Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

りえさんがブログの記事「第4章『シャーロック・ホームズの冒険』2 」の中で、ジェレミーが「ボヘミアの醜聞」について語っている言葉を紹介してくださっています。Irene Adlerの屋敷でのホームズのことです。そこで、このシーンにジェレミーが触れているほかのインタビューについてりえさんとお話したくて、コメント欄に書き込みました。その時「最近自分のブログでこのインタビューから引用していて、でもはまだここは紹介していないのですけど」と書いたら、このブログでも取り上げてくださいとさきさんが言ってくださいました。リクエストをいただけるのはすごくうれしいです!

そこではじめにりえさんのブログのコメント欄でもご紹介した1985年の雑誌インタビューから引用し、次にこのシーンで感じたことが元となって生まれたホームズのセリフについて、ジェレミーが話している1989年の新聞インタビューもご紹介しましょう。

まずはじめは、こちらからです。
Interview with Jeremy Brett
by Rosemary Herbert
The Armchair Detective, Vol.18, No. 4, Fall 1985

先日も書きましたが、以下のサイトにここからかなり長く引用されていて、今日の部分はここでも読むことができます。
http://www.the-line-up.com/jeremy-brett-sherlock-holmes/

ホームズが怪我のふりをしたとき、Irene(イレーナ)はホームズのとても近くまで来ます。演じた女優のGayle Hunnicutt(ゲイル・ハニカット)はPenhaligon(ペンハリガン)の“Bluebell”(ブルーベル)の香りを身にまとっていて、ホームズの理性にこれが影響します --- ホームズは感覚が鋭いのです --- ホームズの判断は乱れて写真を手に入れ損ねてしまいます。

When he pretends to be hurt, Irene comes very close. The actress, Gayle Hunnicutt, wears a scent called “Bluebell” by Penhaligon. Holmes is affected by this – his senses are acute – and he becomes disoriented and fails to get [the compromising picture of Irene Adler and the Grand Duke].


こんなふうにジェレミーは、香水の名前をあげて撮影の時のことを話しています。ホームズは鋭い感覚を持っていたからこそ、香りで気持ちが乱れたというところ、興味深くよみました。"his senses are acute"と、"sense"の複数を使っていますね。

すぐれた俳優はこのように、実際に演じながら、その時の偶然のような状況をきっかけとして、その人物の感覚と感情を追体験して、役の中に入っていくものなのですね。ゲイル・ハニカットが美しい香りの香水をつけていたのは、もちろん台本にあったわけではありませんから。

ちなみにペンハリガンは、最初の奥様であるAnna Massey(アナ・マッシー)が再婚するお祝いに、ジェレミーが贈ったバスオイルのブランドでもあります(彼女の自伝"Telling Some Tales"より)。そしてりえさんとお会いしたときに、イギリスのお土産としてペンハリガンのバスオイルをいただいたので、このインタビューでジェレミーの口からペンハリガンの名前が出たことをりえさんにお話したくなったのです。
Anna Masseyの自伝と、Penhaligonのバスオイル


さて、この香水の香りのことを、1989年のインタビューでも話しています。この撮影の時に感じたことが元になって、舞台 "The Secret of Sherlock Holmes"の中でのホームズの言葉が生まれた、というのです。以下で引用するのは楽屋でのインタビューで、カナダの新聞に載りました。ご存知の方も多いでしょうが、Jeremy Paul(ジェレミー・ポール)がこの劇の戯曲を書くにあたって、友人であるジェレミーが、自分が「知っている」ホームズのことをテープに吹き込んで彼に渡しています。このインタビューに出てくるホームズの様子や言葉も、ジェレミーが伝えて劇作家がそれを台本の中にいれたのでしょう。

IN PERSON
Actor seeks new clues to the elusive, tormented Holmes
by James Strecker
The Globe and Mail, August 7, 1989

ホームズは「孤独で、自分のことを語らない男です」とブレットは言う。「本に書かれていないことを少しずつ想像力で作り上げていく必要があるのです。大理石の像に割れ目を入れていかなければなりません。」

でもどうやって、そうするのですか?

「たとえばこの芝居の中のホームズの『今でも時おり彼女の香水の香りを感じる』というセリフは、『ボヘミアの醜聞』を撮影している時に、オペラ歌手のイレーナ・アドラーを演じた女優が素晴らしい香りの香水をつけていたことが元で生まれました。ドイルは実際にはそうは書かなかったのですが、ホームズは彼女の美しい胸と、女性という存在が持つ力に圧倒されたということに、私はその時気がついたのです。それを劇の中にいれました。」


Holmes is "an enormously isolated, private man," Brett says. "You have to invent with your imagination the bits that are not there, find the cracks in the marble facade."

How?

"Well, that line, 'I can sometimes catch the fragrance of her scent' was born when we were filming A Scandal in Bohemia and the actress playing the opera star Irene Adler was wearing a wonderful perfume. Although it's a moment that Doyle didn't actually write down, Holmes, I found, is overwhelmed by her beautiful bosom and the power of her femininity, a moment we discovered and put into the play."


