Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

今日ご紹介する記事は"The Armchair Detective"という雑誌の1992年の号に掲載されていますが、インタビューは1991年春に行われたそうです。以前にもこのインタビューから一回引用したことがあります。
 ・おはなのはなし;インタビュー "Holmes' Encore" (1992)より

Holmes' Encore!
The Armchair Detective, pp.4-13, Vol.25, No.1, 1992

Brett:「シャーロック・ホームズを演じる上で重要なのは、ホームズは時代をこえた最高の名探偵だということです。彼の域に達する探偵は他にはいません。ホームズは論理と推理の天才です。そして女性的な直感も兼ね備えているので、誰もホームズを打ち負かすことはできません。ワトスンは『チクタク』と時を刻む男物の時計で、でもホームズはすばらしい女性的直感を持っています。だからあんなにも魅力的なのです。

「そしてもちろん子供が持つすばらしい性質も持っていて、そこから子供の直感を得ているのです。子供はなんでもみています。違う部屋の泣き声もきこえるし、蜂が蜘蛛の巣にひっかかるのにも気がつきます。こういう子供の感覚は次第に失われて、きこえたりみえたりするものが減っていきますが、ホームズはその感覚を生き生きとたもっていて、2倍にも3倍にも働かせるのです。だから子供はホームズがとても好きで、そして大人も憧れます。ホームズは子供の頃のことを思い出させてくれますから。」

Brett: [...] The great thing about playing Sherlock Holmes is that he is the greatest detective of all time. There is no other detective to touch him. He is a genius of logic and deduction. And also he has feminine intuition, so he is unbeatable. Watson is "tick-tock, tick-tock" with the lock of a man, but Holmes has this brilliant feminine intuition. That's why he appeals so much.

And, of course, he's got this wonderful childlike trait, whereby he's got all the intuition of a child. All children can see everything. They can hear a cry from another room. They can observe a wasp being caught up in a spider's web. It is only later that all those wonderful senses close in and one becomes a little less hearing and a little less seeing. Holmes has kept them alive and done double work, treble work. That's why the children adore him so. And that's why the adults adore him, because he reminds them of their youth.



「ワトスンは『チクタク』と時を刻む男物の時計で」のところ、原文では「Watson is "tick-tock, tick-tock" with the lock of a man」となっていて、「the clock of a man」ではなく「the lock of a man」です。これは誤植だと考えて上のように訳しましたが、あっているかよくわかりません。ちなみにこれはハヤカワのミステリマガジンで翻訳されていて、参考にさせていただいたところ、「ワトスンはコチコチ時を刻む時計のようで男性的だが」となっていて、大意は変わらないと思います。

さて、ホームズとワトスンを対比した上で、ホームズが女性的直感をもっているとしたところは、はじめに読んだ時に意外な感じがしました。それは、特にエドワードのワトスンの中に、ホームズを思いやる、という言わば女性的特質を感じていたからかもしれません。ハドスン夫人を演じたロザリー・ウィリアムズが、

(ハドスン夫人とワトスンの)二人は友情で結ばれている、と言うのがよいと思います。二人ともホームズのことをこころから大切に思っていて、ある意味では協力してホームズの世話をしています。(中略)二人は一緒にホームズの面倒をみていて、ホームズがむちゃくちゃなことにならないように気をつけているということです。(中略)扱いがとてもむずかしくて、それと同時にとても愛すべき人であるホームズを一緒に見守っているのです。
ハドスン夫人とワトスンとホームズ;Rosalie Williamsの1992年のインタビューから(2)

と言っているのを思い出します。でもその後思ったのは、ワトスンはそのような女性的細やかさを持つとともに、ホームズのためならひとを殺すことさえも辞さない、という激しい気持ちを持った元軍人であり(これはジェレミー自身がワトスンを形容した言葉です。「ワトスンをどのように演じたか その2;軍人の血」)、かつ医者という職業にもとづく分析的な目を持つ職業人であるということ(これはエドワードの言葉です。Scarlet Street , 1992)です。そして推理における分析的側面に関しては、探偵と医者には類似点がある、とエドワードは言います。その部分では医者は探偵に匹敵する能力を持ち得るのでしょう。

