Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回は、ジェレミーを撮影したMarcus Tylor氏とりえさんと、奈良で1日を一緒に過ごすことになった経緯を書きました。今回は奈良に向かう前に起きたこと、そして奈良での印象深い出来事について書きます。

10月13日は朝の5時起きですから、もちろん前日から持っていくものを準備します。その中に、12日の夜届いた本を大切に入れました。マーカスが出した、ジェレミーの写真集です。13日が近づくにつれて、マーカスと会った時に、「本が届きましたよ」と言いたいけど、到着は間に合わないなあ、とぼんやりと思っていました。ところが12日に不在配達票がはいっていて、夜、本が届きました。ずっと持ち歩いていたいような、とても素敵な本でした。その本をみたとたん、これが今夜届いたのは何か意味があるのだ、奈良に持っていこう、サインをいただこう、とこころに決めて、荷物の中に入れたのです。

奈良へ向かう途中の新幹線で、写真集を開きました。昨夜ざっと読んでいた序文を再度読み始めました。これがとても興味深くて、目にみえるようなのです。そのころのマーカスの生活のこと、撮っていた写真のこと、ジェレミーに写真をとらせてくれないか、とどんなふうに頼み、ジェレミーからどんなふうに返事が来て、実際の撮影はどんなで、後日プリントを持っていったときにどんなことがおきたか。もう一度読み返したとき、撮影した日付が入った1行が目に入りました。 

'Wyndhams Thursday 13th October. 6.45pm. Dressing Room One'

10月13日とは、まさに今日ではありませんか!22年前にWyndhams Theatreでジェレミーを撮った写真家と、そしてりえさんと、ちょうど22年後の今日、奈良ではじめて会うのです。静かな幸せが胸にあふれてきました。ジェレミーが微笑んでいるのがみえるようでした。

りえさんとマーカスと、奈良の待ち合わせ場所で会いました。マーカスはりえさんが書いていらしたとおり、きさくで、楽しくて、自由で、勘がよくて、一緒にいてとても楽しいかたでした。りえさんは笑顔がかわいくて、きれいでやさしい声をしていて、誰とでも自然に話ができて、きくばりができる女性で、マーカスがロンドンでりえさんとのおしゃべりを楽しんだことも、なるほどとわかるようなかたでした。マーカスがのどがかわいたというので、まずはお茶をすることにしました。

おみやげをお互いに渡したり、どこへ行くか考えたりした後、私が本を取り出して、昨夜届きました、読んでびっくりしたのですが、今日はあの日とちょうど同じ日なのですよ、と言ったら、お二人とも驚いて、喜んでくださいました。そしてマーカスに序文に書いていたことを質問したら、マーカスがあらためてその日のこと、プリントをジェレミーの楽屋に持っていった日のことを説明してくれました。私がサインをお願いしたら、マーカスは本に、日付とサインと私への一言を書いてくださいました。マーカスが席をはずした時に、私はりえさんに、同じ日なんて365分の1の確率ですよね、これはきっとジェレミーが・・・と言ったら、りえさんも微笑んでくださいました。それ以上言わなくても、私たちにはわかっていたのです。

でも多分その時にはマーカスにはそうは言わなかったはずです。マーカスはもちろんジェレミーがすばらしい俳優でありすばらしい人間だから、ぜひとも写真を撮りたいと思ったはずですが、それは写真家としてであり、ファンとはまた違うと思っています。いわばプロとして魅了されたのが出発点でしょう。それとやはりこういう感覚は、東洋人の方がより敏感に感じるのではないかと思っていたのです。

私たちは興福寺へ向かい、五重の塔の後、南円堂の前に来ました。マーカスが突然「ジェレミーの魂もここにいて、楽しんでいるだろうね」と言ったのです。私のこころは、また幸せに包まれました。マーカスもそう感じてくれたのですね。私たち3人ここにいて、ジェレミーの魂も共にいると感じられるなんて、なんと不思議で素敵なことなのでしょう。帰りの電車の中で、今日のことをブログに書いてもいい?と尋ねたら、いいよ、ジェレミーの魂のこともね、と言ってくれました。

