Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

The Musgrave Ritual(マスグレーブ家の儀式書)の宝探しの場面についてジェレミーが話している、1987年のインタビューがみつかったので、この場面のことを書いてみます。

でもその前に、たまたま読み返した他のインタビューでEdward Hardwike(エドワード・ハードウィック)も「マスグレーブ家の儀式書」について話していて、ジェレミーが話していることと関係するので、こちらを先に引用します。これはジェレミー、エドワード、Michael Coxへのインタビュー記事で、以下はエドワードの発言です。

Holmes' Encore
by Elizabeth Trembley
The Armchair Detective, Vol.25, No.1, 1992

エドワード・ハードウィック:ドイルによるホームズの物語は正確で論理的だと思われているのに、滑稽で理屈にあわないことが時々みつかるので、私はびっくりして笑ってしまいます。今思い出したのは「マスグレーブ家の儀式書」での、儀式書に書かれている謎です。私たちは実際にあれをやってみたのですが、ぐるっとまわってはじめの場所に戻ってきたんです!ドイルが書いたものにはこんな小さな間違いがたくさんあります。でもこれはたいしたことではなくて、ドイルが書くと読者はそのまま信じるのです。真に優れた作品だけができることです。

Edward Hardwicke: [...] One is surprised sometimes, though — he is known for precision and logic, but it amazes and amuses me to come across things which are ludicrous. One that springs to mind is the riddle they must solve in "The Musgrave Ritual." We actually did it and went around in a complete circle, ending up where we started! Doyle is full of little things like that. But it doesn't really matter because he's managed to convince you, which is what really good writing is about.


えっ、はじめの場所に戻ってきた("ending up where we started")のですか?

原作では

北へ十歩、而して十歩、
東へ五歩、而して五歩、
南へ二歩、而して二歩、
西へ一歩、而して一歩、
かくして下に。(延原謙訳)

'North by ten and by ten, east by five and by five, south by two and by two, west by one and by one, and so under.'


となっています。

そしてこれの謎解きでは

『北へ十歩、而して十歩』とある通り、両方の足で十歩ずつ北へ進むのは、ちょうど家の外壁に沿って歩くことになる。僕はその最後の地点にくいでしるしをつけた。それから注意して東へ五歩ずつ、つぎに南へ二歩ずつ歩くと、ちょうど旧館の玄関の敷居のところで、そこから西へ二歩ゆくことは、石鋪の廊下へそれだけはいってゆくことだ。これが儀式文に明示された場所なんだ。(延原謙訳)

Ten steps with each foot took me along parallel with the wall of the house, and again I marked my spot with a peg. Then I carefully paced off five to the east and two to the south. It brought me to the very threshold of the old door. Two steps to the west meant now that I was to go two paces down the stone-flagged passage, and this was the place indicated by the Ritual.


「両方の足で十歩ずつ北へ進む」とは北へ20歩あるくという意味ですね。そうすると北へ20歩、東へ10歩、南へ4歩、西へ2歩で、厳密には元にはもどりませんけどぐるっとまわって、最初の場所がすぐそこに見えるたいして変わりばえしない場所に立つことになりますね。

私はここが「北、東、南、西」となっていることに全然気がつきませんでした。シャーロッキアンの間で、ここがどう論議されているか私はまったく知りません。当然いろいろなことが言われているのでしょうね。


それでは次はジェレミーの言葉です。

The SHR Interview: Jeremy Brett
The Sherlock Holmes Review, Vol.1, Nos.3/4, 1987

あのシーンで一番面白いのは、宝探しの徒歩旅行でドイルが示したとおりの図形を実際にたどって歩くと、始まりと同じ場所に戻ってくるということです。でも私たちは歩く道筋を変更しました。

The funniest thing about that is that if you actually follow that diagram that Doyle has drawn for that walkabout, you actually come back to the same place from which you started. But we changed that.


