Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回の記事で引用した中の"never touched apart from being scrubbed by a starched, harsh Victorian nanny"という部分を読んで、連想したことがあります。

母や乳母に抱かれた記憶がないなら、突然女性に抱きつかれたら、それが恋愛感情から来るものではなく感謝の気持ちからだとしても、混乱してしまうでしょう。女嫌いだからではなく、やさしい手で抱きしめられた記憶がないために。そう、私が思い出したのは"The Abbey Grange"(修道院屋敷)のあの場面のことです。

あの若い女性がホームズに抱きつく場面があります。監督のPeter Hammondに「どうふるまっていいかわからないんです。自分だったらどうするかはわかるけど、ホームズならどうするかは、わからない」と言うと、監督は「まあ、やってみてください」と言いました。ホームズがあの美しい女性に抱きしめられるのを、そしてどんなふうに反応するかをみるのは驚くべき瞬間でした。こういった経験ははじめてでした。

There's a moment when the girl throws herself into Holmes's arms, and I said to Peter Hammond, "I don't know how to react to this. I know what I would do, but I don't know what Holmes would do." He said, "Well, just do it." It was an extraordinary moment when one suddenly sees this man completely enveloped by this absolutely beautiful girl and how he's going to react to it. It was all virgin ground for me.

The Sherlock Holmes Review, Vol. 1, Nos. 3/4, 1987

あれはとても印象深い場面ですね。原作では221Bでの場面はCaptain Croker(クローカー船長)のみですが、グラナダ版ではLady Mary Brackenstall(メアリ・ブラックンストール夫人)もホームズから電報で呼ばれて、後から来ます。そして、クローカー船長は無罪、というホームズの言葉にメアリは思わず、"Oh, thank you"とホームズに抱きつきます。ホームズはその瞬間困惑した顔で反射的に身を固くして、それから少しの笑みを浮かべてぎこちなく彼女の抱擁から身を解き、窓際へと歩いていきます。

「修道院屋敷」のあのシーンについて話しているのを、このインタビュー以外では読んだことがありません。ホームズのあの反応は脚本や監督の具体的な指示によるものではなく、ホームズがどうふるまうかをジェレミーがやってみた結果だということがわかって、興味深く感じました。becomerのジェレミーならではです。

RM
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コメント

一度でいいから……

私にも、この場面は印象深かったです。文字通り「固まってしまう」という感じでしたね。
「やってみた」ということは、まったく演技プランなしで撮影に臨んだんでしょうか。
私は演技の勉強をしたことがありませんが、人前で話すことはあります。人前に出る仕事をしている人にとって、「フリーズしてしまう」というのは何よりも怖いことではないでしょうか。私なら反射的に大きく動いたり、ペラペラしゃべって誤魔化したりしてしまうと思うんです。
でも、ジェレミーは自分の中の「ホームズ」に従ったんですね。becomerであるということは、私には実感を持って理解することはできないのですが、RMさんの描写を通して、「ああ、そういうことなのか」と少しずつ想像することができて嬉しいです。

これは絶対に叶わない願いですが、一度でいいからジェレミーの中に入って、"become"を体験してみたいなあ、と思ってしまいます。私はやっぱりホームズになる瞬間を味わってみたいなあ。

コメントのついでのようなご報告になってしまって恐縮ですが、私のブログのコメント欄で犬の話になったので、グラナダ版のドッグトレーナーさんをご紹介なさっていた記事「『四つの署名』撮影時の写真と、Joanとの写真」にリンクをはらせていただきました。
あらためて、トビィ君の可愛さにメロメロです!
ジェレミーのリードさばきに、犬を飼っていらっしゃるbillylabさんが感心なさっていました。

私はホームズにならなくてもいいから……

ナツミさん、こんにちは!

>「やってみた」ということは、まったく演技プランなしで撮影に臨んだんでしょうか。

もちろんメアリをやさしく抱きしめるなんてことは(ジェレミー自身なら抱きしめるでしょうけど!)考えていなかったはずで、ですから大枠はあったと思うのですが、最初から具体的な表情、仕草などは考えていなかったのではないかと想像しています。"Well, just do it."と監督に言われたのですから、事前に考えることも打ち合わせることもしないで、まずはやってみたのではないかと。それからカメラのアングルなどを決めて、本番の撮影はその後でおこなわれたかもしれませんね。

>前に出る仕事をしている人にとって、「フリーズしてしまう」というのは何よりも怖いことではないでしょうか。私なら反射的に大きく動いたり、ペラペラしゃべって誤魔化したりしてしまうと思うんです。

本当、言われてみればそのとおり、すごくよくわかります!ジェレミーのホームズが見せてくれたのは、「フリーズ」した後の照れ隠しじゃなかったですね。自分が思わぬ反応を示したことを、自分にも人にも誤摩化したというのでもなかった。メアリの美しさと、その素直な感情表現から身を守るように、片手で彼女との間をさえぎるようにするのが印象的でした。あの時のホームズは不器用ともいえるくらい自分の気持ちにまっすぐだったのですね。そしてあの時のジェレミーは、ホームズの気持ちにまっすぐだった。

>ジェレミーは自分の中の「ホームズ」に従ったんですね。

ジェレミーの中のホームズは本当にたくさんの複雑な顔を持っていて、とても魅力的ですね。ナツミさんが書いてくださったことで、あらためてそれを感じました。

>RMさんの描写を通して、「ああ、そういうことなのか」と少しずつ想像することができて嬉しいです。

ああ、ありがとうございます!私がここでインタビューなどをご紹介したくなるのも、ジェレミーの言葉を通じていろいろと感じて、想像の翼をひろげてみたいという気持ちがあるからのようです。

>一度でいいからジェレミーの中に入って、"become"を体験してみたいなあ、と思ってしまいます。私はやっぱりホームズになる瞬間を味わってみたいなあ。

うふふ、ナツミさんらしいお言葉です。私はホームズにならなくてもいいから、ジェレミーの中に入ってみたい、なーんてね!

ナツミさんのブログのコメント欄での話題、もちろん知っていますとも!豊かで楽しいコメント・議論のお仲間に、黙ってにこにこしながら私も入れていただいている感じで喜んでいます。どうぞどうぞ、いつでもリンクしてくださいませ。

>ジェレミーのリードさばきに、犬を飼っていらっしゃるbillylabさんが感心なさっていました。

はい、そうでしたね!私は犬も馬も (!) 残念ながら飼ったことがないのでわからないのですが、見る人が見ればジェレミーが犬と馬が大好きなこと、犬と馬がジェレミーを大好きなことは明らかなのでしょう。billylabさんのコメントも、うれしく拝見しました。

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 RM

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