そう考えると私にも、ジェレミーが「ホームズは、ワトスンにはない女性的直感をもっている」、「子供の感覚を生き生きとたもっている」と言うことの意味がわかった気がします。ワトスンは勇敢な元軍人で医者であるとともに、あたたかくて実際的な女性性を持ち、ホームズは卓越した頭脳の人であるとともに、直感的で魔術的な女性性を持つのではないでしょうか。ワトスンとホームズはここでも、互いに補完しあうものを持っている気がします。

それからまた連想は広がります。ジェレミーは自分は直感的である、と何度も言っていますし、息子のDavid Hugginsもジェレミーのことをそう言っていました(「直観(または直感)にしたがって」)。そしてジェレミーはJoan Wilson(二度目の奥様、ジョーン)についても、直感がとても鋭い、と言います(「ジェレミーの悲しみと、あたたかさ(5); 1991年のDesert Island Discsから(2)」。これはジェレミーの状況や気持ちをとてもよく理解してくれるということや、作品に対するテレビ・プロデューサーとしての感性のことも含めて言っていたのだと想像しています。また、どのインタビューだったでしょうか、自分がジョーンに電話をするといつもかからなくて、それはジョーンもその時自分に電話をかけているからだ、とジェレミーは言っていました。

敏腕プロデューサーのジョーンと俳優のジェレミーと探偵のホームズ、というまったく違うように思える三人に共通するものを、ジェレミーはその演技の中でみせてくれたようにも思えてきました。

この項、もう一回続けるかもしれません。

RM

追記:ここ数日で、ずいぶん以前のEdwardが亡くなった時の記事も含めて、いくつか拍手をいただきました。書いた頃のことを思い出していろいろと感じ、そして読んでくださったかたのお気持ちがうれしくなりました。もう読んでいらっしゃらないかもしれませんが、お礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
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コメント

RMさん、みなさんこんにちは。

そうですね、ホームズのイメージはどちらかと言えば女性的ですね。
些細なことで傷ついたり、ワトスンに(緋色の研究で)
「探偵術を褒められると顔を赤くして、美貌を讃えられた女性のように、
敏感に反応」してましたしね。

ワトスンはやっぱり元軍医なので「男らしい」という
イメージになってしまいますが、ファッショ~ン・チェック!
を読むと細かいところまで見ていて女性以上に評価が厳しいですよね。

ワトスンはホームズと比べられると、いつもドジな役回りみたいに言われますが、
そうではなくて、ホームズにない物をいっぱい持っていますよね。
男らしさはもちろんですが、女性らしい優しい配慮ができる人です。

ジョーンさん直感力はすごいです!!
>ジェレミーの状況や気持ちをとてもよく理解してくれるということや、
作品に対するテレビ・プロデューサーとしての感性のことも含めて言っていたのだと想像しています。
また、どのインタビューだったでしょうか、自分がジョーンに電話をするといつもかからなくて、
それはジョーンもその時自分に電話をかけているからだ<

ジェレミーはそんな奥さんが本当に大好きだったのですね!
そして、その話をしているジェレミーの幸せそうな顔が浮かびます。

トビィさん、こんばんは。

>そうですね、ホームズのイメージはどちらかと言えば女性的ですね。
些細なことで傷ついたり、ワトスンに(緋色の研究で)
「探偵術を褒められると顔を赤くして、美貌を讃えられた女性のように、
敏感に反応」してましたしね

わあ、そうなんですか!私が子供のころに読んだ、やさしく書きかえられた本には、そういう描写はなかったのかもしれませんね。覚えていませんもの。それが理由かはわかりませんが、私は、最初はジェレミーが言っていることが意外に思えたのです。子供の感受性はわかるけど、女性の直感って?と。

