Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

コメント欄でよりしろさんとお話するなかで、ジェレミーのホームズで感じられるユーモアが話題になりました。「マスグレーブ家の儀式書」のあるシーンについてジェレミーが話しているインタビューを思い出したので、みつかったら書きますねと申し上げたのですが、今日はそれではなくて、ホームズの物語は自分が思っていたよりも、あるいは普通に考えられているよりもユーモアを含んでいるとジェレミーが言っている記事を引用します。アメリカの新聞の記事です。

A fresh new Sherlock Holmes makes his debut
by Christopher Andreae
The Christian Science Monitor, October 19, 1983
http://www.csmonitor.com/1983/1019/101924.html

まだイギリスでの放映もはじまっていない1983年10月19日付けのものです。イギリスでは1984年4月24日、アメリカでは1985年3月14日に最初のエピソードである「ボヘミアの醜聞」が放映されました(「アメリカ PBS での放送初日:1985年3月14日」)。ジェレミーの言葉に関しては、筆者が直接インタビューして記事にしたのではなく、イギリスでの記者会見におけるものを引用しながら書いているようです。ただ実際にベーカー街のセットにも行き、撮影がすでに終わっている回の映像もみていて、ホームズの原作にも詳しいことが読んでいてわかります。このグラナダ・シリーズの素晴らしさに魅了されて、アメリカでの放映にはまだ1年半あるこんなはやい時期に、アメリカの新聞で記事にしたのでしょう。

それまで多くの俳優が演じてきたホームズを自分はどうすればよいかわからず、はじめの二週間のリハーサルでは普通でない声で演じたり、奇妙な歩き方をしてみたりした、とジェレミーが話した、その後から引用します。

しかし、自分自身にもっと近づけて演じるべきではないかと監督がブレットに言って、これが重要な鍵になったようだ。ブレットはそれまで冷たくて傲慢なだけの男だと思っていたホームズのことをまあまあ好きになりはじめた。ブレットはまだホームズを「大理石の像」のように感じて演じているが、大理石には「少し割れ目がみえてきた」と言う。

そう思えるのは一つには、ホームズには普通言われているよりももっとユーモアがあると感じられるようになったからだ。彼はこう言う。「たとえばホームズは、手提げランプのもとで拡大鏡を手に突然膝をついて、石のあいだのつぎ目を調べはじめます。これって見た目おかしいですよね。別の話ではホームズは低木をかきわけて、ゴールデン・レトリバーが臭いを追いかけるように突進します。実際にこれをやっているのを脇からみたら、とても滑稽で笑ってしまいます。それからホームズはワトスンをよくからかいますからね。」

But in the end the director suggested that he would have to play Holmes as a character closer to Brett himself. This apparently did the trick. Brett started to find he quite liked a man he had previously thought merely cold and arrogant. He is still playing him as a "marble figure," but the marble has some "slight cracks" in it.

For one thing, he feels that Holmes has more humor than is often recognized. At one point, for instance, he remarks that "Holmes suddenly falls on his knees with a lantern and a magnifying glass and starts inspecting the cracks between some stones. That is funny. On another occasion he rushes through a shrubbery 'like a golden retriever on a scent,' as one Holmes story has it. When you actually do that, it looks very funny. (Also), he often teases Watson."


「美しき自転車乗り」、「まだらの紐」、「海軍条約事件」を撮り終わり、「ボヘミアの醜聞」の制作が進行中だと記事の最初に書かれていて、このような初期の発言だと思うと興味深いです。多分ジェレミーが言っているのは「赤髪連盟」と「ボスコム渓谷の惨劇」のシーンで、その撮影は前者は少し後、後者は放映が1991年ですから撮影は多分1990年、つまり7年後になります。

「ボスコム渓谷の惨劇」、原作にはこんな記述があります。

彼はまるで獲物の臭気をほじくり出す猟犬のように、あたりを駆けずりまわっていたが、やがてレストレードのほうへ向きなおって尋ねた。(延原謙訳)

He ran round, like a dog who is picking up a scent, and then turned upon my companion.


