Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

コメント欄でよりしろさんとお話するなかで、ジェレミーのホームズで感じられるユーモアが話題になりました。「マスグレーブ家の儀式書」のあるシーンについてジェレミーが話しているインタビューを思い出したので、みつかったら書きますねと申し上げたのですが、今日はそれではなくて、ホームズの物語は自分が思っていたよりも、あるいは普通に考えられているよりもユーモアを含んでいるとジェレミーが言っている記事を引用します。アメリカの新聞の記事です。

A fresh new Sherlock Holmes makes his debut
by Christopher Andreae
The Christian Science Monitor, October 19, 1983
http://www.csmonitor.com/1983/1019/101924.html

まだイギリスでの放映もはじまっていない1983年10月19日付けのものです。イギリスでは1984年4月24日、アメリカでは1985年3月14日に最初のエピソードである「ボヘミアの醜聞」が放映されました(「アメリカ PBS での放送初日:1985年3月14日」)。ジェレミーの言葉に関しては、筆者が直接インタビューして記事にしたのではなく、イギリスでの記者会見におけるものを引用しながら書いているようです。ただ実際にベーカー街のセットにも行き、撮影がすでに終わっている回の映像もみていて、ホームズの原作にも詳しいことが読んでいてわかります。このグラナダ・シリーズの素晴らしさに魅了されて、アメリカでの放映にはまだ1年半あるこんなはやい時期に、アメリカの新聞で記事にしたのでしょう。

それまで多くの俳優が演じてきたホームズを自分はどうすればよいかわからず、はじめの二週間のリハーサルでは普通でない声で演じたり、奇妙な歩き方をしてみたりした、とジェレミーが話した、その後から引用します。

しかし、自分自身にもっと近づけて演じるべきではないかと監督がブレットに言って、これが重要な鍵になったようだ。ブレットはそれまで冷たくて傲慢なだけの男だと思っていたホームズのことをまあまあ好きになりはじめた。ブレットはまだホームズを「大理石の像」のように感じて演じているが、大理石には「少し割れ目がみえてきた」と言う。

そう思えるのは一つには、ホームズには普通言われているよりももっとユーモアがあると感じられるようになったからだ。彼はこう言う。「たとえばホームズは、手提げランプのもとで拡大鏡を手に突然膝をついて、石のあいだのつぎ目を調べはじめます。これって見た目おかしいですよね。別の話ではホームズは低木をかきわけて、ゴールデン・レトリバーが臭いを追いかけるように突進します。実際にこれをやっているのを脇からみたら、とても滑稽で笑ってしまいます。それからホームズはワトスンをよくからかいますからね。」

But in the end the director suggested that he would have to play Holmes as a character closer to Brett himself. This apparently did the trick. Brett started to find he quite liked a man he had previously thought merely cold and arrogant. He is still playing him as a "marble figure," but the marble has some "slight cracks" in it.

For one thing, he feels that Holmes has more humor than is often recognized. At one point, for instance, he remarks that "Holmes suddenly falls on his knees with a lantern and a magnifying glass and starts inspecting the cracks between some stones. That is funny. On another occasion he rushes through a shrubbery 'like a golden retriever on a scent,' as one Holmes story has it. When you actually do that, it looks very funny. (Also), he often teases Watson."


「美しき自転車乗り」、「まだらの紐」、「海軍条約事件」を撮り終わり、「ボヘミアの醜聞」の制作が進行中だと記事の最初に書かれていて、このような初期の発言だと思うと興味深いです。多分ジェレミーが言っているのは「赤髪連盟」と「ボスコム渓谷の惨劇」のシーンで、その撮影は前者は少し後、後者は放映が1991年ですから撮影は多分1990年、つまり7年後になります。

「ボスコム渓谷の惨劇」、原作にはこんな記述があります。

彼はまるで獲物の臭気をほじくり出す猟犬のように、あたりを駆けずりまわっていたが、やがてレストレードのほうへ向きなおって尋ねた。(延原謙訳)

He ran round, like a dog who is picking up a scent, and then turned upon my companion.


それから少し後にこう書かれています。

彼は立ちあがって、そのへんを駆けまわり、ときに足跡を見失うかと思うと、また見つけたりして、ついに森の中へちょっとはいりこんだところにある、そのへんでいちばんの大木の椈の木の下まで行った。木の向うがわへまわると彼はうれしそうな声をたてて、またもや地上に腹ばいになった。(延原謙訳)

He ran up and down, sometimes losing, sometimes finding the track until we were well within the edge of the wood and under the shadow of a great beech, the largest tree in the neighbourhood. Holmes traced his way to the farther side of this and lay down once more upon his face with a little cry of satisfaction.