"I can sometimes catch the fragrance of her scent(今でも時おり彼女の香水の香りを感じる)"とホームズが言う部分は彼の独白の中で、ワトスンにはホームズの言葉はきこえていません。舞台でのジェレミーの声をおききになりたい方は、Jeremy Brett Information のページにある録音の、第二幕、21分20秒付近からです。

http://jeremybrett.info/media.html

上記アドレスに音声ファイルがあります。以前も書きましたが、このページにある音声ファイルについては、「英米の法律で認められる公正な利用(フェアユース)によって、著作権を持たない著作物をこのウェブサイトで使用するが、読者はこれを営利目的では使用しないように」と書かれていますので、どうぞ守ってください。

元の戯曲では "I can still catch the fragrance of her scent" 、インタビュー中では"I can sometimes catch the fragrance of her scent"となっていますが、この録音では "Sometimes I can catch the fragrance of her scent" と言っています。

撮影時に女優のゲイル・ハニカットがつけていた香水の香りがすばらしかったことをきっかけにホームズの感覚と感情を知って、このセリフが生まれたのですね。ジェレミー自身の感覚が鋭くて、自分の感情にもひとの感情にも気づく細やかさも持っていたから、原典に具体的には書かれていないホームズの様子を感じて表現することができたのだろうと思いました。

以前ご紹介した、ジェレミーがホームズの子供時代を「回想」した言葉の中にも、ホームズの、そしてジェレミーの感覚の鋭さを感じました。
ジェレミーが語るホームズの少年時代;1991年のインタビューより

その時私はこのように書きました。

この部分で私が印象的だと思うのは、とても感覚的だということです。母の香水の香り、ドレスの裾のサラサラという音、ごわごわした乳母のエプロンと、ごしごしと洗われる時の感触、そしてもしかしたら、兄が一人で食べているお菓子のにおい。

ジェレミーにとってホームズは、敏感な感覚と知覚を持つ孤独な少年だったのでしょう。そしてジェレミー自身が、感覚の鋭い子供だったのではないかと思います。


今回の引用部分でも同じように、ジェレミーのホームズの中に、ジェレミー自身が生きていることを感じました。それで、この部分をいつか書きたいと思っていました。


なお、上でIreneのカタカナ表記を「イレーナ」としたことについては、以下の記事をご覧ください。
グラナダ版でのIrene Adler(1): Ireneの名前の発音

そうそうこの「Ireneの名前の発音」の記事の後に、「グラナダ版でのIrene Adler」の続きということで今回の話も含めて何回か書くつもりにしていたのでした。ちょうどナツミさんのブログの記事やコメント欄で、Irene Adlerに関する興味深いお話をたくさん読んだときでした。そのとき書きたかった一つについて、ちょっと遅れてこうして記すことができました。

RM
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コメント

ホームズと香水

RMさんが,香水からホームズの気持ちを考える,というところからジェレミー自身の感覚の鋭さを思うことなど,おもしろく読みました.
俳優として感覚を研ぎ澄ますのは必要なことでしょうけれども,一つ前の記事,ジェレミーが目の前の人に真剣に向き合うことにもつながっているようですね.

わたし自身は目や耳から入る情報で何かを思い出すより,香りでよみがえる記憶のほうが強烈,という印象を持っているので,ホームズがアイリーンの香水を思い出す,というセリフでホームズの気持ちがよりはっきりわかるような気持になります.

どこかで「神は細部に宿る」と聞いたことがありますが,今回もおもしろい記事をありがとうございました.

子供の感覚

さきさん、こんばんは。さきさんのおかげで、以前書くつもりでいたことの一部を、遅ればせながら記事にできました。

さきさんは、ジェレミーの中のホームズと同じように、香りと記憶が結びつくかたなのですね。

>RMさんが,香水からホームズの気持ちを考える,というところからジェレミー自身の感覚の鋭さを思うことなど,おもしろく読みました.

ありがとうございます!そう言っていただけるとうれしいです。

>俳優として感覚を研ぎ澄ますのは必要なことでしょうけれども,一つ前の記事,ジェレミーが目の前の人に真剣に向き合うことにもつながっているようですね.

ジェレミーは自分の気持ちにも目の前にいるひとの気持ちにも敏感、という気がします。でもその一方で、たとえばデイビッド・バークのお誕生日にレストランで真剣に即興の歌詞のセレナーデを歌ってあげて、デイビッドは恥ずかしくて顔が真っ赤になったなんていうのを思い出すと、いい意味で、まわりを気にしない子供らしい純真さも持っていたのでしょうね。
http://upwardjb.blog112.fc2.com/blog-entry-249.html

そして子供はやはり、感覚が鋭いですもの。

こんにちは~♪

こちらでも香水のこと書いて下さって、嬉しいです♪

・・リクエスト・・・していいんですか?
リクエストかどうか、分からないのですが、今年のジェレミーの誕生日、何かコラボで企画できたら楽しいのになぁと思っています!
RMさんのブログと私のブログで、何か共通でイベントじゃないですけど、同じ事に関する記事をアップしたり、二つのブログを読んで意味が分かるものをアップしたり、漠然としていますが、何かご一緒に出来るものがあればなぁ、と思っています。
RMさんの翻訳力には、全然叶いませんが(^_^;)、横断的にできたら、楽しいだろうなぁ♪と。
まだ先のことですが、リクエストさせて頂きます。ふふ(*^_^*)

りえさん、こんにちは。

>同じ事に関する記事をアップしたり、二つのブログを読んで意味が分かるものをアップしたり、漠然としていますが、何かご一緒に出来るものがあればなぁ、と思っています。

わあ、すごく難しそうで、でもすごく素敵です!

以前もたとえば、マーカスと会ったときのことをそれぞれ書いたりしましたよね。あんな感じで、同じテーマ、同じお題でなにか書けたらいいですね。

翻訳は、私のはとても硬いといつも思っています。でも前編後編みたいな感じで翻訳するというのもいいですね。

またどうぞ、提案してください!

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 RM

Author: RM
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和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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