator.co.uk/article/30th-june-1961/15/theatre

記事では、まずこの作品全体、特に演出についての評価が書かれています。その後の、ジェレミーの演技について触れているところを引用します。この劇にくわしくないので、ハムレットの特質の描写での訳語に不安があります。大きな間違いがないことを願っています。

ジェレミー・ブレットのハムレットは、この作品全体やその演出と同様に理知的でまっすぐだ。彼はこの戯曲の現代の読者がハムレットの中にみるであろう特質を、その演技の中にすべてあらわしている。探究心に富んだ若者が持つ知性、陰に惹かれるこころ、何の役にもたたない自己批判、自己顕示欲、突然の愛情の発露、そして何よりもその情熱とエネルギー。もしも19世紀のハムレットが青白い顔をしたロマンチストであるなら、20世紀のハムレットは躁鬱的だ。宮廷で欺きをしかける時の気持ちの高揚から、気鬱に満ちた独白へと感情が揺れ動き、そして再び気持ちの高ぶりへと跳ね上がる。(略)このハムレットという若者をジェレミー・ブレットは完璧にあらわしている。これまでに高名な俳優たちが自分の考えるハムレットを私達に示してきたが、ブレットは私達自身のハムレットを目の前にみせてくれる。

Jeremy Brett's Hamlet is as intelligent and straightforward as the production. He plays those qualities which a modern reader finds in Hamlet—his probing student intelligence, his taste for gloom, his bouts of ineffectual self-criticism, his exhibitionism, his talent for sudden and unexpected bursts of affection, and, above all, his exuberance. If the typical nineteenth-century Hamlet was a pale romantic, the twentieth-century is a manic depressive, plunging from his hectic baiting of the court to the dejection of the soliloquies and then soaring back again. [...] Jeremy Brett catches perfectly this creature. Where greater actors have given us their Hamlet, Brett presents ours.


昔の悲劇の中のロマンチックな主人公としてではなく、現代の若者にも通じる複雑さを持つ、生きた人物として我々がとらえるハムレットそのものを、ジェレミーが見事にあらわしている。名優と言われる人たちからハムレットを与えられるのではない。私達が考えていたハムレットが私達の目の前で生きている。そういう評価です。

ジェレミーは若い頃から、その演じる姿をみたとたんに、自分がこころに描いていた人物そのものだと多くの人に思わせる、希有な俳優だったのですね。ホームズに関して、文字で読んでいたシャーロック・ホームズがまさに私達の前で生きていると感じる、それと同じように。

RM
前回の記事で、「ジェレミーがどんなだったかも想像できますね」と書きましたが、ホームズを演じているジェレミーがあまりに見事にホームズそのものなので、ハムレットを演じるジェレミーは想像できない、という方もいらっしゃるかもしれませんね。

私がジェレミーのハムレットを想像する時のよすがとするのは、前回ご紹介したような新聞や雑誌での批評、ハムレットを演じている写真、そしてハムレットとほぼ同じ時期に、同じシェイクスピア作の悲劇である"Troilus and Cressida"でトロイラスを演じているオーディオブックです。

"Troilus and Cressida"のオーディオブックの中のジェレミーの声を、4回にわたってご紹介したことがあります。ジェレミーの表現は本当に若々しくて情熱的で、音楽的です。こちらはその4回目の記事です。
Troilus and Cressida のオーディオブック (1961) , その4

この時、Jeremy Brett Informationの前身のウェブサイトであるJeremy Brett Archiveの記述に従って1961年のオーディオブックとしましたが、今回調べ直したらどうも1962年発売のようです。British Universities Film & Video Council のサイトと、俳優Alan Howardのファンサイトの両方でそうなっていました。
http://bufvc.ac.uk/shakespeare/index.php/title/av67234
http://www.alanhoward.org.uk/troilusrecordinfo.htm

ちなみに上記のページにあるキャスト表をみて気がついたのですが、モリアーティを演じたEric Porter、および「プライオリ・スクール」でホールダネス公爵を演じたAlan Howardも出演しています。ジェレミーはホームズを演じる中で、たくさんの古い仲間たちと再会しているということは知っていましたが、20代でこの二人ともすでにオーディオブックで共演していたことには、今回はじめて気がつきました。私が知らないだけで、劇場でも同じ舞台に何回かたっていたのかもしれません。

ジェレミーはホームズのシリーズで古い仲間と久しぶりに会うのを喜んだでしょうね。Edward Hardwickeもインタビューで、この仕事の楽しさの一つとして、そのことをあげていました。どのインタビューだったでしょう、みつかったらまた書きましょう。

RM
前回、1961年6月27日のスタンプが押されていて、ジェレミーはいまハムレットを演じているとキャプションに書かれている写真をご紹介しました。(更新が滞っていたのに、数日のうちに思いがけずたくさんの方に来ていただきました。どうもありがとうございました。相変わらずぼちぼちと続けていくつもりです。)

今日は、あの写真の日付の数日前、1961年6月24日にスコットランドのグラスゴーの新聞に載ったハムレット評を引用しましょう。こちらのGoogle News Archiveのページで読むことができます。
http://news.google.com/newspapers?&id=fxk1AAAAIBAJ&pg=6826,4082230

古い新聞の紙面を読むのは、コンピュータのモニター上でという制約があっても、当時に思いを馳せることができて好きです。53年ほど前の新聞ですね!

