Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

今日はネット上で読める新聞から引用しましょう。前回ご紹介したテレビ番組中のインタビューで、ホームズの持つ静けさについてジェレミーが話していましたね。こちらの記事のインタビューでも話しています。掲載されたBeaver County TimesはPennsylvaniaの新聞で、1991年11月13日付ですからアメリカツアーの時です。

Jeremy Brett reprises his role as Sherlock Holmes
by Lee Winfrey
Beaver County Times, Nov 13, 1991
http://news.google.com/newspapers?id=D7UiAAAAIBAJ&&pg=1217,2695166

Floridaの新聞にも同じ記事があります。ただし記事の最後の部分が省略されています。

Brett delves into Holmes' character
Ocala Star-Banne, Nov 13, 1991
https://news.google.com/newspapers?&id=z8tOAAAAIBAJ&pg=3514,1575850

最初はこんなです。情熱的に語るジェレミーの様子が想像できます。

ジェレミー・ブレットはシャーロック・ホームズを研究し演じることにこの9年間没頭してきたが、20世紀においてもっとも有名なこの探偵の奥深さ、生き生きとした個性、そして性格を、いまだに驚きと情熱をあらわにしながら語る。

Immersed for the last nine years in the study and depiction of Sherlock Holmes, Jeremy Brett still speaks with wonder and enthusiasm about the depth, color and character of the 20th century's most famous detective.


このあと、いろいろと興味深いことをジェレミーが話しています。撮影がはじまる前にホームズについて研究したとき、役に入るためにどんな手がかりを使ったのか、どんなふうにしてホームズという役に近づいていったのかという問いにジェレミーが答えた部分です。そして、ホームズの静けさにも触れています。

多分 --- 滑稽にきこえるのを承知で言うんですけど、でも本当なんです --- ホームズの歩き方がわかったと思った時、ホームズに近づけました。あの歩き方はおもに靴のせいです。挿絵にある先のとがった靴が重要なんです。

それから手の動きがわかりました。ただ、まだつかめていないのは、ホームズの中の静けさです。ホームズは話し始めると止まらないんです。ずっと話しながら静けさを保つには、どうしたらよいのでしょう。

自分の演技で好きでないのは、突然鼻の穴をふくらませたり唇をゆがめたりするところです。そんなふうにしているつもりはないんですけどね。ホームズを演じるのはわくわくします。冒険する男ですから、彼に次にどこに連れていかれるのか、全くわかりません。

"Probably — I know this sounds ridiculous, but it's true — it was when I thought I learned how he walked. That's largely the result of the shoes, the boots with pointed toes that are pictured in the books.

"Then came the hands. The thing I still can't do is his stillness. I find that impossible to get. He never stops talking. How do you keep still when you talk?"

"The things I hate about my performance are when I suddenly see a flare of a nostril or the twist of a lip, and I didn't mean that. He's exciting to play because he's such an adventure. I never know where he's gong to take me next."


まず歩き方のところ、"the boots with pointed toes that are pictured in the books"と言っています。bootsとありますが、イギリスではくるぶしを覆う長さがあればbootと言うと辞典にありました(ランダムハウス英和大辞典)。「ブーツ」と訳すといわゆる長靴を想像しがちですので「靴」と訳しておきました。いくつか挿絵をみると、ホームズの靴はいずれも先がとがってみえました。当時のはやりだったのでしょうか。
(追記:この頃の靴について、さきさんに教えていただきました。コメント欄をご覧ください。)

ジェレミーの手の動き、独特ですよね。ホームズ以外を演じているときや普段も、手の動きも含めた身のこなしが素敵ですけど、ホームズの時は格別ですね。皆様いっぱい思い浮かぶでしょうが、私が今思い出したのは、The Copper Beeches(「ぶなの木屋敷の怪」)で221Bを訪ねてきたヴァイオレット・ハンターを部屋から追い出す仕草。「追い出す」なんて言ったらおこられるかもしれませんが、「さあ話はすんだのだから」という素っ気なくも優雅な手の動き。あの独特な動きがなかったら、単なる失礼な人になってしまいますね。