それから少し後にこう書かれています。

彼は立ちあがって、そのへんを駆けまわり、ときに足跡を見失うかと思うと、また見つけたりして、ついに森の中へちょっとはいりこんだところにある、そのへんでいちばんの大木の椈の木の下まで行った。木の向うがわへまわると彼はうれしそうな声をたてて、またもや地上に腹ばいになった。(延原謙訳)

He ran up and down, sometimes losing, sometimes finding the track until we were well within the edge of the wood and under the shadow of a great beech, the largest tree in the neighbourhood. Holmes traced his way to the farther side of this and lay down once more upon his face with a little cry of satisfaction.


駆けまわっては、時に腹ばいになっています。挿絵では大木の根元に近いところでの腹ばいの姿勢を横から描いています。

原作ではshrubbery(潅木)とは書かれていないし、ゴールデン・レトリバーと特定されていなくて、dogです。それででしょう、この記事の最後に筆者は「ホームズがゴールデン・レトリバーのように灌木の中を嗅ぎ回るという場面は原作のどの話にあるのか私にはわからなくて探している」と書いています。(悪口としてではなく、軽口という感じで書いています。)でもジェレミーの頭の中のイメージでは犬はゴールデン・レトリバーだし、ホームズは低い姿勢で動きまわるのでしょう。

これからおよそ7年後に撮影された「ボスコム渓谷の惨劇」では、ジェレミー・ホームズは手掛かりを求めて、馳けまわることはせずもぞもぞと這っていますね。そのホームズの姿を後ろからみたワトスンと警部が、半ば困ったように顔をみあわせます。このあと警部は少し笑いながらホームズをブラッドハウンド犬にたとえて、ワトスンと笑い合います。二人のこういう反応は原作には書かれていないので、もしかしたらジェレミーの発案かもしれません。ホームズが時折の単なる腹ばいではなく地面を這っているのも、ジェレミーが持っていたイメージに近いように思えます。そして私たちもクスリと笑ってしまいます。

「赤髪連盟」のあの動作は、ジェレミーは"That is funny"と言っていますが、笑ってしまうというよりは私はホームズの一挙一動から目が離せなくて、息を飲んで無言で見守っているという感じです。

そして最後の"He often teases Watson"(ホームズはワトスンをよくからかいますからね)というジェレミーの言葉に、うんうんと楽しく頷きました。



火曜日から11月が始まり、11月3日はジェレミーのお誕生日です。りえさんもお忙しいようですね。りえさんからその日にはこれを書きましょうという提案があって、私も書くことができるようならその日に更新するかもしれませんが、そうでなければ次の週末になります。それでちょっとはやいけど、「お誕生日おめでとうございます!」また来年もお祝いの言葉を言うことができますように。そして今もかわらず世界中でジェレミーのホームズが賞賛されていることでも、ジェレミーをはじめとする出演者、スタッフの皆様にお祝いの言葉をおくります。

RM
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コメント

シリーズのユーモアについて大いに論じて下さい^0^

こんばんは!
斜め上から見るような視点と、やんわりとしたほのかな感じがイギリス流のユーモアでしょうかね。でもよく考えるとものすごく可笑しい、という。
ドラマのマスグレーブは私的に一番可笑しみを打ち出してある回だと勝手に解釈してます。ジェレミーもノリノリに見えるのですが。

さきさんに教えてもらったポワロシリーズ、DVDレンタルで探して観ました!
エドさんいましたねー!ホロー荘の当主ですが何となく奥さんの尻に敷かれている感じがやはりピッタリでしたよ。もう一人のエドワード、フォックスさんもいました確かに!こちらはやはり怪しげな雰囲気を醸していましたね。どちらも代表作の雰囲気を裏切らないということでしょうか。
デビさんが出た回も借りてます。もうすぐジェレミーの誕生日ですが、もっと生きていれば彼らのようにいろんなドラマや映画に顔を出しただろうなあとどうしても思わずにはおれません。そんな思いを抱きつつ、これから夜中にかけてデビさんのポワロ回をチェックし、ジェレミーホームズのブルーレイ(これは当然所有している)を観直したいと思います^0^