"From OUR LONDON DRAMA CRITIC"
The Glasgow Herald, Jun 24, 1961

オクスフォード・プレイハウスで上演されていたハムレットは、ストランド劇場に場所をうつした。ジェレミー・ブレットは、狂気を装う主人公を優れた理解力で演じている。ハムレット役は際立った容姿を持つという、今ではほとんど忘れられている伝統を彼は継承している。

彼の身体はバレエ・ダンサーのそれであり、横からの姿はForbes RobertsonかJohn Barrymoreを彷彿させる。多分ほんの少し未熟であり、完璧で若々しい、でも少しおおげさな台詞表現を使うきらいはあるが、ブレットはいつか偉大なハムレット俳優になるのではと思わせる。

Now to the Strand Theatre has come the Oxford Playhouse's "Hamlet." Jeremy Brett is cast for the name role—which he acts intelligently as Hamlet feigning madness—in the almost forgotten tradition of striking good looks.

His physique is that of a ballet dancer: his profile reminiscent of Forbes Robertson or John Barrymore. A little immature, perhaps, and too inclined to put sound and youthful rhetoric before sense, Brett still looks as though he may be a great Hamlet one day.


名前が出ている二人の俳優はいずれも、すばらしいハムレットを演じたことで有名なようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Johnston_Forbes-Robertson
http://en.wikipedia.org/wiki/John_Barrymore

"too inclined to put sound and youthful rhetoric before sense" のところ、「完璧で若々しい、でも少しおおげさな台詞表現を使うきらいはあるが」としましたが、ちょっと自信なくて、ニュアンスが少し違っていたら申し訳ございません。("before sense"は、意味を伝えることを第一に考えるよりもという感じだと想像したのですが、訳文にはいれていません。)

こう訳した理由の一つは、別のひとのハムレット評にこのような言葉があったことです。

ブレット氏の台詞の言い方ははじめから終わりまで美しく、表情豊かな音楽性を持っていた。近年 'How all occasions do inform against me' からの第7独白を、あのような幅のあるニュアンスで、そしてあのような緩急のあるリズムで表現しているのをきいたことがない。

Mr. Brett's speaking of the language had a consistently fine and expressive musicality--I do not think in recent years I have heard the soliloquy 'How all occasions do inform against me'-- spoken with such a range of nuance and such flexibility of rhythm.

Source: http://www.brettish.com/early-stages.html

(ハムレットの第7独白については、たとえばこちらに原文と訳文があります。http://www.nekomegami.com/advent/2005/051219.html

つまり、台詞に感情をのせるやりかたが音楽的なまでに美しいジェレミーのその表現を、特にジェレミーがまだ若いことを思うと、ひとによっては少し大げさすぎると感じるのかもしれないと思って、最初の劇評のあの部分をそのように解釈しました。でもあの劇評もとてもほめているというのがわかりますし、ジェレミーがどんなだったかも想像できますね。

なおハムレットについては以前こちらにも書きました。

ハムレット(1961年)に関する記事から;その1
ハムレット(1961年)に関する記事から;その2
ハムレット(1961年)に関する記事から;その3

上記の「その1」でも、今日の最初の記事を少し引用していました。

RM
eBayに出品された3枚の写真をご紹介しましょう。以下のページでスクロールすると、出品されたプレス写真のおもてと裏をみることができます。落札前にすでにネットの一部で広まっていましたから、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。なおいつもと同じお断りですが、数ヶ月後にはこれらのページはeBayによって削除されて、みられなくなると思います。

http://www.ebay.co.uk/itm/261721632463
これは最初の奥様のAnna Massey(アナ・マッシー)と一緒の写真です。1961年6月27日のスタンプがあります。ジェレミーは27歳ですね。いまジェレミーはハムレットを演じていて、アナは"The Miracle Worker"に出演している、と後ろに書かれています。

http://www.ebay.co.uk/itm/261721632499
次の写真の裏には、この写真が使われている新聞Evening Standardの切り抜きが貼られていて、その日付は1967年9月16日です。10月3日からはじまる舞台"As You Like It"をとりあげた記事なのですが、そのなかでジェレミーは32歳となっていて、でも1933年11月3日生まれのジェレミーは実際には33歳のはずです。(わたし算数不得意ですが、大丈夫ですよね?)

http://www.ebay.co.uk/itm/261721632553
そしてこの写真の裏には1988年9月と書かれています。54歳ですね。舞台"The Secret of Sherlock Holme"はこの年の8月30日からだったので(http://www.jeremybrett.info/st_holmes.html)、舞台がはじまった直後ということになります。


こうして27歳、33歳、54歳のジェレミーのプレス写真を続けてみていると、ジェレミーの、そしてそれぞれ一人一人の人生、ということに思いがおよびます。

RM
皆様は新しい年のはじめをどのようにお迎えになったでしょうか。私は暦のとおりの4日の日曜日までの休みを静かに過ごしました。

このところ、こころをひらくことについて、感じるところがあるので、1985年のインタビューでのジェレミーのこんな言葉を書き写したくなりました。

母はエリザベスという名で、単に「私の母」というだけではありませんでした。その魂の扉をあけているひと、窓を開いているひとでした。そんなふうにしか私には言い表せません。

She wasn't just "my mother"; her name was Elizabeth, and she had open doors and open windows in her soul—that's the only way I can put it.


"Interview With Jeremy Brett"
By Rosemary Herbert
The Armchair Detective, Vol.18, No.4, Fall 1985

これを読むと、ああ、ジェレミーのあたたかさはお母様ゆずりなのだ、と思います。ジェレミーはいま目の前にいるひとに対してまっすぐに、その魂の扉をあけたひとだったように思います。

1985年のこのインタビューからは、こちらでも引用しました。
「海軍条約事件」について;1985年のThe Armchair Detective のインタビューより
ホームズとワトスンの友情;1985年のThe Armchair Detective のインタビューより(2)

 RM

Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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