そして静けさ。「静けさをまだ表現できていない」と言っています。眉や鼻や唇が動いてしまう、と前回のインタビューでも実演まじりに話していました。私たちはたとえば口の端のひそかな動きだけで、ホームズの感情を感じますが、ジェレミーとしては、動きを介して内面を感じさせるだけではなく、完全な静寂の中でもと思っているのでしょう。でも、表情も何も動かしていないけれども、私たちの目が釘づけになる瞬間はたくさんありましたよね。たとえば前回のインタビュー映像に挿入されていた、221Bの窓からモリアーティをみるホームズ、表情がまるで動いてなかったことにあらためて気づきました。

この引用部分からも、ジェレミーが演じることに求めるものの高さと深さを感じます。

それ以外にもホームズの静けさにふれたジェレミーの言葉としては、4年前になりますが「おはなのはなし:インタビュー "Holmes' Encore" (1992)より」で引用したものがあります。この頃は原文併記を原則としていなかったので、あらためてここに引用しましょう。訳も少しかえました。

Holmes' Encore
by Elizabeth Trembley
The Armchair Detective, Vol.25, No.1, 1992

ホームズは内に秘めたエネルギーを持ったままで、外には大いなる静けさをあらわす男と私はとらえていて、そういうホームズを演じているとき、石のように不動でいると思っています。ところが実際は体がピクピクと動いて、鼻の穴を膨らませて、眉をつりあげたりしているんです。ひとには痙攣している大げさな俳優と思われているでしょうね。

I see Holmes as great stillness with tremendous energy. I think when I'm doing it I'm still as stone. But I twitch, my nostrils flare, my eyebrows arch. It comes across as an over-the-top twitching actor.


内に秘めたものと、外にあらわれる静けさと、両方を同時に表現するのが課題だったのでしょう。演じることに情熱を傾けている感じが伝わります。最後のあたりは例によって、きいている人をクスッと笑わせるジェレミーですね。



さて今日は8月7日、ここを始めたのが2010年8月7日の土曜日ですから6年たちました。あの日、三方を高いビルに囲まれた吹き抜けの広場にテーブルと椅子が置いてあるところで、コーヒーを買って日陰の場所を選んですわって、本を読んだり考えたりしていました。その一年前の同じ日に、人生がひっくり返るような、生まれたばかりの赤ん坊の目で世界をみるような経験をしたことを思い出していました。(でもある意味では人生はひっくり返らず私は何も変わらず延々と続いているし、ある意味では毎夜眠りのうちに意識を失っては生まれかわっています。)

そして突然、ブログを始めようと思いたちました。あの夏の日の青空とコーヒーから6年、そしてあのひっくり返った日からの7年を考えると楽しいことも悲しいこともあって、でも過ぎてしまえばすべて、ありがたく思います。これから終わりまでの月日も楽しいことも悲しいこともあって、でも振り返れば懐かしい日々でありますように。ご縁があってここに来てくださる皆様にとっても。

そして今日はEdward Hardwickeのお誕生日です。おめでとうございます。(そして今日がワトスンの誕生日と考えているひともいますね。ブログをはじめて2年目の「かどをまがって」のコメント欄で、ナツミさんに教えていただいたのでした。3年目の「Edward Hardwicke のお誕生日です」の記事の追記に、この説についての情報があるウェブサイトを書いています。)

RM
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コメント

複雑なホームズ像

> The Copper Beeches(「ぶなの木屋敷の怪」)で221Bを訪ねてきたヴァイオレット・ハンターを部屋から追い出す仕草。「追い出す」なんて言ったらおこられるかもしれませんが、「さあ話はすんだのだから」という素っ気なくも優雅な手の動き。あの独特な動きがなかったら、単なる失礼な人になってしまいますね。

ワー、わたしもあのシーン大好きです! 本当に失礼なのに優雅で絶妙ですよね。
ああ、この話、昨日も観たんですが今また観たくなってしまいました(と言いながらもう観始めました笑)
ハンター嬢の手紙を放り投げるとこからして、まー信じられない失礼さで(だがそこがいい)、ドアを開けた後もハンター嬢の背後にホームズずっと映ってますが、そのピントの合わない顔の表情が刻一刻と変化するのがたまりません。まさに釘づけです。
戸口で送り出す手がハンター嬢の背中でひらひらしてるのも「さ、早く出てって」と言ってるみたいで、小心者のわたしなんかどきどきしてしまいますが、ハンター嬢はワトスンが心配そうな顔で敬意をもってしっかり握手してくれるのに対して同情を求めるわけでもなく、「いつでも電報を」というホームズの言葉をしっかりプラスに捉えた返しをしててすごいと思いました。冷たい扱いを受けると結構めげやすい自分には、ハンター嬢の強さは見習いたいところです。

