Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回引用した1988年の新聞インタビューから、もう少し引用しましょう。

The Debonair New Resident of 221B Baker Street
by Hilary DeVries
The Christian Science Monitor, October 25, 1988
http://www.csmonitor.com/1988/1025/rbrett.html

この同じ記事を当時の紙面のままでご覧になりたいかたは、こちらをどうぞ。(私、当時の紙面を見るのも大好きです。)この記事はLos Angeles Timesなど、アメリカの各地の新聞に載りましたが、以下はアメリカ・メイン州の新聞の紙面です。
Brett The Definitive Sherlock Holmes
by Hilary DeVries
The Lewiston Daily Sun, December 9, 1988
https://news.google.com/newspapers?id=v38pAAAAIBAJ&pg=3295,1657040

「(カメラ・テストでは)かなりせかせかと歩いたと思います。プロデューサーが見兼ねて言いました。『ホームズの中に君自身、ジェレミー自身は全く入らないのかい?』」

カメラ・テスト後の最初のエピソードは「美しき自転車乗り」だった。「ついに撮影がはじまり、いろいろなことをみつけました。大理石の彫像のようなホームズの内面がみえてくる割れ目をみつけた、ということです。女性を気遣うこと、失敗もすること、人間的な感情をうかがわせるちょっとしたことなど。でもホームズは孤独癖があり、個人的なことを表に出さない性格です。感情をしめだしている。だから彼を演じるのは難しいのです。」

しかしブレットはホームズを、少しだけ昔風とも言えようが、この上なく格調高く劇的に演じている。「もちろん私の演技は大げさですよ」笑いながらブレットは言う。「彼をロマンチック・ヒーローの類いのように演じてきたんです。ホームズを演じるには私は向いていないので。俳優は頭の中では素晴らしい考えをいっぱい持って演じても、実際におもてにあらわれるのは、このひどい『自分』なんですよ。」

"And I think I walked rather fast. My brilliant producer finally said, 'Is there going to be anything of Jeremy in this at all?'"

That first episode was "The Solitary Cyclist," about which Brett says, "The momentum had begun and I had begun to find things—the cracks in the marble—such as his delicacy with women, his failures, the little human elements. ... But he's a very isolated, private man, he's removed emotion from his life, and that's what makes him so hard to play."

But play him Brett does, in a supremely, if slightly out-of-fashion, high style. "Of course, the performance is over-the-top," says Brett with a laugh. "But I'll tell you what it is, I've played him as a kind of romantic hero ... because I don't feel adequate for the part. You know, you have all these marvelous ideas in your head and all that comes out is this awful 'you.'"


最初の段落、"My brilliant producer"と言っているのが、いかにもジェレミーですね。「私の素晴らしいプロデューサー」とするのはあまりに直訳でためらわれて、訳には入れられなかったのですが。もっとも私は迷いつつも、いつもかなり直訳調に訳しています。ジェレミーの言葉を削ってしまうのもまたためらわれるので。

2番目の段落の"the cracks in the marble"(大理石の割れ目)という言い方はおなじみで、そして何度きいても印象深いです。そうやってみえてくるものとして最初にあげたのが"his delicacy with women"というのも興味深いですね。迷ったあげく「女性を気遣うこと」としましたが、女性にやさしい恋愛感情を持つということでもないし、女性を男性より弱いものとして気遣うというのでもありませんね、多分。「女性」とひとくくりにくくって終わりなのではなく、その女性を一人のひととしてきちんとみて、考える、ということだと私は思います。たとえば「美しき自転車乗り」で、ホームズはバイオレット嬢のことをしっかりした女性として評価していますし、その上で自分と連絡を絶やさないようにと指示しています。

一番興味をひいたのは引用の最後、"I've played him as a kind of romantic hero"(彼をロマンチック・ヒーローの類いのように演じてきた)ということろです。

ロマンチック・ヒーローという言葉で思い出すのは、1991年のNPRのインタビューです。音声はこちらできけます。
http://jeremybrett.info/media.html

私はホームズを演じるには合わないんです。ロマンチック・ヒーローを演じるタイプの俳優ですから。だから私自身のすごく多くの部分を隠さなければならないことが、よくわかっていました。

"I'm so miscast. I'm a romantic-heroic actor. So I was terribly aware that I had to hide an awful lot of me."


自分はこの役に合わないタイプの俳優だということ、ホームズと自分は正反対だということ、これはこの1991年のインタビュー以外でもよく言っています。だから自分自身を隠さなければならないということも。でも実際には自分自身が出てしまっている(ロマンチック・ヒーローの類いのように演じてきた)と言っているインタビューは、珍しいと思います。それが今回特に1988年のインタビューをご紹介したかった理由です。

この「ロマンチック・ヒーロー」のようにというのは、女性との恋愛劇の主人公という意味では、もちろんないでしょう。ジェレミーのホームズはそんな人物ではないですから。「ロマンチック・ヒーロー」とは、感情が豊か、悩み苦しむ時もある、怒りも喜びも情熱も憐れみも感じる人物ということでしょう。

そして、ジェレミーのホームズの中に、ジェレミー自身がとても美しいかたちで潜んでいることを、私たちはよく知っていますよね!頭でいろいろ考えても実際に演技にあらわれるのは"this awful 'you.'"(このひどい「自分」)なんてジェレミーは言って、多分いつものようにインタビューアをクスッと笑わせたでしょうが、私たちがみるホームズにあらわれているのはもちろん、ジェレミーの魅力、です。


今日は9月11日、明日の9月12日がジェレミーがこの世を去った日です。ずっと記憶に残るホームズ、今も新しい視聴者を獲得し魅了し続けるホームズ、そのホームズの中に、確かにジェレミーというひとの魅力が生き続けていることを感じます。

ジェレミーが演じたホームズは唯一無二であり、もちろん他のどの俳優が演じたホームズもそれぞれ違って、それぞれ唯一無二なのですが、私たちを含む世界の多くのひとがジェレミーのホームズを、映像化作品の中で傑出したものと感じています。あのシリーズはジェレミーの俳優としての実力と、ひととしての魅力が、多くのひとの力と合わさってできた結晶ですね。

一日はやいですが、ジェレミーにこころからの感謝と敬愛の気持ちを送ります。ジェレミーのなかのなにか、死によっても失われないなにかが、いまも美しく輝いていることを信じています。

RM
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