駆けまわっては、時に腹ばいになっています。挿絵では大木の根元に近いところでの腹ばいの姿勢を横から描いています。

原作ではshrubbery(潅木)とは書かれていないし、ゴールデン・レトリバーと特定されていなくて、dogです。それででしょう、この記事の最後に筆者は「ホームズがゴールデン・レトリバーのように灌木の中を嗅ぎ回るという場面は原作のどの話にあるのか私にはわからなくて探している」と書いています。(悪口としてではなく、軽口という感じで書いています。)でもジェレミーの頭の中のイメージでは犬はゴールデン・レトリバーだし、ホームズは低い姿勢で動きまわるのでしょう。

これからおよそ7年後に撮影された「ボスコム渓谷の惨劇」では、ジェレミー・ホームズは手掛かりを求めて、馳けまわることはせずもぞもぞと這っていますね。そのホームズの姿を後ろからみたワトスンと警部が、半ば困ったように顔をみあわせます。このあと警部は少し笑いながらホームズをブラッドハウンド犬にたとえて、ワトスンと笑い合います。二人のこういう反応は原作には書かれていないので、もしかしたらジェレミーの発案かもしれません。ホームズが時折の単なる腹ばいではなく地面を這っているのも、ジェレミーが持っていたイメージに近いように思えます。そして私たちもクスリと笑ってしまいます。

「赤髪連盟」のあの動作は、ジェレミーは"That is funny"と言っていますが、笑ってしまうというよりは私はホームズの一挙一動から目が離せなくて、息を飲んで無言で見守っているという感じです。

そして最後の"He often teases Watson"(ホームズはワトスンをよくからかいますからね)というジェレミーの言葉に、うんうんと楽しく頷きました。



火曜日から11月が始まり、11月3日はジェレミーのお誕生日です。りえさんもお忙しいようですね。りえさんからその日にはこれを書きましょうという提案があって、私も書くことができるようならその日に更新するかもしれませんが、そうでなければ次の週末になります。それでちょっとはやいけど、「お誕生日おめでとうございます!」また来年もお祝いの言葉を言うことができますように。そして今もかわらず世界中でジェレミーのホームズが賞賛されていることでも、ジェレミーをはじめとする出演者、スタッフの皆様にお祝いの言葉をおくります。

RM
前回と同じこの記事からです。

Late Jeremy Brett takes final bow as Sherlock Holmes
by Lynn Elder
The Daily Gazette, Dec 3, 1995
https://news.google.com/newspapers?id=XHlGAAAAIBAJ&pg=3660%2C774774

なお、前回間違って11月3日付けの新聞記事と書いてしまいましたが、12月3日付けでした。訂正しました。

前回書いたように、Edward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)への電話インタビューを含む記事です。エドワードはいろいろと話しているのですが、このところのキーワードである "romance"絡みで、"romantic"という語を含む部分を引用しましょう。"romantic"は以下では一番最後の段落になります

シリーズは成功して、特にアメリカでの評判は高く、ブレットはとても喜んでいた。そしてホームズのイメージを損なわないこと、ドイルの原作に忠実であることを大切にしていた。

「『初歩的なことだよ、ワトスン君』('Elementary, my dear Watson') と誰かが言うのをきくと怒っていました」とハードウィックは言った。一般に考えられているのとは違って、この台詞はドイルの原作には出てこないのだ。

イギリスのグラナダ・テレビ制作のこのシリーズで使う小道具や衣装にも、ブレットは細かく気を使った。

「服が完全に正確にドイルの原作に書かれたとおりであるように、とても注意していました。どのパイプを使うかについても、難しい問題がありました。」

それでもブレットはホームズに対して愛憎の入りまじった複雑な思いを持っていた、とハードウィックは言う。

「ジェレミーはかなりのロマンチストでした。髪に黒いグリースをつけて、あのくすんだ暗い色の服ばかり着るのはいやだったでしょう。彼独特の、華やかな輝きを持っている人でしたから。」


Brett was thrilled by the success of the series, particularly in America, and proved protective of Holmes and the Doyle canon.

"He used to get furious if anyone said 'Elementary, my dear Watson,'" recalled Hardwicke. It's a phrase which, contrary to popular myth, does not appear in Doyle's stories.

Brett was equally watchful when it came to props and wardrobe on the series produced by England's Granada Television.

