Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

自分の日常には関係がない遠いところに、ひとの大きな苦しみがある時、私はこの日常においてどう感じてどう暮らしていくのだろう。そう思うときに、ジェレミーの言葉で思い出すものがあります。

1989年のインタビューからです。このインタビューの抄訳を以前2回にわけてご紹介したことがあります。このブログを始めた年の記事で、この頃は原文を引用していませんでした。
「Scrawl」のインタビューから(1989年)(1)
「Scrawl」のインタビューから(1989年)(2)

このインタビュー全体が読める場所のアドレスをこの記事で書いていましたが、リンクをクリックしたらもうサイトがなくなっていました。検索したら新しい場所がわかりました。とてもいいインタビューですから、あらためてアドレスを書き、最初の部分をまずご紹介します。

https://questingbeastscrawl.blogspot.jp
こちらのページの上の方に"EXCLUSIVE SCRAWL INTERVIEWS"とあって、その中の"Jeremy Brett"をクリックするとPDFファイルが開いて、ダウンロードもできます。
"The Wonderful Mystery of Sherlock Holmes"
Scrawl, 2002

記事の最初にインタビューアの前書きがあります。この1989年のインタビューが2002年にウェブ上で発行された経緯の説明です。

1989年の終わり近くにイギリスの名優ジェレミー・ブレットと会って話す素晴らしい機会を得たときのことを、私は今でもはっきりと覚えていて、喜びとともに思い出す。そのインタビューはOutlookというロンドンの小さな雑誌のためのもので、次の号の巻頭特集として載るはずだった。しかし、音楽チャートに出はじめたあるデュオのほうがもっと「ヒップ」で、その雑誌が取りこみたいと必死だった若者層に受けがよい、と音楽担当の編集者が発行者を説得したために、ブレットの名は表紙から抜け落ち、Sohoという名がそれにかわり、ブレットの特集は切り刻まれて1ページだけになった。それから10年以上がたって、一度限りのヒットに終わったSohoを覚えているひともほとんどいないだろう。雑誌の発行者も他の仕事に移り、ジェレミー・ブレットも悲しいことに亡くなってしまった。だが別の言い方をすれば、Sohoもいない、雑誌もなくなった、だがジェレミー・ブレットは今でもその名前をよく知られていて永遠に生き続けている。特に、卓越した表現で最高のシャーロック・ホームズを演じたことによって。そして世界中にいるたくさんのファンに愛されている。そしてついに、このインタビューを当初の予定どおりの形で読者に読んでもらおう。

Late in 1989, I had the great privilege to meet and talk with Jeremy Brett, one of the great British actors. I still recall the event with great clarity and pleasure. I conducted the interview for Outlook, a small London-based journal, and it was to be the lead feature for an up-coming issue. Unfortunately, the music editor convinced the publisher that a new chart-bound pop duet, were more 'hip' and would appeal to the young readership the magazine so desperately courted. Hence, Brett was dropped from the cover to be replaced by Soho, and the feature was hacked down to a single page. Now, more than a decade later, Soho are perhaps remembered by very few for their one chart hit, the publisher of Outlook has moved onto other things, and Jeremy Brett is, tragically, no longer with us. Or to put it another way, Soho gone, Outlook gone, Jeremy Brett still a household name, immortalised in particular for his masterly rendering of the definitive Shelock Holmes, loved by millions of fans across the globe... and finally, I get the chance to present the interview as intended.


このインタビューアがずっとこのインタビューを忘れなかったように、今もグラナダシリーズが新しいファンを獲得しているように、ジェレミーの「いのち」はなんと長いのでしょう。本物というのはそういうことなのでしょう。

私の以前の2回の記事で書いたように、このインタビューはとてもよいものです。ホームズとワトスンの関係のことから、息子との会話まで多岐に渡っていて、しかも深いのです。

この中から、今日はジェレミーの以下の言葉を引用しましょう。インタビューアが、ホームズ以外でいま気にかけていることがありますか、何か怒りを感じることがありますかと尋ねます。ジェレミーの答えです。

「私たち皆が怒っていることがありますね。怒り続けていたら、怒りで死んでしまうほどです。かばんを手にさげ戦車の前に立つ、あの青年のことが頭から離れません。そしてあの広場の人々を軍隊が掃き散らしたということ...。私たちはベイルートも失いつつあります。でもどうやってそのようなことと共存して暮らしていけばよいのでしょう。世界のことを気にかける普通の良心を持っているとして、ではどうしたらよいのでしょう?