どう変えたのでしょう?Jeremy Paulの台本ではこうです。(実際の映像の字幕も、句読点や数字の書き方が違う他は同様です。)

The Musgrave Ritual
A Television Script by Jeremy Pau l (1986, Ian Henry Publication)

'West 8 by 8. South 7 by 7. West 6 by 6. South 5 by 5. And 2 by 2, and so - under.'


そして実際に歩く時にはたとえば

Watson: West 8 by 8.
Holmes: Sixty-four.


と言っています。なるほど、西へ64歩、南へ49歩、西へ36歩、南へ25歩あるいて掘に出て、そこからホームズはボートのへさきに堂々と立ち(マスグレーブはボートを漕ぎ、ワトスンはマスグレーブに指示して方向を微修正し)着いたところで4歩進む、というように変えたのですね。ボートに乗るのは原作にはないということは知っていましたが、歩く方角と歩数がこんなに違うのは知りませんでした。

方角を変えたのは、出発点に戻らずに遠ざかるためでしょう。歩数は原作ではあわせて36歩であるところを178歩とほぼ5倍にしたから、劇的、ちょっと滑稽、目を離せないあのシーンが生まれたのですね。ところで「西へ64歩、南へ49歩、西へ36歩、南へ25歩」なら「西へ64歩+36歩、南へ49歩+25歩」歩いても同じに思えますが、もちろんそれではあのシーンの効果は半減します。ジグサグに歩いて、最後の25歩の先でお堀に出るからいいんですよね。

グラナダ・シリーズでの方角と歩数変更のこととその理由を、私はグラナダ・シリーズの解説書で触れているのを読んだ記憶がないのですが、当然どこかに書かれているのでしょう。 宝島社のDVDブックとA Study in Celluloid にはありませんでした。(追記:Bending the Willowにも書かれていませんでした。)私はジェレミーとエドワードの言葉ではじめて知って、面白く感じました。

でも私がこの儀式書中の指示のことで、何かとんでもない思い違いをしていないとも限りません。シャーロッキアンのかた、気がついたことがおありでしたらどうぞ教えてください。

次回は、ホームズが庭園を大またでものすごい勢いで歩くことについて、ジェレミーが話しているところを引用するつもりです。

RM
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コメント

ぐるっとまわりますか!

以前,グラナダ版での歩数の変更に気がついて,きっとホームズが宝物に突進するあの演出のために変えたんだろうなあ,と思っていました。

でも方角を指示通りに歩くと元に近くなるとは気がつきませんでした。
シャーロキアンへの道はとっても遠いですね(笑)

ちくま文庫の「詳註版シャーロック・ホームズ全集」には様々なシャーロキアンの研究が載っていますが,もちろん「マスグレーブ家の儀式書」についてもいろいろ書いてありました。
この歩数では旧家にしてはマスグレーブの屋敷は小さくないだろうか,とか,それならこんな形の屋敷を想定すればいいんじゃないんだろうか,とか。

ほんとにシャーロキアンへの道は遠いです(笑)

とはいえ,エドワードの言うとおり,この程度のことではドイルの小説の魅力はちっとも損なわれないところがすごいですね。

ちなみにボートに仁王立ちのホームズが,ちょっと顔を動かして演技にアクセントをつけるところが大好きです。

他にも「六つのナポレオン」で最後のナポレオン像を持ってきたサンドフォード氏を追い出すように帰してから,扉の前に立ち,いたずらっぽい顔で目だけ動かしてワトソン達を見るところ,とか,一瞬の動きのタイミングが本当にうまいですね,ジェレミーって。

次回のブログもとっても楽しみにしています。


ああよかった!私の勘違いじゃないのですね。

さきさん、こんばんは。

>ちくま文庫の「詳註版シャーロック・ホームズ全集」には様々なシャーロキアンの研究が載っていますが,もちろん「マスグレーブ家の儀式書」についてもいろいろ書いてありました。
この歩数では旧家にしてはマスグレーブの屋敷は小さくないだろうか,とか,それならこんな形の屋敷を想定すればいいんじゃないんだろうか,とか。

おお、教えてくださってありがとうございます!