"He was very concerned that the clothes were absolutely, exactly as Doyle described," said Hardwicke. "There was also a deeply complicated thing about [tobacco] pipes."

And yet, he says, Brett had a "love-hate thing" with Holmes.

"He was a bit of a romantic at heart. I don't think he liked putting all that black grease on his hair and wearing those dull clothes. Jeremy, in his own way, was a very flamboyant person."


アメリカでの評判が特に高いと書かれているのは、これがアメリカの新聞であるということもその理由でしょう。前回のイギリスの新聞記事では、日本で特に人気が高いとなっていましたね。要するに、世界中の人たちが夢中になったのですよね!

演じるにあたってジェレミーが原作をとても大切にしたことは、誰もが口にします。衣装、パイプなどの小道具にも気を配ったことも。

そのようにして熱心に取り組んだにもかかわらず、ホームズに対して"love-hate thing"(愛憎の入りまじった複雑な思い)を持っていたと言うのです。あるいは、そのように全身全霊で演じたからこそホームズが嫌いになった時もあった、とも言えるでしょう。

これはジェレミーのいろいろな言葉からもうかがえますね。自分はホームズとは似ていないといつも言い、あまり好きなタイプではないとしばしば言っていました。ホームズはとても難しいが演じ甲斐がある役だと言っている時がほとんどですが、もう演じたくないと話しているインタビューもあります。

ジェレミーとホームズが相容れないことの例として、エドワードはホームズの黒い髪、黒っぽい服といった外見のことを言っています。もちろん外見はしばしば内面を反映するものです。ジェレミーもホームズのことを"damaged penguin"なんて言っていましたね。そしてエドワードはジェレミーについては"flamboyant"という形容詞を使っています。華やかな輝きで人を引き付ける、という意味でしょう。ジェレミーの外見と内面の両方で、華やかな輝きを感じます。

でもジェレミーだけではなく、ジェレミーが演じるホームズも輝いていますね。「華やか」とは言えないにしても、その暗さも含めて輝いています。私がジェレミーのホームズに夢中になってまず感じたのは、その輝きでした。NHKで放映された時からジェレミー演じるホームズが好きでしたが、本当に夢中になって引き付けられたのは、宝島社のDVDブックを毎月楽しみに購入して久しぶりに観てからでした。そしてジェレミー・ブレットという人のことも少し知りはじめたとき、どうしてこんなに輝いている人が、愛する人を失い病に苦しんで死ななければならないのだろう、という疑問が私の中で大きくなりました。そこから思わぬ形で私の旅がはじまって、生きることとか、人生で苦しみに会うこととか、死ぬこととか、そういうことへの気持ちが次第に(あるいは突然)変わっていったのでした。

記事の引用部分にもどりますと、エドワードは"flamboyant"という形容の前に、"He was a bit of a romantic at heart"と言っていて、ああ、ここにも"romantic"が、と思ったのでした。

RM
先日から何回か触れてきた"romance"という言葉で思い出した記事が、もう一つありました。

Late Jeremy Brett takes final bow as Sherlock Holmes
by Lynn Elder
The Daily Gazette, Dec 3, 1995
https://news.google.com/newspapers?id=XHlGAAAAIBAJ&pg=3660%2C774774

Edward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)へのインタビューを含む記事で、その中でエドワードが"romantic"という語を口にしているのです。The Associated Pressの配信記事ですから、アメリカのいくつもの新聞で違う日に違うタイトルで掲載されたのだと思いますが、今日のリンク先の新聞では1995年11月3日付けで、ジェレミーが亡くなって約2ヶ月、ちょうどジェレミーのお誕生日です。(追記:わー、間違えました。12月3日付けの記事でした!)

記事の途中に"Hardwicke said, speaking by phone from London"と書いてありますので、電話でエドワードに話をきいたのですね。今日はエドワードの言葉が最初に出てくる部分を引用します。"romantic"については(多分)次回ご紹介します。

エドワード・ハードウィックは41のエピソードの大部分で、ブレットのエレガントなホームズの相手役ワトスンを演じた。共に演じた仲間であり友人であったブレットは、批評家からの絶賛以上の栄誉を受けて当然だったのに、と彼は言う。

「あの演技は、もっと評価され賞賛されるだけの価値があったのに、彼はそれに価する栄誉を一度も受けなかったと思います」とハードウィックはいう。「ホームズを演じて、これまで名演と言われてきたホームズを、記憶から幾分か消え去らせたのは、俳優として見事な成果だと思います。」

しかしアメリカのエミー賞も、それに相当するイギリスの賞もブレットは受けなかった。「とても悲しいことです」とハードウィックは言う。ワトスンがそうであったように、友をずっと大切に思っているのだ。


Edward Hardwicke, who played Dr. Watson opposite Brett's elegant Holmes for much of the 41-episode series, says his colleague and friend deserved more than critical plaudits.