もし何も感じずにいるとすれば、愚か者の仲間です。もし深い夢から覚めた時に、自分がすすり泣いているのに気がついて、夢の記憶をさかのぼると自分がベイルートの市街を走っていたとしたら...。私の神経過敏なところ、感じやすさが意識下におさまっていることをいつもありがたく思います。

こういうことを話すのはある意味では危険なのです。軽々しくきこえますから。でも軽々しいことではないのです!とても重要なことなのです。」

"Well there are things that make us all steam – but if you go on steaming, you'll just die in steam. The boy swinging his bag in front of a tank is in my mind all the time, and the fact that they swept the square over... We're losing another city, Beirut. But how do you live with that? You may have a universal conscience, but what to do?

"If you don't feel it, you're among the brainless. If you come out of the tunnel of a dream and find that you're weeping and trace it back, and you've been running down a street in Beirut... I'm always glad that sensibility has come with me into the subconscious...

"It’s very dangerous to talk about these things in a kind of way, because I don't mean them to sound flip – they're not! They are profoundly important."


意味を取り違えていないように、意味はあっていても間違ったニュアンスを伝えていないようにと願っています。

以前は"The boy swinging his bag in front of a tank"というのを、衣類などが入ったかばんを手にして戦地となった市街にいる少年のイメージで読んでいました。今回調べたら、これは中国の天安門事件の時に戦車の前に一人たち、戦車が彼を避けて横に進路をかえようとするたびに、戦車の前に立ちふさがった青年のことだろうということがわかりました。1989年6月4日のことです。撮影したカメラマンは、shopping bagを手に、と言っています。
"Tank Man: The amazing story behind THAT photo - Newsnight"
https://youtu.be/SACHK-W4o1E?t=3m50s

彼を写した写真は雑誌LifeやTimeに載り、多くの新聞や雑誌の表紙になりました。その写真はたとえばこちらでみることができます。
Incredible Images Tell The Story Of A Photo Of A Man Who Stood Down Chinese Military Tanks
by Christian Storm
Business Insider, Jul. 22, 2014
http://www.businessinsider.com/famous-tiananmen-square-tank-man-photograph-contact-sheet-2014-7

私もこの光景を覚えています。写真もそうですし、BBC NewsnightがYoutubeに公開している映像(二つ上のアドレス)も当時のニュースでおそらくみたと思います。どうしてこんなことができるのだろう、自分ならその時どう思うだろう、どうするだろう、からだのどこかが痺れるような気持ちの中でそう感じました。ジェレミーはおそらく天安門でのこの時のことを言っていたのですね。the squareというのは天安門広場のことだったのですね。それを今回はじめて知りました。

イギリスから遠いアジアの国、中国の青年のことをジェレミーはどう思っていたでしょう。レバノン内戦の元での一般人の恐怖と苦しみをどう思っていたでしょう。

私がジェレミーの言葉で思うのはこういうことです。

何も感じないわけにはいかない。私たちにはこころがあるのだから。
一方で私たちがこころをかき乱されて、日々の生活でのこころの平和を失うことで、なんの良いことがあろうか。私たちにとっても、苦しんでいるひとたちにとっても。
でも何も感じないふりはできない。一人の人間の言葉として語らねばならない。知らねばならない。大切なことなのだから。


アレッポの人たちがどのような状況にいるかを知る一つの材料として以下の記事を読み、そのアドレスを記します。

「最後のメッセージです」アレッポ市民がTwitterに投稿した別れの言葉
ハフィントンポスト、2016年12月14日
http://www.huffingtonpost.jp/2016/12/14/aleppo_n_13616910.html

RM
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コメント

1989年て世界の転換点だったかも

私達は遠く離れていても、昔のことでも、想像し共感し追体験していると思うのですが、ジェレミーはもっとダイレクトに受け取って感じるタイプだったと思います。そして世界は1989年当時より更に狂った状況が報道されています。もしジェレミーが生きていたら耐えられなかったかも、とさえ思います。
この地上で何が出来るのか、結局は個人から出発するしかないと思いました。
ジェレミーの貴重なインタビューありがとうございます。味わって読ませて頂きます。嬉しいです。

はい、ジェレミーはそういうひとだったと思います

よりしろさん、こんにちは。

私もまったく同感で、ジェレミーは生身の自分が体験していることを越えて、ひとの感情も感じやすい人だったのではないかと思います。becomerですものね。

>この地上で何が出来るのか、結局は個人から出発するしかないと思いました。

こちらもまったく同感です。いま、この日常にいて、この毎日をすごすことから始まるのですよね。いろいろなことがさらに悪くなっているように感じられますが、いたずらに気持ちを乱されることなく、かといってあきらめたり見ないふりをしたりするのでもなく、ひととして、できれば賢くあたたかくやわらかく生きたいとあらためて思いました。

このインタビュー、私も好きです。そうそう、ジェレミーがこの中でホームズのことを"And he's such a comedian!"と言っていますね。よりしろさんがジェレミー・ホームズのことを「大変品のあるコメディアンに見えることがあります!」とおっしゃったのを、ジェレミーはうれしく思うでしょうね!

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 RM

Author: RM
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