シャーロキアンが議論していないようなら、エドワードやジェレミーの言葉を私が勘違いしているのかもしれない、と思っていました。

やはり、あの方角とあの歩数だったらどんな可能性があるか、議論されているのですね。

>ほんとにシャーロキアンへの道は遠いです(笑)

うふふ、本当に。でもさきさんは、ちくま文庫の「詳註版シャーロック・ホームズ全集」を読んでいらっしゃるのですね。立派にシャーロキアンの仲間入りではないですか!

>ちなみにボートに仁王立ちのホームズが,ちょっと顔を動かして演技にアクセントをつけるところが大好きです。

ああ、そうでした!今、もう一度観てみました。さきさん、よく覚えていらっしゃる。

>扉の前に立ち,いたずらっぽい顔で目だけ動かしてワトソン達を見るところ,とか,

これも、今観ました。かわいい笑顔です!

>次回のブログもとっても楽しみにしています。

ありがとうございます!そう言っていただけると、りえさんがおっしゃった、テニスのようにボールをやりとりする、という表現が思い浮かびます。楽しみにしてくださるかたに、ボールをまた打ち返すことができます。(ちなみにエドワードもジェレミーとの共演をテニスに例えているので、りえさんの言葉でそれを思い出して、グッと来ました。)

マスグレーブ編!

マスグレーブ編は好きなグラナダトップ3に入ります!コカインでラリっているところ、そのせいか翌日眠くてたまらないところ、なのに事件ぽくなると急にらんらんとして先頭に立つところ等々。ジェレミーの演技がすっかり板について余裕のホームズという感じです。
頼りない感じのマスグレーブさんもゲスト役者の中では一番印象的でした。男3人で暖炉の前で下世話な井戸端会議風の図もなかなかです。
はりきって歩数を測るジェレミーホームズは本当に傑作ですが、そんな裏話があったとは。
いつも格調高い中に抑えたユーモアがあるのが大好きです。
ちなみに個人的再生回数トップ3を言いますと、
マスグレーブ、第二の血痕、六つのナポレオン
なんというか、シリーズ中期の安定感がいいです。ジェレミーはその時すでにいろんな困難を背負っていたのに、なんでホームズ像はこんなに安定感があるのか不思議でしかたありません。細やかな表情にはジェレミーらしい人情がすっかり出ているようにも思います。

こうしてコメント書いているだけでまた見直したくなってしまいます・・・

私も好きです!

よりしろさん、こんばんは。
わあ、たくさん好きなシーンをあげてくださって、そうそう、と思い出してうなずきました。名場面がいっぱいですよね。

>いつも格調高い中に抑えたユーモアがあるのが大好きです。

ああ、まさにそうです!

>ちなみに個人的再生回数トップ3を言いますと、
マスグレーブ、第二の血痕、六つのナポレオン

おお、そうでしたか!私は...再生回数が一番多いのは、やはり第一回目の「ボヘミアの醜聞」かもしれません。一番好きなのは...というと、答えられませんね、選べなくて!

>なんというか、シリーズ中期の安定感がいいです。

安定感があるからこそ、抑えたユーモアが生きてくるのでしょうね。この三作、そう言えばどれもクスッと笑える、あるいは思わず微笑んでしまうシーンが思い浮かびます。

>こうしてコメント書いているだけでまた見直したくなってしまいます・・・

私もコメントをいただくと、いつもそのシーンを見直しています。あ、記事を書くときもそうです。うっかりもので、自分では気がつかないことが多いので、うれしいのです。

私もです

>ちなみに個人的再生回数トップ3を言いますと、
マスグレーブ、第二の血痕、六つのナポレオン

よりしろさんの好きなこの三つの話,私も大好きです。

でも

>一番好きなのは...というと、答えられませんね、選べなくて!
というRMさんにも賛成です。
それぞれのお話にみんな見所があって,決められませんね。(^^)