"I don't feel he ever got the recognition he deserved for that performance," Hardwicke says. "I think it's a remarkable achievement to play Holmes and, to some extent, erase the memory of some great performances in that part."

But no Emmy, or its British equivalent, came to Brett. "Tragic," says Hardwicke, as loyal as Watson.


ジェレミーのホームズが視聴者から熱烈に支持されたことも、シャーロッキアンから原作の見事な映像化として認められ感謝されたことも、批評家から高く評価されたことも、ジェレミーに大きな達成感と、努力が報われた喜びをもたらしたことでしょう。でも、あの作品とあの演技で何の賞も受けなかったことには、落胆したとしても不思議はありません。映像作品や舞台作品に関わる人たちの団体からの評価と栄誉を得なかったことにがっかりしたとしても、無理はありません。The Academy of Television Arts & Sciences(米国テレビ芸術科学アカデミー)、British Academy of Film and Television Arts(英国映画テレビ芸術アカデミー)といった団体が授与する賞を受けなかったのですから。エドワードはジェレミーの気持ちを思いやって、本当に残念なことだと悲しんでいるのですね。


ジェレミーにBAFTA賞をという活動が2010年に始まったのも、多くのひとがジェレミーが賞を受けなかったことを残念に思ったからでした。そして私がこのブログをはじめたきっかけの一つは、この活動のことをネットでお知らせしたい、署名をしていただきたいという気持ちでした。
ジェレミーにBAFTA賞を!(1)

しかし、すでに世を去ったひとには賞を授与しないという従来の方針をくつがえさないとBAFTAの理事会が決定して、活動は終わりました。

ジェレミーが生前、落胆を口にしているのを聞いたり読んだりしたことはありませんが、エドワードをはじめとして多くの人が、悲しいこと、驚くべきこと、信じられないことだと言っています。たとえば「ジェレミーにBAFTA賞を」の活動に寄せたStephen Fryの文章はこちらで読むことができて、"astonishing"(信じがたいほどの驚き)と言っています。
http://www.bafta4jb.com/2010/06/statement-of-support-from-stephen-fry-2/


それではなぜ、ジェレミーのホームズの演技は、何の賞も受けなかったのでしょう。ホームズが放映されていた当時、興味深い記事が書かれました。いつかもう少し詳しくご紹介しようと思いますが、ほんの少し引用しましょう。まず筆者は「ジェレミー・ブレットのホームズは多くの国でとても人気がある(特に日本での人気はものすごい)が、人気があることと、公にきちんと評価されることは同じではない」と書いています。

Underrated
by Kevin Jackson
The Independent, 20 October 1993
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/underrated-a-jigger-of-remorse-a-dash-of-lunacy-overdue-credit-where-credits-due-kevin-jackson-kicks-1511965.html

ブレット氏の演技の素晴らしさが見過ごされて賞の対象となっていないのは、彼は素晴らしい、と誰も言わないからではなく、誰もがそう言うからだ。

Mr Brett's true brilliance is overlooked not because no one says that he is splendid but because everybody does.


「賞の対象となっていないのは」としたのは少し意訳かもしれなくて、ここでは直接そう言ってはいませんが、この前の部分に"popularity is not quite the same thing as recognition"(人気があることと、きちんと評価されることは、まったく同じことではない)とありますから、筆者が権威ある団体による評価を念頭に置いていたのは明らかだと思います。

そして筆者はこの引用部分の直前で、エドガー・アラン・ポーの短編「盗まれた手紙」を引き合いに出しています。誰の目にも明らかなことはかえって盲点となって、あらためて意識されることが少ないのだ、と。

ジェレミーも当時この記事を読んだことでしょう。何の賞も授与されないことへの失望があったとしても、少しでもそれがやわらいで、ドイルも影響を受けたとされるポーの有名な短編のタイトルを見て笑みを浮かべてくれたことを願いますし、そう信じています。

