Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

The Sherlock Holmes Society of Londonのグラナダスタジオ訪問(1987)」の記事中でふれたように、Jean Uptonがこのスタジオ訪問の時のことを書いた文章を二つ知っています。その一つをご紹介しましょう。

"Does anyone have a deerstalker?" by Jean Upton
Sherlock Holmes Gazette, pp.16-18, issue 13, 1995

記事はこちらで読むことができます。最初の3つの画像がこの記事のページです。これは発行年からわかるとおり、協会のスタジオ訪問から8年後、ジェレミーが亡くなった年に書かれた文章です。
http://jeremybrett.livejournal.com/212803.html

Jean Uptonはロンドン・シャーロック・ホームズ協会の会員で、アメリカに住んでいたので、協会のグラナダスタジオ訪問に関するお知らせをアメリカで受け取りました。父親を亡くしてさほどたっていない時期、彼女は悲しみからのがれるためにもイギリスへ行くことに決めました。協会の集まりに参加するのははじめてだったので、待ち合わせの時にわかるようにディア・ストーカー(鹿撃ち帽)を目印にかぶるようにと言われます。

グラナダスタジオでは記者とカメラマンも待ち構えていて、取材しています。「誰かディア・ストーカーを持っていませんか?」とたずねられ、持っていると言うと記者達は喜んで、彼女とジェレミーが一緒にいる写真を撮りはじめました。

そうして写真を撮るうちに、記者たちは彼女が「ホームズのためだけに」イギリスまで来たことに興味を示します。父親の死の悲しみから立ち直るために必要な短い休暇なのだと、彼女は説明しましたが、記者たちはむしろ飛行機代の方に興味を示し、そのことばかりを話題にしました。彼女はそのやりとりが苦痛になり、さらに時差ぼけの影響も手伝って、気持ちがまいってきます。

彼女の言葉です。

「ジェレミーもまた1986年(追記参照)に、Joan Wilson を亡くすという悲しい経験をしていました。ジェレミーは私の声がうわずってきたのを感じ取り、口をはさみました。

『そのくらいで、もういいでしょう、諸君!』そう言うと、私の襟首をつかむようにして、薄暗くて静かな場所へと有無を言わさず連れ去りました。

私は少し鼻をくすんくすんといわせて、何とか気持ちを落ち着けて、そしてお礼を言いました。ジェレミーは私を元気づけるようにしっかりと抱きしめてくれました。眼鏡の細いフレームからレンズがはずれそうになるくらいの強さでした。それから、休憩の前にサインをするために、ジェレミーは戻っていきました。」


「襟首をつかむようにして」というのは親猫が子猫をつれていくようなイメージでしょうか。彼女は記者への対応を一方的に打ち切ってよいか、判断もつかなかったでしょう。その上、気持ちが動揺していた、そういう彼女をジェレミーは、落ち着ける場所へすばやく連れ去ったのだと思います。そして彼女が落ち着いたのを見定めて、ぎゅっと抱きしめて、そして他の人のところにサインをしてあげるためにもどっていった。ぎゅっと抱きしめる姿が、目に見えるような気がします。悲しみを知る人だったジェレミーは、父親を亡くしてすぐの彼女の気持ちがわかった、そして彼女もまた、ジェレミーがわかってくれたことに、こころをなぐさめられたのでしょう。

これが、先日ご紹介した一連の写真の向こう側でおこっていたことの一つでした。

18 December 1987 - Jean Upton & Jeremy Brett
Source: http://www.flickr.com/photos/shsl/sets/72157622856373782/with/4125473063/

RM

追記:実際には、Joanが亡くなったのが1985年、悲しみが引き金となって悪化した双極性障害のためにジェレミーが入院したのが1986年でした。
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コメント