それから「静けさ」の件。とても興味深いです。でも、これは自分の中で消化するのにもう少し時間がかかりそうなので、ノーコメントで。深いですね。こういう、なかなか捉えどころが難しい内容について記事を書いてくださるの、とてもありがたいです。RMさんならでは、だなと思います。
ジェレミーの役者魂というか向上心、演じることへの情熱はすごいですよね。
わたしは、ジェレミーの演じた「静けさ」というとまず思い浮かぶのがThe Good SoldierのEdwardかな。あの人はホームズみたいによく喋る人じゃないし、普通に静か(笑)な感じですけどね。ホームズは複雑で本当に難しい役なんだなとあらためて思います。

ブログを始められた日のことも書いてくださってありがとうございます。感慨深いです。

あのシーン!

>ワー、わたしもあのシーン大好きです! 本当に失礼なのに優雅で絶妙ですよね。

「失礼なのに優雅」という形容がぴったりです!

>ハンター嬢の手紙を放り投げるとこからして、まー信じられない失礼さで(だがそこがいい)、ドアを開けた後もハンター嬢の背後にホームズずっと映ってますが、そのピントの合わない顔の表情が刻一刻と変化するのがたまりません。まさに釘づけです。

ドアを開けて待っているのに、ハンター嬢がまだ去ろうとしないのを知った時の表情の変化ですね。ああ、私もまた観たくなりました。

>戸口で送り出す手がハンター嬢の背中でひらひらしてるのも

はい、あの「ひらひら」が独特で、人を送るときにあんな手の動かし方って、ギャグか、相当失礼な人以外は普通しませんよね。それがあそこは、100%ホームズという感じで受け取れます。

>「いつでも電報を」というホームズの言葉をしっかりプラスに捉えた返しをしててすごいと思いました。

あの芯の強い美しさ。迷いや不安はもちろんあるけど、でもしっかりした女性です。

>ジェレミーの役者魂というか向上心、演じることへの情熱はすごいですよね。

はい、まったく同感です。演じることが本当に好きだったのだと思います。

>わたしは、ジェレミーの演じた「静けさ」というとまず思い浮かぶのがThe Good SoldierのEdwardかな。あの人はホームズみたいによく喋る人じゃないし、普通に静か(笑)な感じですけどね。

たしかに、The Good SoldierのEdwardは「静か」でした。そしてホームズとはまた別の、とらえどころのなさがありますね。

>ブログを始められた日のことも書いてくださってありがとうございます。感慨深いです。

そう言ってくださって、ありがとうございます!光陰矢の如し、懐かしきあの日、です。

毎日暑いです

RMさんに何かが起きた結果,このブログが始まり,そこへお邪魔して勝手なことを書かせてもらっている.

ふだんは思いが至らないけれど,人生って不思議なもの,なんですね.
RMさんが満足されるまで,このブログが続きますようにと願っています.

そして今回もおもしろい記事の紹介をありがとうございます.

「靴」ですか!
ホームズを見つけ出すきっかけのひとつが,靴!
でも,確かに履く靴によって歩き方が変わったりしますもんね.
ほんとうにありとあらゆるアプローチを試みるんですねえ.

それから余計な事かもしれませんけど,bootsについて「ヴィクトリア朝百貨事典」に載っていたので,書き移してしまいますね.
ヴィクトリア朝では今のような短靴ではなくて,男女ともにアンクルブーツを履いていたんだそうです.
1880年代に入ると,細いズボンが流行り,それに合わせてつま先の細く尖ったブーツが好まれるようになった,そうです.

そういえば,「ボヘミアの醜聞」でハドソン夫人の足元が写りますが,確かにくるぶしまである靴を履いていますね.
夏も履いていたんでしょうね.
暑そうだなあ.

まるさん!

わたしも偶然,二三日前に「ぶなの木屋敷」を観たんですけど.
もしかして,今日は「ぶなの木屋敷」を観たほうがいいよ,とナニカで知らせてくれました?

