Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回の引用箇所への感想です。

このインタビューでは、直接ホームズにつながること以外にも、演技に関して、俳優であることに関して、いろいろと話しているという点がまず興味深かったです。たとえば、「短所と長所」という言い方でジェレミーが自分の演技のことを語るのを読むのもはじめてですし、ここには引用しませんでしたが、ジェレミーがエドワードの若い頃の舞台を見た時のことを話して、熱烈にほめているところもあります。

そして、文字で読んで二人の掛け合いを想像できました。今回最初に引用したところでは、エドワードがまずインタビューアの質問に答えたのに呼応するようにして、ジェレミーが自分のことを話す、次の引用箇所では、ジェレミーが話す中にエドワードが入っていって、そしてジェレミーの言葉を補足する形で、インタビューアにジェレミーの演技のことを話す。そういう、お互いの呼吸をよんで会話を回し合うようなところも楽しむことができました。

引用部分で話題になっているのは、主にジェレミーの声のことです。

訳語について少し書きます。舌癒着(tongue-tie)でRとSの音が出せなかったことは、よくジェレミーが話していました。"speech impediment"と言っているところ、「言語障害」と訳しましたが、Wikipediaによれば、医学的には「言語障害」のなかに「発声障害」、「構音障害」などがあって、ジェレミーの場合は、「構音障害」ということになるようです。しかし「構音」とすると固いので、原文で舌癒着に関連して "voice"と言っているところも「声」としましたし、練習のところは「発音練習」としました。"voice"は辞書では声音(こわね)、発声などを含む広い意味で使われるようで、エドワードがジェレミーの声をほめるところは、すべてを含んでこの語を使っているのでしょう。

さて、引用部分への感想にもどります。最初の部分では、エドワードの「抵抗や反対があった方がいい」という言葉に対して、思いがけない方向からジェレミーの述懐が出てきたこと、構音障害であったことを肯定的に前向きにみているのがこころに残りました。この障害のことをよくインタビューで話していたのは、自分はこう見えても苦労したんだ、と言いたいためではないというのは感じていましたが、構音障害は捨て去るべき過去ではなく、ある意味では祝福であるように話しているのが、今回印象的でした。

そして二番目の引用部分では、それでも弱点と感じていることを述べています。エドワードも言っているように、本当はジェレミーの声はとても表現の幅が広くて、音楽的で、感情が直接こころに訴えかける強さを持っていますよね。ここで「声」と書きましたが、先に述べたように、音色、抑揚、間など、いろいろなものを含んだすべてのことです。

私がジェレミーの声のすばらしさを認識した最初は、映像無しのオーディオブックを聴いた時、そしてラジオインタビューを聴いた時です。ラジオインタビューでは、声のあたたかさと、気持ちがそのまま声に出るまっすぐさを感じましたし、オーディオブックでは、ある人物の性格や感情の動きを、すべて声で表現する力に圧倒されました。映像があると、みとれてしまって(うふふ)声の力のすべては感じ取れないこともあって、声だけの作品もとても好きです。

それでもジェレミーにとっては声は弱点で、だからこそ、声や言葉を大切にしているのですね。

そして、自分の演技に確信が持てない、というのもまた驚きです。これと少し共通することは、以前ご紹介したインタビューでも言っていて、その時も驚きました。
俳優であることの重圧;インタビュー記事 When the lights went out (1990) より
「心の重圧は何よりもまず、自分は俳優なのだ、と自信を持って思うことができなかった、ということと関わっていました。私は有名な軍人の父と、アイルランドのクエーカー教徒の母との間に生まれたのですが、どうしたらこの二人から俳優が生まれる計算になるのかわかりませんでした。私が自分の俳優としての能力を信じられるようになるには、とても長い時間がかかりました。」

でも、演技に確信が持てないからこそ、一つのやり方に固執しないと言っています。そしてそこが自分で好きだ、と。

ジェレミーが作品によって、すっかり変わってみえることは、誰もが驚くことです。そして普段のジェレミーとはまったく違う人格になりきってしまうようであることも。それは"becomer" であるからだと思っていました。Peter Hainingは「役に入り込むとまったく人が変わってしまいます。あれほどの変わり様をみせる人には、それまでまったく会ったことがありませんでした」と言っています。
becomerであること(3)

ジェレミーが役柄によってまったく違う顔を見せるのは、becomerであることも大きいのでしょうが、一つのスタイルにこだわらずに、新しいやり方を求めていることも理由の一つらしいということが、今回の言葉でわかりました。そして同じ演目であっても、いつも何かを発見して、昨日と違う演技をするのですね。そのことは以前読んだインタビューでも言っていました。
ホームズの複雑さ(2);1989年のインタビューから
「僕は今ホームズを演じるのに夢中なので、新しい表現方法が毎日自然に思い浮かんで、突然新しい理解が生まれます。昨日の夜も、ホームズの独白を演じる新しい方法をみつけました。」

最後に汗かきについて。"The Secret of Sherlock Holmes"の舞台をみた人が何人か、ジェレミーの汗のことにふれていたのを覚えています。テレビインタビューをみても、BBCの "The Wogan Interview (1988)" では汗が光ってみえますし、ジェレミーへの最後のインタビュー映像が含まれるドキュメンタリー、BBCの "Playing the Dane (1994)" では、始終汗をぬぐっています。でもそれ以外のインタビュー番組ではそうはみえません。"Bending the Willow"によれば、少なくとも晩年は、薬の副作用による多汗ということでした。だからもともと汗かきというわけではなかったかもしれないのですが、こうして自分のことを冗談の種にするんですよね、「俳優でなく、サウナの経営者にでもなるべきだったよ」と。こういうところも、やっぱりジェレミーらしいと感じます。もしかしたらこのインタビューの時も汗をぬぐうような状態で、それをインタビューアに心配させないように、という気持ちもあったかもしれないと想像しています。

RM
関連記事

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://upwardjb.blog112.fc2.com/tb.php/542-9d6dd1a3

 RM

Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

全ての記事を表示する

04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08 

QR