お茶をしていた時のことにもどります。本の表紙をみながら、この写真集のタイトル「a roll with Jeremy Brett」の意味はわかる?とマーカスに尋ねられました。実はわからないのです、と答えたら、これはpunだ、と説明してくれました。日本語ではだじゃれ、時口と訳されるようですが、sophisticated、intelligentな(洗練された、ちょっとしゃれた、気のきいた)言葉のお遊び、といった表現で説明してくれたように記憶しています。同じ言葉や同じ発音の言葉が、違う意味を持っていて、両方を連想して楽しむような。rollは英語を母語とする人がきくと、発音が同じroleを思い出す、つまり芝居における「役」のこと。ジェレミーが演じたホームズという「役」。そして実際のつづりであるrollの方の意味は一つは、フィルムの「1巻」。マーカスはジェレミーをフィルム1巻、36枚で撮りました。

もう一つは「回転」の意味。子供が床の上でごろごろまわって遊ぶような。英語を母語とする人は、このタイトルをきいて、なんとなくジェレミーとマーカスが、床の上を一緒にごろごろところがっているのを連想するそうなのです。そして表紙ではBrettだけが色がうすくて、「a roll with Jeremy」がまず目にはいるようになっているのは、「a roll with Jeremy Brett」というタイトルで転がっている方を連想すると、さらにcheekyに感じる、と。このcheekyがわからなかったのですが、マーカスは表情で実演してくれました。私の感じでは、何てこと言うんだ、とおどろいて、眉をひそめて、でも密かにちょっとおもしろがっているような、そんな表情でした。ここからは私の想像で、英語に堪能なかたに教えていただきたいところですが、「Jeremy Brett」とフルネームで言及する相手とごろごろ転がることの非常識さ、といったところでしょうか。それに対して「a roll with Jeremy」だと、くすくす笑える、という感じでしょうか。もちろん実際にはごろごろ回ったりしていませんけど。でもこんな三重の意味を連想させる、しゃれたタイトルだったのですね。マーカスがこの写真集を大切に思っていることがうかがえます。

マーカスは日記を読み直して、その日のことを思い出して写真集の序文を書いたそうです。日記に飲み物をこぼしてしまったことがあって、かなりの部分が読めなくなっていたけれども、その日のことはちゃんと読めたそうです。よかった!と思いました。それから日記を読み返して、自分を撮影したある写真が、ジェレミーを撮った日の少し前のものであることに気づいて、これは今回の写真集にふさわしいと思って、入れたそうです。本を買われた方はおわかりになるでしょう、いかにも若いマーカスの写真がついています。

写真集の最初の頁の謝辞に書かれている二人の人がいますが、その内の一人は、マーカスがどこかでたまたま会ったときに、私はWyndham's theatreであなたが写真を撮っていた時に、一緒にあの部屋にいたのですよ、と話しかけてくれた女性で、マーカスは申し訳ないけれども覚えていなかったそうです。それだけ写真を撮ることだけに集中していたのでしょう。たしか、カンパニーマネジャーのアシスタントの女性と言っていたような記憶があります。そして彼女に、その時のジェレミーが赤い靴下をはいていたことを教えてもらったそうです。赤い靴下はジェレミーのあの頃の普段着の定番ですね。マーカスは白黒写真を撮っていたので、自分の目も世界を白黒でとらえていたので覚えていなかった、それで彼女に教えてもらってはじめてわかった、と言っていました。赤い靴下のことも、マーカスの序文に書いてあります。

その他、序文に書いてあったジェレミーの様子、特にプリントを楽屋へ持っていった時の様子を話してくれました。私はもう全身を耳にして聴いていました。そして、ジェレミーはホームズを演じているときよりも、ずっとエネルギッシュでずっとハイだった、ジェレミーはホームズを演じるために、ずいぶん自分の情熱的な側面を抑えていたのだろう、と言っていました。'tame' (野生の動物を飼いならす、抑える)という単語が出てきたのが印象的でした。

もう一つ、マーカスがジェレミーのことを話したことで私の記憶に残っていることがあります。興福寺の五重塔の前での会話でした。マーカスが「オペラ座の怪人」の舞台裏を撮ったある写真で、かつらの線がみえてしまった、とマーカスがジェレミーに言った時のことを話してくれたのです。かつらの線、というのが、はずした後の線なのか、いかにもかつらだとわかる線なのか、私にはわからなかったのですが、それに対してジェレミーが "It's all part of the mystique." と言ったのがマーカスは忘れられない、というのです。mystiqueという語はmysteryという言葉を出して説明してくれました。

