Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回の最後で引用したアメリカの新聞記事から、もう少しご紹介します。これは1991年のアメリカツアーの時のインタビューです。

前回引用したのは楽しい部分でしたが、こちらはジェレミーが、奥様であるJoan Wilson(ジョーン・ウィルソン)の深刻な病を知った時のことです。

Sherlock Holmes In America
The Morning Call, November 10, 1991

Joanie(ジョーニー)が命にかかわる病にかかっていることを、私達は突然知りました。そのとき私はスイスにいて「最後の事件」を撮影していました。私からすべての光が消え失せました。

自分の部屋で気持ちそのままに暗闇の中にいた時、私のワトスンだったDavid Burke(デイビッド・バーク)とプロデューサーとが部屋に入ってきたのを覚えています ... そしてなんとか最後まで撮り終えて、私はまっすぐ家へ向かったのでした。


"[...] suddenly we realized that Joanie was dying and I was in Switzerland at the time and I remember we were shooting 'The Final Problem' and all the lights went out for me.

"I was actually in my room in the dark and I remember my beloved David Burke, who was my Watson then (today's Watson is Edward Hardwicke) and my producer came in ... and we kind of limped through to the end of the film and I went straight home. [...]"


この記事の前の方で、マンチェスターのホテルからジョーンにしょっちゅう電話をかけていたことを話していますので、スイスのホテルでも、ジョーンとの電話で病のことをきいたのかもしれません。その後部屋が暗くなるままに、ホテルの自分の部屋で一人座っているところへ、何か約束があったのか、暗い中にデイビッドとMichael Cox(マイケル・コックス)が入ってきたのでしょうか。

悲しい記事のご紹介になってしまって、悲しくさせてしまっていたら申し訳ございません。でもこういう時のことをジェレミーがどう話しているかというのもまた、私には大切なことに思えます。

そしてもしかしたら実際におきたことは、必ずしもいつも言葉どおりというわけではなかったかもしれないとも思います。ひとが出来事や気持ちを語るとき、それは過去のその時から積み重なっていく時間を含んだ「ものがたり」です。「ものがたり」は時として、実際からは離れていきます。でもそれはものがたる人の中の大切なことを伝えてくれます。

これを読みながら、スイスのホテルでのジェレミー、それをものがたるアメリカでのジェレミーのことを思っています。

うまく訳せませんでしたが、ジェレミーは"my beloved David Burke"と言っています。"darling"とか"beloved"という言葉、ジェレミーのインタビューではよく出てきて、ジェレミーらしいなあと思います。

RM
マンチェスターでの週末の過ごし方についての新聞記事を先日ご紹介しました。
マンチェスターでの週末と、クラパムでのピアノ練習
週末に必要なもの;1991年の記事より

今度は撮影がおこなわれている日のホテルでの過ごし方について話している部分を、別の雑誌から引用しましょう。こちらです。
Why I adore playing Holmes, by Jeremy Brett
The Sherlock Holmes Gazette, Issue No.3, 1991-2

以前も、同じ雑誌記事の別の部分をご紹介したことがあります。
Jean Conan Doyleとジェレミー(4

それでは今日のところを引用します。

ホームズを演じるのに、そんなにも張りつめた状態で全力を傾けなければならなくて、一日の撮影が終わったあとは、どんなふうにして緊張をほぐすのでしょう?

「ホテルにもどったらひとりで過ごして、夜10時までには床についています。午前2時に起きて、5時まで翌日の撮影のための準備をします。

そして5時から6時まで寝ます。僕にはそれで十分みたいです。もっとも毎日ランチの後に少し眠りますけどね。」


With the intensity of the role and its demands how does he wind down after a day's shooting?

"Back at the hotel, I go my separate way. By 10 pm I am in bed. I wake at 2 am and work on the next day's filming until 5 am."

"Then I sleep from 5 am-6 am, which seems sufficient for me. Although I do sleep during every lunch break."


撮影の期間、こんなふうにして毎日を過ごしていたのですね。はやめに床について、朝はやく、というより深夜に起きて台詞を覚えるなどの準備をして、それからちょっとだけ眠る。

これは、どんなふうにして一日の緊張をほぐすのかとたずねられた時の答えですが、週末をのぞいて、このように過ごしていたのでは、撮影の期間は張りつめた状態がからだとこころのどこかにずっと残ったままだったでしょうね。そして、あのものすごい量の台詞ですもの、覚えるのは大変だったでしょう。しかも「台詞の上で踊る('dance on the lines')」ことができるように、完璧に台詞が自分の中にはいっていないといけなかったのですから。
完璧主義

午後10時に床につくというのは、撮影期間のマンチェスターでの特別な習慣かもしれませんが、ジェレミーはクラパムの家でも早起きだったようですから、もともと早寝早起きのタイプなのでしょう。