わたしも「用事は終わったから,さっさとお帰りなさい」の手つき,好きです(笑)
でも,その後でホームズに「自分の妹だったら行かせないんだが」と言わせていますね.原作通りではありますが,ただ単にホームズが冷たくて無礼なヤツではない,というグラナダ版の配慮を感じますね.

そういえば,ミス・ハンターと向き合って座った時に,手紙をポイッと投げ出すところもなかなか失礼ですね(笑)
ジェレミーは,手紙がうまくテーブルの上に乗るように工夫して投げ出していますね,
と,例によってキリが無いので,今日はこれでおしまいにします.

わすれもの

さっき,書き込み忘れてしまいました.

6周年,おめでとうございます!!!

(^^)/(^^)/(^^)/(^^)/(^^)/(^^)/

駄々漏れ

> そういえば,「ボヘミアの醜聞」でハドソン夫人の足元が写りますが,確かにくるぶしまである靴を履いていますね.

…そうだったんですか?(まるで記憶に無い) 毎度、よくみてますねぇ~さきさん! 感心します。

> もしかして,今日は「ぶなの木屋敷」を観たほうがいいよ,とナニカで知らせてくれました?

とりたてて送信した覚えは無いんですけど、ナニカが発信されてたんでしょうね。
たぶん目には見えなくてもわたしの周りには毎日グラナダみることによってナニカが駄々漏れていると思うので、きっとさきさんのような同じアンテナを持ってるひとは受信してしまうんだと思います(笑)
お会いして一緒に観るということができなくても、疑似的に「わたしも今みてる」「さっきみたばかり」という風に盛り上がるのも楽しいものですね。

> 「自分の妹だったら行かせないんだが」
> ただ単にホームズが冷たくて無礼なヤツではない,というグラナダ版の配慮を感じますね.

そこまではっきり危険と思ってるなら、何か起こってから電報じゃなくて今止めた方がいいんじゃないの?というツッコミもできますが、「決心された以上結論は出ています」の言葉通り、ハンター嬢の意志を尊重しているんでしょうね。そういうところもホームズかっこいいなーと思います。

わー、これは知らなかった!

さきさん、今日も暑いですね。

>ふだんは思いが至らないけれど,人生って不思議なもの,なんですね.

本当にそうです。時々たちどまってみると、本当に不思議なものに思えますね。

>RMさんが満足されるまで,このブログが続きますようにと願っています.

ありがとうございます!

そしてヴィクトリア朝の靴のこと、全然知りませんでした。とても面白いですね。挿絵をみたとき、くるぶしまであるのか無いのか細部はよくわからなくて、でも普通の靴よりも上まで足をおおっているようにみえました。最初は郊外へ出かけるときの靴の方が、ロンドンの街中や室内よりも少し長めなのかと思っていたのですが、挿絵では特にそうでもなさそうですし、映像でもよくわかりませんでした。さきさんんが「ヴィクトリア朝では今のような短靴ではなくて,男女ともにアンクルブーツを履いていた」と書いてくださったので納得です。そしてたしかに映像でも挿絵でも、つま先がとがり気味でした。ズボンとの兼ね合いだったのですね。

ジェレミーのインタビュー中での一言である"boots"が、より身近にイメージできるようになった瞬間でした。

>そういえば,「ボヘミアの醜聞」でハドソン夫人の足元が写りますが,確かにくるぶしまである靴を履いていますね.

ああ、みてみなければ!まるさんも書いていらっしゃいましたが、さきさんは細部までよくみていらっしゃいます。


そして、わざわざもう一度来てくださって、祝ってくださって、ありがとうございます!

私も同感です!

まるさん、こんにちは。

> 「自分の妹だったら行かせないんだが」
> ただ単にホームズが冷たくて無礼なヤツではない,というグラナダ版の配慮を感じますね.

>>そこまではっきり危険と思ってるなら、何か起こってから電報じゃなくて今止めた方がいいんじゃないの?というツッコミもできますが、「決心された以上結論は出ています」の言葉通り、ハンター嬢の意志を尊重しているんでしょうね。そういうところもホームズかっこいいなーと思います。

自分と顧客の間にある一線をひいて、むやみに踏み込まないのでしょうね。だから妹だったら止めたとしてもハンター嬢の場合は、まるさんがお書きになったように、その意志を尊重したのでしょうね。

ああ、あのときのホームズの表情も口調も声も、いいですね。こちらもまた観なければ。

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 RM

Author: RM
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和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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