それがわかってきたのは、グラナダ版をみつづけて、というのもあるし、ナツミさんのブログを読んで、というのもあります。

>ワトスンはホームズと比べられると、いつもドジな役回りみたいに言われますが、
そうではなくて、ホームズにない物をいっぱい持っていますよね。
男らしさはもちろんですが、女性らしい優しい配慮ができる人です。

そうですね。そして、ホームズは直感によって、ワトスンは思いやりによって、人の気持ちを理解するのでしょうね。

>ジェレミーはそんな奥さんが本当に大好きだったのですね!
そして、その話をしているジェレミーの幸せそうな顔が浮かびます。

そうですね!ジェレミーとジョーンの絆はとても強かったのだろうなあと思います。

男性的なもの、女性的なもの

RMさん、トビィさん、皆さんこんばんは!
RMさん、ここのところ年度末でばたばたしてご無沙汰していましたが、いつも興味深く読ませていただいております。

ホームズとワトスンの、男性的な部分、女性的な部分、そして子どものようなところ。皆さんそれぞれに解釈されていて面白いですね。
ホームズは、もともと女性の「浅知恵」を嘲笑うようなところがあったけれど、アイリーン・アドラーに出会ってから一切そういうことがなくなった、とワトスンが書いていますね。依頼人に「女性の直感は推理家の結論よりも価値がある。そういう事例を何度も見てきた」というようなことを言っていたこともあります。ある程度は学習によって自らの女性的な面を発見し、磨き上げていったのかもしれませんね。

私のとって、ワトスンは穏やかであたたかく、「理想の紳士」のすべてをバランスよく持っている人。ホームズは、女性的な部分や子どものような部分も含め、バランスは欠いているけれどワトスンにない特別なものをたくさん持っている人、という感じでした。
でも、RMさんやトビィさんのおっしゃるように、ワトスンは女性的な気遣いができるし、ホームズの誘いに一も二もなく乗ってしまうという、子どもっぽい部分がありますね。(きっと、奥さんは内心『もう、またホームズさんについて行っちゃったのね!』と、小さな息子を持つ母親のような気持ちでいたと思います)
「男性的」「女性的」「子ども的」というのは、一人の人間の中にぎゅっと詰め込まれている要素なんですね。表現(演技)をする前にまず、それを深く観察して分析しなければならない俳優さんって、まるで人間の研究家みたいですね。俳優という職業にも、探偵や医師に通ずるところがあるのかもしれませんね。

イメージに訴えるものがありますね

ナツミさん、こんばんは。

>ホームズは、もともと女性の「浅知恵」を嘲笑うようなところがあったけれど、アイリーン・アドラーに出会ってから一切そういうことがなくなった、とワトスンが書いていますね。依頼人に「女性の直感は推理家の結論よりも価値がある。そういう事例を何度も見てきた」というようなことを言っていたこともあります。

そうだったんですか!そういうところはすごく柔軟で素直なのですね。あらためるべきところはあらため、認めるべきところは認める。そしてナツミさんがおっしゃるように、自分の中にも新しい面をみつける。

ワトスンはなるほど、気遣いも含めた「理想の紳士」の面と、少年っぽいところと、両方を持っているのですね。うふふ、奥さんも大変だったり、微笑ましく思ったりだったでしょうね。

>「男性的」「女性的」「子ども的」というのは、一人の人間の中にぎゅっと詰め込まれている要素なんですね。

本当にそう思います。男らしい、女らしい、という型にあてはめるのであれば、好きではないのですが、一人の人が持つたくさんの面を「男性的」「女性的」「子ども的」としてみてみると、生命力の源のような普遍的なものが感じられるような気がします。なにかイメージに訴えるものがありますね。

>表現(演技)をする前にまず、それを深く観察して分析しなければならない俳優さんって、まるで人間の研究家みたいですね。

ジェレミーは becomer だったので、特にいろいろと思いをめぐらして、人物像にせまろうとしていたようですね。

あ、そして追伸です。ナツミさんが昨日、ご自分のブログのコメント欄で、ジェレミーとジョーンのことにふれていらしたので、うれしくなりました!私も今回少し書きましたから。

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