皆さんも学生のかたなら試験、働いているかたなら仕事の関係で記憶すること・練習することが必要な何かがあるとき、自分ならこうするという過ごし方がおありでしょう。私もあります。その時の自分のこと、深夜や早朝の空気、学生時代にきいた深夜ラジオを思い出しながらこの記事を読みました。少し脱線しますが、私はパック・イン・ミュージックをきいていて、野沢那智さん、白石冬美さんの金曜パックが私の思い出の深夜ラジオなのですが、同じパックのパーソナリティだった愛川欽也さんが亡くなったのはさびしいことでした。

さて本題にもどりましょう。

ランチの後にちょっと眠ることについては、私の大好きなこのエピソードがありました。
グラナダスタジオツアーについて;1991年のアメリカでのインタビューから

再度引用しますね。今度は原文をつけて、訳も少しだけ変えています。

Sherlock Holmes In America
The Morning Call, November 10, 1991

スタジオツアーに参加した客はホームズの小さい寝室に入って、時に驚かされることになる、とジェレミーは言う。「僕はお昼の後にはいつもそこで昼寝をします。りんごしか食べませんから。ツアーのお客さんがやってきて、ベッドの上のホームズの『人形』をみつけることがあります。そして『人形』だと思って皆でおしゃべりをしているところに、僕が突然『こんにちは!』というと、『あああああああああ!』って叫ぶんです。それがすごーく楽しくって!」と楽しそうに話してくれた。

Those who have, he says, are sometimes startled when they turn into Sherlock Holmes' tiny bedroom. "I sleep on the bed during the lunch break because I only ever eat an apple, and sometimes people come through and see this 'dummy' lying on the bed. And they talk as though I were a 'dummy.' And I suddenly go 'HUL-lo' and they go 'Aaaaaaaaah!' and I looove that," his British actor's voice plays out the scenario with relish.


RM
無料動画 GYAO!というサイトで、グラナダシリーズが無料配信されています。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00569/v08533/

現在「ボヘミアの醜聞」「踊る人形」「海軍条約事件」を観ることができます。この3作品の配信は4月18日までで、吹き替えではなく英語版です。今後も配信は次々と続くようです。ご参考までに。

レビューを読むと、久しぶりに観ることができて喜んでいらっしゃっるかたの声、ジェレミーのホームズにくわしそうなかたの言葉が読めたりして、うれしいです。


ついでと言ってはなんですが、さっき遭遇したクロアチアのサイトをご紹介しましょう。今でも世界中のさまざまな国でジェレミーのホームズが放映されていることをあらためて知って、うれしくなります。
http://hrtprikazuje.hrt.hr/279258/price-o-sherlocku-holmesu-serija
(追記:上記はクロアチアの公共放送局 Croatian Radiotelevision、クロアチア語で Hrvatska radiotelevizija, HRTのページです。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Croatian_Radiotelevision

クロアチア語からの機械翻訳によるとんでもない日本語と、同じく機械翻訳による、なんだかそれっぽくみえる英語とから判断するに、水曜日に「犯人は二人」のパート2を放映するということです。この水曜日って、明日のことじゃないかしら。(4月16日追記:今日みたら水曜日「犯人は二人」パート2の案内は消えていて、木曜日「サセックスの吸血鬼」パート1の案内が一番上に来ています。やっぱり、ここに書かれている曜日は今週のことだったんですね。)

一番上にある5枚の写真のうち2枚は「犯人は二人」、1枚は「バスカヴィル家の犬」、2枚は「四つの署名」からですね。(4月16日追記:現在、1枚は「サセックスの吸血鬼」の写真に取り替えられています。)
下にスクロールすると「四つの署名」からもう一枚、縦横比がちょっとおかしいようですが、これも好きな写真です。

クロアチアという国が今までよりも親しく感じられます。ちょっとめくばせで挨拶したいような。ジェレミーのホームズ、素敵ですよねって。

RM
ジェレミーは音楽が好きで、ピアノも弾く、という記事に関連して、ジェレミーが無人島に持っていくレコードについて、さきさんとコメント欄でお話しました。それで思い出したことがあります。ジェレミーに関わる四つのレクイエムです。

コメント欄には私はこのように書きました。

ピアノはどんな曲でしょうね?ジャズやポップスよりはやっぱりクラシックだろうなどと想像しています。ラジオインタビューで無人島へ持っていくレコードを紹介したときには、すべてクラシック音楽、声楽曲で、プッチーニ、モーツァルト、ビゼー、フォーレ、リヒャルト・シュトラウスの曲でした。モーツァルトやフォーレのピアノ曲なんて、弾いてほしいなあ。