うふふ、もう少し書いてみます

よりしろさん、こんにちは。

>でもよく考えるとものすごく可笑しい、という。

はい、直球というよりは変化球ですよね。

マスグレーブ、私も好きです。インタビューみつかったので、近いうちに書いてみますね。

>さきさんに教えてもらったポワロシリーズ、DVDレンタルで探して観ました!

おお、はやい!

昨日いただいたコメントでしたが、今日はお誕生日、よりしろさんもいろいろな思い出がおできになったことでしょう。私は特に、りえさんがイギリスに住んでいらした年の11月3日のことをよく覚えています。これからりえさんのところに行ってきまーす。

ポワロのホロ—荘

>さきさんに教えてもらったポワロシリーズ、DVDレンタルで探して観ました!

>おお、はやい!

ほんとに素早いですね,よりしろさん(^^)
わたしも「ホロ—荘」観ました。
エドワード・ハードウィック演じるヘンリー卿は気さくで穏やか,こんな人に「週末はうちへ遊びにいらっしゃい」なんて誘われたら,遠慮を忘れて喜んで出かけていってしまうでしょうね。
そんなヘンリー卿に,この奥さんはちょっと不思議な取り合わせ,このインパクトある奥さんを演じている女優さんも有名な人みたいですね。

この頃のエドワード・ハードウィックは70歳ぐらい,お元気そうですね。
デイビッド・バークがポワロシリーズに出た時は,確かジェレミーが亡くなった年あたりです。
デイビッドも元気そうで(病人の役でしたけど)ジェレミーも元気だったら,まだまだいろんな仕事ができたのに,と思わないではいられませんね。

>「赤髪連盟」のあの動作は、ジェレミーは"That is funny"と言っていますが、笑ってしまうというよりは私はホームズの一挙一動から目が離せなくて、息を飲んで無言で見守っているという感じです。

わたしもです。もう,ドキドキドキという感じです。
ジェレミーの話を読んでいると,地面に伏せるような姿勢にかなり思い入れがあるのかな?と思ってしまいます。
ホームズらしさを現せるユニークな姿勢の一つ,なんでしょうか?

そういう役柄だったのですね

>エドワード・ハードウィック演じるヘンリー卿は気さくで穏やか,こんな人に「週末はうちへ遊びにいらっしゃい」なんて誘われたら,遠慮を忘れて喜んで出かけていってしまうでしょうね。

おお、そんな役なんですね。私がみた宣伝写真では、真面目な表情で、ポアロと一緒にうつっていました。たしか二人ともその写真にサインをしていて、いいなあーと思ってみていました。

>デイビッド・バークがポワロシリーズに出た時は,確かジェレミーが亡くなった年あたりです。

そうなのですか。それではまだまだお若かったでしょうね。といっても、デイビッドは今でも驚くほどお若いですね。

>デイビッドも元気そうで(病人の役でしたけど)ジェレミーも元気だったら,まだまだいろんな仕事ができたのに,と思わないではいられませんね。

はい、本当にそうですね。もう少し演じてほしかった。でも、長いとはいえないけど、ひとりのひとの人生として、すばらしいものでしたね。

>ジェレミーの話を読んでいると,地面に伏せるような姿勢にかなり思い入れがあるのかな?と思ってしまいます。
ホームズらしさを現せるユニークな姿勢の一つ,なんでしょうか?

そう言えばそうですね。どちらも地面に伏せています。ジェレミーにとってホームズの姿勢としては意外だったからこそ、ホームズらしさをあらわせるということでしょうか。ジェレミーの言葉、これからも気をつけて読んでみます。

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 RM

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