でも私にはジェレミーの言葉の意図がわからなくて、舞台の神秘的な雰囲気を守るために、それが薄れるようなそんな写真は撮るべきではないということかしら、でもそう言われたことをマーカスがこんなに大切に覚えているというのは、どういうことかしら、と思って質問しました。ジェレミーはmystiqueが表に出ることを望んでいなかったということ?それに対してマーカスは、カーテンをそっと少しあけて、その隙間から中をのぞき見る仕草をしてくれました。ほんの少しのぞき見るのがいいと思っていたんだと思うよ。ああ、舞台裏をですね。それ以上私の英語では話せませんでしたが、こころの内で言いました。あなたが「オペラ座の怪人」の舞台裏を大切にして、何もかもを明るい光にさらして味気なくしてしまうのではなく、薄暗い光の中で舞台写真よりもさらに雰囲気のある写真を撮ったことを、ジェレミーは認めて評価してくれたのですね。それでジェレミーはあなたに「The Secret of Sherlock Holems」の楽屋での自分を撮らせたのですね。たった15分、撮影用ライトをつけない部屋で、ジェレミーの顔にうかぶさまざまな表情を36枚の写真にうつしとらせたのですね。(マーカスが「オペラ座の怪人」の舞台裏を撮った写真の一部はこちらでみることができます。http://books.google.com/books?id=XxHcwnwsCDgC&printsec=frontcover#v=onepage&q&f=true)

それから私たちはお昼ご飯を頂いて、そこでゆっくりといろいろなことをおしゃべりをしてたくさん笑った後、東大寺大仏殿、二月堂、春日大社をまわりました。春日大社はもう閉門間近、静かな雰囲気を楽しみました。私はその頃はすっかり英語を聴くのも話すのも疲れていて、春日大社へ向かう途中、マーカスから「元気?」と日本語できかれました!もちろん日本語で「元気!」と答えました。りえさんは終始自然でやわらかい雰囲気、よく笑って、マーカスの話にもすぐに応じて返事を返すのです。私は一時は会話はりえさんにおまかせ、という感じで、ときどきわかる範囲で口をはさんでいました。でもお二人とは一緒にいるだけで楽しいのです。マーカスはとにかく話がおもしろくて、そして勘がよくて、私が言いたいこともわかってくれます。

帰りはりえさんは私たちのために、お家へ帰るには遠回りなのに、一緒に近鉄線、地下鉄御堂筋線に乗ってくださいました。マーカスをホテルまでおくるために、二人は途中でおります。地下鉄の電車が走り出すまで、二人はホームで並んで手をふっています。私も電車の中で手をふりました。新大阪へと走る電車の中で、私は幸せな気持ちでいました。なんて不思議な1日だったのでしょう。私たち3人が奈良で会うなんて、なんて不思議な巡り合わせなのでしょう。そしてそれが、マーカスがジェレミーを撮ってからちょうど22年目の日、3人ともにジェレミーの魂が共にいることを感じられたなんて、なんて幸せなことなのでしょう。

RM
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コメント

詳細レポートを有り難うございました!
実は密かに「RMさんなら、すごい詳細レポを上げて下さるに違いない」と期待していた私です・・・他力本願ですいません(^^;
私も、すっかり忘れていたエピソードもあり、こちらを読めば、いつでもあの日に戻れます。
本当に同じ日に、マーカスがジェレミーの写真を撮ったなんて。偶然には思えません。
何度も言いますが、それに気づくRMさんはすごいです!

色々とミラクルな一日でした。
いつか世界のどこかでまた、3人でお会いできるといいな、と思っています♪
ところで、マーカスは新しい人生を始められたんでしょうか、今度メールで聞いてみます(笑)

りえさん

うふふ、書いているうちに文章が長くなるのが、私のいつもの癖です。でも、あの日に戻れると言っていただくとうれしいです。同じ日だと気づいたときは、ふわっと時をこえるような不思議な気持ちで、びっくりするというより、「ああ、あなたですね、ジェレミー」という気持ちでした。

本当にいつか必ず三人でまた会いましょうね。新しい人生をはじめられたか、是非是非マーカスにきいてみてください。

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 RM

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