私がこのときモーツァルトとフォーレをあげたのは、この二人の作曲家が特に好きだからなのですが、ラジオ番組のなかでジェレミーが紹介した5曲の内で、モーツァルトとフォーレの曲はどちらもレクイエムなのです。モーツァルトのレクイエムと、フォーレのレクイエム。

そしてイートンの聖歌隊で、ソロで歌っていた時のことをジェレミーが話すなかで出てきた曲名が、ブラームスのレクイエム。ジェレミーに日曜日のあさ電話するとよく背後で流れていた曲として、グラナダシリーズのプロデューサーMichael Coxが回想しているのが、ヴェルディのレクエイム。


ジェレミーを思うとき、その時々にいろいろな面を思い浮かべます。たとえば、目の前にいるひとに対していつもまっすぐなところ、まわりの人を大切にして励ますところ、お茶目なところ、困難な状況の中でも前を向こうとしたこと。

そしてもう一つ、悲しみを知る人、死者とともに生きる感覚、死者の視点をどこかに持っていた人という面も感じるのです。お母様を交通事故で、二度目の奥様のJoan Wilsonを病気で亡くしたこと、そして16歳で死の扉の前まで行ったことを語るジェレミーの言葉が私にそう思わせるのでしょう。16歳の時のことはこちらに書きました。
大病の後に;インタビュー記事 When the lights went out (1990) より
大病の後に:Dancing in the Moonlightより

そう感じるとき、この四つのレクイエムも、ああ、ジェレミーらしい、と思えるのです。

死者とともに生きる感覚、死者の視点を持つことは、ときにひとを助けてくれます。ときに自分を圧迫するように思える、この世界だけがすべてではないことを、感じさせてくれます。

ジェレミーの内に四つのレクイエムがあったことも、苦しいことも悲しいこともあったであろう最後の十年間のジェレミーのこころをなぐさめてくれたのではないでしょうか。それを願う気持ちがあります。


でもジェレミーのピアノのお話にもどると、悲しい曲や情感あふれる曲だけではなく、かわいらしい曲や小品も弾いたんじゃないかな。モーツァルトの「きらきら星変奏曲」なんて、どうですか?(想像力満開です!)

RM


追記:蛇足ながら「レクイエム」について。「レクイエム」の訳として、死者の魂をなぐさめるという意味の「鎮魂曲」がよく使われますが、これは誤訳だ、という興味深い記事をみつけました。

レクイエムは鎮魂曲か 日本語に定着した「名誤訳」
日本経済新聞  ことばオンライン 2013/11/27
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDB22005_S3A121C1000000/

レクイエムとは、キリスト教における、死者のためのミサ典礼で歌われる音楽で、死者が天国へ迎え入れられるように「神に祈る」ものであって、「死者の霊に直接働きかける」ものではない、というのです。しかしこの記事の後の方では、実際にはレクイエムにはいろいろとあり、典礼用ではなく演奏会用に作曲されたブラームスのレクイエム、「天使があなたを迎え入れますように」と歌わせて、ここでの「あなた」は神ではなく故人を指すフォーレのレクエイムもあるので、レクイエムに新たな語釈が生まれていることにもふれています。まさにこの「天使があなたを迎え入れますように」と歌われる部分を、ジェレミーのインタビュー番組で流していました。
前回ご紹介した記事の最後に"ESSENTIALS"(必要なもの)が列挙されています。それを引用しましょう。この「必要なもの」というのは、記事のタイトルでもある"My weekend"(私の週末)に必要なものということでしょう。

My weekend
"Jeremy takes a bow for an arrowing experience"
Daily Express, December 27 1991

必要なもの

マッチ1箱 8ペンス
一番軽いタイプのSilk Cut(シルクカット)煙草1箱 2.08ポンド
僕の青いタオル生地のガウン、保養地で買ったもの 80ポンド
果物ひとかご 10ポンド
放し飼いにした鶏の卵1ダース 1ポンド
朝のトーストのためのマーマイト 1.40ポンド
劇場のチケット 16ポンド
ポットのコーヒー チップも入れて3ポンド


ESSENTIALS

Box of matches — 8p
Packet of mildest Silk Cut cigarettes — 2.08£
My blue towelling robe bought at a health farm — 80£
Basket of fruit — 10£
Dozen of free-range eggs — 1£
Marmite for morning toast — 1.40£
Theatre ticket — 16£
Pot of coffee — 3£ with tip


訳に間違いがあったらごめんなさい。どうぞ原文もご覧になってくださいね。

"Silk Cut"は煙草の銘柄ですね。"health farm"は健康維持のための郊外の施設をさすようです。"robe"は部屋着、ガウン、バスローブということですが、着るのはバスの時だけではないかもしれないのでガウンとしました。青だったんですね。 "Marmite"はきいたことはありますが、口にしたことはありません。ジェレミーは好きだったんですね。じゃ、いつか試してみましょう!(うふふ)

RM

 RM

Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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