この新聞記事では筆者はこの後、ジェレミーのホームズの素晴らしさをたくさん書いて讃えてくれていますが、それも含めてまたいつかきちんとご紹介しましょう。

RM
少し気分を変えて、ジェレミーのサインをいくつか並べてみます。数日前りえさんがTwitterでのretweetで、The Television Sherlock Holmes(日本語版の題は「NHKテレビ版 シャーロック・ホームズの冒険」)に載ったジェレミーのサインを紹介してくださっていました。それで今日は「勝手に連動企画」です。りえさんのTwitterのアドレスは、りえさんのブログをご覧ください。ブログの更新情報などもTwitterに載せてくださっています。Twitterに登録していなくても見ることができて、私も時々拝見しています。(追記:りえさん、アドレス書いてもいいですよね!こちらです。https://twitter.com/riekojeremy

本に載ったサインはもちろん100%本物ですが、今日ご紹介するのは最近eBayに出品されたものからで、本物という保証はないことをお断りしておきます。ただ私は、これらはジェレミーが書いたものだと感じているのです。なんといいますか、いかにもジェレミーっぽいんですもの(うふふ)。



サインの部分を切り取って並べてみました。一番上のみ無地のカードに書かれていて、いつのサインかわかりません。あとはホームズにまつわる切手が貼られ、発行当日の消印が押された封筒(first day cover)で、いずれも1993年10月12日の消印です。

こうして並べてみると共通するところとそれぞれ少し違うところがあって、面白いです。全体をみると、のびのびして味がありますね。

一番上は「のびのび」と「丁寧」の両方が感じられて、美しいですね。"J"の文字の横棒がほぼ水平でまっすぐ、ペンの入りの部分もきれいです。(ペン習字では、この部分の特別な言い方があるのかもしれません。)

二番目の"J"の横線はやわらかなカーブを描いていて、このカーブにもいくつも種類があります。

三番目と四番目は少し珍しくて、消印にかからないようにという配慮からでしょう、"J"の横棒が短いものと、丸のもの。でも配慮すべき消印はないけど丸の場合も、少ないですがみたことがあります。また丸もなくて、縦からはじまるというのもあります。丸を書く場合も、縦を書いた後でその上につけたのかもしれませんね。

Brettの"B"は、二つの弧のうちで下の方が上よりかなり大きい場合が多いです。Brettの最後の二つの"t"の横棒はまとめて、そして多分一番最後にひいていますね。(それがわかりにくい四番目も、大きな画像でみるとそうなっています。追記:三番目は二つの縦棒の方が最後の可能性もあります。)時に軽快に長く、時に簡潔に横線をひいて、最後に点。(点はない時もあります。)

Jeremyの"ere"の書き方、おわかりになりますか?私は並べてまじまじと見て、次のBrettの"re"もみて、わかりました。最初の"e"は大文字の"E"のような書き方、その"E"の横線が次の"r"の最初の下向きの線にそのままつながって、そこから"r"の上向きの線。そこから続く下向きの線は、次の'E"の縦棒なんですね。

ただし"e"がこの書き方ではなく、普通に筆記体の"e"を書く時の、上に一回円を描いて下にもどるものも、少ないですがみたことがあります。これに限らずここで挙げた特徴については、それを持たないサインもみたことがありますから、もしもジェレミーのサインを持っていらして、これらにあてはまらなくても、それが理由で心配なさらないでくださいね。たとえば今回の中でも、一番上のBrettの"e"は、また少し違います。

今日のサインを含む大きな写真は以下のアドレスでご覧になれます。小さな写真を一度クリックして、もう一度クリックしてください。(携帯電話やスマートフォンでもそうか、私にはわかりません。)すでに落札されたものですから、eBayは数ヶ月後には写真を削除するはずです。

http://www.ebay.com/itm/262584058113
http://www.ebay.com/itm/351779850810
http://www.ebay.com/itm/232083572497
http://www.ebay.com/itm/272358686684

ちょこっと気分をかえて、ジェレミーののびのびと美しいサインをご紹介しました。

RM

追記:ことりさんが、私の以前の記事にあるジェレミーの手紙を発掘してくださいました。コメント欄で、その署名での"J"と"e"の書き方について書いてくださっています。
前々回、こんなふうに書きかけていました。

この7月の記事でご紹介したインタビュー映像では、ホームズは女性の手が届くところにはいない (beyond their reach) とジェレミーは言っていて、こういう意味のことを言っているのは何度か読んだことがあります。ところが、女性の手がほんの少しだけ届きそうなところに、自分はホームズを連れてきてしまったかもしれない、と言っているインタビューがありました。

自分がホームズを演じたために、女性が憧れるホームズという一面をつくりだしてしまったかもしれない、手が届くかもしれない、と女性が思うような対象にしてしまったかもしれない...。