そういえば「マスグレーブ家の儀式書」にはひとつだけ不満があります。
それはシリーズ全部の中で唯一,ホームズの正装場面があるのにホームズが膝掛け?をまとっていることです!
せっかくの正装姿,ちゃんと見たいのに!見るたびにぶつぶつ言っています。
もっともマスグレーブが結婚していないと聞いて,悪だくみ風な顔つきで左右に視線をむけるシーンは好きなんですけど。
ご婦人がいないとお行儀良くしなくていいのでうれしい,ということなんでしょうね(笑)

>私もコメントをいただくと、いつもそのシーンを見直しています。あ、記事を書くときもそうです。

RMさん,ほんとにいつもきちんとしてらっしゃいますね。
ずぼらなわたしは,いい加減で(^^)つくづく自分のブログはつくれないな,と思う瞬間です。

でも,必要なシーンを見直そうとして,ずっと見ていたくなったりしませんか?
その上,さらに他のも観たくなったりして,それはそれで時間がいくらあっても足りなくて困りますね。(笑)


How wise!!!

さきさんこんにちは!
膝掛けは変わった格好ですよね。ジェレミーのアイデアでしょうか。そういうところも中期の余裕!?笑
How wise!! のシーンは私も大好きです。寝る時に横になってタブレットで見直すことが多いのですが、可笑しくてくすくすしながらつい繰り返し再生してしまいます。
というか、どのシーンもそんな感じでつい寝る時間が遅くなってしまうのですよね。
もちろん他のもまた見たくなって夜中の2時ころにはもう目がらんらん・・・
という日が何度もあります。
本当に完成度が高くて細部まで行き届いてるから繰り返し見るに耐えるのですよね。
そうしているうちに、ジェレミーの演技の高さにつくづく気付かされます。すごいなあ・・プロだなあ・・
ジェレミーのyou tube のコメント欄に、今ハリウッドでもそんな俳優いるのか、というコメントありましたが、お金も交際も派手な人たちの世界を見ると、本当にジェレミーはストイックで地味で生真面目に生きたんだなあ、と思います。

さきさん、こんばんは!

>そういえば「マスグレーブ家の儀式書」にはひとつだけ不満があります。
それはシリーズ全部の中で唯一,ホームズの正装場面があるのにホームズが膝掛け?をまとっていることです!

おお、あの膝掛け!と、ここで例によって、みなおしてみました。膝掛けをまとった姿で記憶の中に焼きついていて、正装ということは忘れていました。膝掛け似合ってますけど確かに残念でもありますね。正装はシリーズ中ここだけだったのですね、知りませんでした。「銀星号事件」は違ったかしらと思って観てみたら、ワトスンは正装だけどホームズはいつものいでたちでした。

>もっともマスグレーブが結婚していないと聞いて,悪だくみ風な顔つきで左右に視線をむけるシーンは好きなんですけど。

ここも観ました。あそこ、ホームズは視線を動かして何を見ているのでしょうね。

>でも,必要なシーンを見直そうとして,ずっと見ていたくなったりしませんか?
その上,さらに他のも観たくなったりして,それはそれで時間がいくらあっても足りなくて困りますね。(笑)

うふふ、そうですね。思わずずっと見てしまう時もあるし、でも断片的に見ても幸せになれるし、といった感じです。

よりしろさん、こんにちは!

> 本当に完成度が高くて細部まで行き届いてるから繰り返し見るに耐えるのですよね。

そして私は、何度みても新しい発見があります。というか、私がぼんやりなのですけど。ですからコメントを拝見しては見直して、毎回びっくりします。

> そうしているうちに、ジェレミーの演技の高さにつくづく気付かされます。すごいなあ・・プロだなあ・・

ジェレミーがホームズを演じることがなかったら、ジェレミー・ブレットという俳優の素晴らしさを私も世界の多くの人も知らなかったでしょうね。ジェレミーとホームズのご縁に感謝します。

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 RM

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