本物の

紳士なのですね。自身の悲しみも癒えていないのに他人の感情にまで敏感に寄り添えるなんて・・ちょっと泣きそうになってしまいました。
ちょうど、ダルビッシュの会見を見ていて日本人らしい潔さ、内に秘めている感謝の念、男らしいな、と感じていました。(サムライなんて言っている報道もありました)

ジェレミーは、紳士(日本語ですね)ジェントルマンが本当に身についている人なんだ、とあらためて感激しました。あの姿勢の素晴らしさ、立ち姿も座っているときも完璧ですよね、崩れている時を見たことがありません。

心がささくれ立っていたので、この記事で気持ちを静めるきっかけが掴めた気がします。
RMさん、ありがとう、私もゆっくり進むタイプです。RMさんもゆっくり、自分のペースでマンチェスター行きの切符(チケットの方がかっこいいですね)買って下さいね。

はい、本物の

紳士だと思います!ひとに向かう時も、ものごとに向かう時も、いつもまっすぐですよね。そして繊細で敏感な面と、あたたかくて、おおらかな面の両方を持っていて、このエピソードには両方があらわれているように思います。悲しみに敏感に気づいて寄添ったあと、眼鏡がこわれるくらいにしっかりと抱きしめる。だいさん、この記事をよろこんでくださって、とてもうれしいです。

札幌ドームでのダルビッシュ、私もニュースでみました。今までダルビッシュのことをあまり知らなかったのですが、あのダルビッシュをみて、心の底から応援したくなりました。自分の言葉でまっすぐにファンに向けて話してくれていましたね。

はい、チケット、買ってきました。ここを読んでくださるかたに支えられています。私もゆっくりと進んでいこうと思います。

本当に!

紳士!ですね。
ホームズ好きの私は、「ホームズに抱きしめられるなんて、シャーロッキアンにとって最高の慰められ方…」なんて思ってしまいますが、、シャーロッキアンとしての彼女と、お父さんの死を悲しんでいる彼女は、同じ人であってもすこし別なような気がします。

同じように、ジェレミーの中にも、ホームズとしての彼と、パートナーを喪って悲しんでいる彼がいて。

この時二人は、俳優とファンじゃなくて、同じ悲しみを知る人間として何かを分かち合ったのですね。

上手く言えないのですが、大勢の人と関わっていても、「大勢」を大きなひとかたまりと錯覚せずに、その中の誰かと「一人と一人」としてすっと自然に向き合える人って、私は無条件に尊敬してしまうんです。(だいさんが挙げられたダルビッシュ選手も、ファンを大事な人ととらえて、真摯に向き合おうとしていましたよね)ちょっとでも、そういう人に近づきたいと思ってしまいます。

先ほどのコメントで

肝心なお礼を書き忘れたまま投稿してしまいました!
二人の写真、まさに親猫と子猫のようですね。
私からも、いとおしい気持ちになれる写真と記事をありがとうございました。

ナツミさん

本当ですね、ジェレミーは一人の人間としてまっすぐ向き合ってくれているのですね。だからインタビューなどを読むのもすごく楽しいし、もっとジェレミーのことを知りたいと思うのですね。私も、そういうジェレミーをとても尊敬しています。実際にはジェレミーと会えなかったたくさんの人が、ジェレミーに影響を受けた、と言っているのも、ジェレミーがそういう人だからかもしれませんね。

そしてすごく率直だし、まわりの人の悲しみも愛情も、強く感じる感受性のゆたかさが大好きです。

>この時二人は、俳優とファンじゃなくて、同じ悲しみを知る人間として何かを分かち合ったのですね。

そうですね。人生の中の辛いできごとの意味がどこにあるか、ということを知るのはむずかしいですが、以前にも書いた「悲しみの共同体」という言葉が思い浮かびます。悲しみを知る人だからこその分かち合い。この時、それがあったのですね。

こちらこそ、ありがとうございました。(ナツミさんのブログ、いつもとても楽しんでいて、妙な質問をたくさんして、でもお礼を書き忘れていました!わー、ごめんなさい!)

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