ジェレミーがそう言っている部分のご紹介を、今日は書きます。"romance"が私の中ではキーワードなので、以下の二つの記事に続いて、大袈裟ですがロマンス三部作と名付けます!最初の記事では"romantic hero", 二番目でも"romantic"という言葉がジェレミーの口から出ましたから。
"Romantic hero":1988年のインタビューより
ホームズのこころの奥:2004年の新聞記事より

今日の新聞記事の日付は1990年3月、ジェレミーの言葉はThe Secret of Sherlock Holmesの公演時のインタビューからで、Bradfordの劇場ですから1889年10月です。

A Sherlock Holmes To Investigate At Home
by Kate Tyndall
The Philadelphia Inquirer, March 29, 1990
http://articles.philly.com/1990-03-29/entertainment/25901981

自分の演じるホームズが人気がある理由、特に女性に人気がある理由は、自分が演じるホームズから、自由で奔放な感情がかすかに感じられるからだとブレットは思っている。「私の何かが、ことによるとウエストコート(ベスト)の一番上のボタンかどこかから、ひそかにほんの少し漂い出ていて、もしかするとそのためにホームズがあんなに人気があるのかもしれません。もともとホームズは人付き合いはいつも避けていますし、男だけが所属する紳士クラブのメンバーです。女性が好む男でも女性とうまくつきあえる男でもないと思います。女性の手が届くところにはいないのです。もしかしたら私はホームズをほんの少し手が届くところに連れてきてしまって、原作にあるホームズから変えてしまったかもしれません」と言った。

Brett believes the popularity of his Holmes, especially with women, comes from a subtle whiff of romance that emanates from his character. "Some element, maybe through my waistcoat top button or somewhere, creeps a little bit out of me, and maybe that's the reason why he's so popular.... He's always been a recluse, a clubman. I don't think he's been a woman's man. He's unreachable. I may have corrupted him by putting him slightly within reach," he said.


"a subtle whiff of romance that emanates from his character"というところ、"romance"という言葉が出てきました。今までのロマンス三部作の二つ目までで書いたように、これを「恋愛、恋愛感情」ととってしまってはいけないと思って、カタカナの「ロマンス」とはしませんでした。"romance"の語義がいくつかある中で、ここではこんな意味ではないかと思いました。

・ロマン, 浪漫, 冒険心, わくわくする心(ウィズダム英和辞典)
・奔放な感情のままに行動する性格[性質],想像力豊かな性質,ロマンチックな気質;空想癖(ランダムハウス英和大辞典)

そこで"a subtle whiff of romance"を、自由で奔放な感情がかすかに感じられる、と訳しました。

"maybe through my waistcoat top button or somewhere"(ことによるとウエストコートの一番上のボタンかどこかから)って、面白いですね。慣用表現という可能性も考えましたがみつかりませんでした。この前も書きましたが、ジェレミーのこういう、具体的なイメージが喚起される表現が好きです。

そしてボタンをとおって、ひそかに漂い出ているのが、ジェレミー自身が持つ感情の豊かさ、ゆらぎ、情熱なのでしょう。ジェレミーは、自分が演じるホームズの中に自分自身が少し出てしまったために、ホームズの姿を少し変えてしまったかもしれない、というのです。

そのすぐ後のジェレミーの言葉です。

「でも役者は失敗を恐れず、隠れている生身の人間の部分をみせようとしなければならないのです。もしホームズが大理石の冷たさに籠ろうとしていたら、大理石の彫刻に手を添えて動かさねばならない。もしも人間らしいこころがみえそうになったら賭けに出て、ユーモアを少し、感じやすさや傷つきやすさを少し、失敗を少し、ホームズの中に招き入れなければならないのです。ホームズをそう演じることで観ているひとの気持ちを損ねていないようにと祈りながら。」

"But you have to risk showing the flesh underneath. If he's going to be absolutely marble, then get a marble statue and move it around. If he's going to be flesh, then you've got to take that gamble and bring in a little humor, bring in a little vulnerability, bring in a few faults and pray that doesn't offend people."


いつも感じますが、ジェレミーは原作を大切にしている人の気持ちを気にかけています。その上で、自分がホームズの中に見ているものを表現したいという、俳優としての情熱を感じます。そしてそれは、ホームズの感情の動きであり、ユーモアであり、傷つきやすさなのですね。私たちはまさにそれを感じて、惹きつけられます。

RM

 RM

Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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