Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

前回と同じこの1990年発行の小冊子からですが、記事のタイトルで「1989年のインタビューより」としたのは、インタビュー自体は1989年のはじめの頃に行われたものだからです。
"Partners in Crime: Jeremy Brett and Edward Hardwicke"
Pam Clarke and Yvonne Parkin
Stage Struck, Issue 1, 1990

前回、ジェレミーが映像作品で演じる方が好きな理由としてあげたのは、元来舞台役者である自分にとって新しい挑戦であること、そして具体的には映像作品の撮影は、モザイク画を作り上げるようであることと、カメラが近くにいるので目の表情など、細かい表現ができることをあげています。

これをうけてEdward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)が

でもすべては監督の手のなか、ということも受け入れないといけないよね。映像作品は監督の作品ともいえるものだから。

[B]ut you have to accept that you are in the hands of the director. It's a director's medium.


と言います。ことりさんが前回の記事のコメント欄でも触れてくださっていますが、このインタビューでは場面場面で、互いが互いの発言を引き出すように言葉をはさむのを読むことができます。エドワードもジェレミーと同じように今は映像作品のほうが好きだと言っているのですから、ジェレミーに反論するというのではないのですが、ここで「でも」と言います。これを受けて、ジェレミーはその前の発言の中でくわしく話さなかった、「モザイク画を作り上げる」の中身につながることを、具体例をあげて話してくれるのです。ジェレミーの答えです。原文は段落を分けていないのですが、訳文では読みやすいように三つに分けています。

でも監督と信頼関係を築くことができれば、一緒に作品を作るのって、わくわくするよね。たとえばこんなのを思い出したんだけど --- これはデイビッドがワトスンだった時のだけど --- 時間にすると一瞬の、「青い紅玉」のシーンなんだ。ほんの一瞬のために8人くらいが協調して動くと、どんな素晴らしいことがおこるかという例だよ。

こんなふうに石を指で持っている(ジェレミーは親指と人差し指で持つ真似をする)。カメラはこのあたりに近づいていて、二人がカメラを持って動かしている --- カメラを動かしているのはPaulとMikeだ --- 石にフォーカスが合いはじめる。フォーカスを合わせているのはSteve Oxleyだ。石を持つ手がぐるっと動く。ワトスンが話す。それからホームズが映る。ワトスンからホームズへ。ホームズが手にする石はまたぐるっと動きホームズのセリフが続いて、そこで終わる。そのあいだずっと録音担当が後ろで録音している。部屋の角では照明担当が長い棒で何か操作していて、照明効果は完璧だ。それからピンポイントの照明を担当するのはRay Goodeかもしれない、彼が石を照らしている。シーンの最後でまた石にフォーカスが合う。終わるとみんなこんなだ(興奮した様子をしてみせる)。

翌日ラッシュ(訳注:編集用フィルム)をみにいく。うまくいったかな?成功かな?まるで魔法のように、この青い石、この「青い紅玉」がどんな石かがこの時にわかる。みな歓声をあげる。映像の魔法を作り上げたんだ!ガラスのかけらを青く塗ったもので、青い最高の宝物を作ったんだ。まったくわくわくするよね。これが、映像ならではの魔術だ。

You make your rapport with your director, and working together can be thrilling. There's one example I've got—actually it's one I did with David—but it's just a moment in time, and it was in The Blue Carbuncle. And it was just a moment, just an example of how it's wonderful when you get about eight people working in harmony. The stone is being held like that. (held out between thumb and forefinger) The camera is here on a track and you've got two people pushing there—that's Paul and Mike pushing there—and it starts on the stone, in focus. Here's Steve Oxley on focus, keeping the stone in focus, and it turns round and Watson speaks, Holmes drops in, on to Watson, on to Holmes. The track goes round, the speech continues, you get to the end. You've got the sound man behind. You've got the man in the corner doing a thing with a boom and the lighting's perfect, and there's a pinpoint of light going round, being held by, possibly, Ray Goode, on the stone. End of scene. Back on focus on the stone. We all go (looks agog) ... Next day we go to the rushes. Did it work, did it work? It's like magic, and suddenly you understand what this blue stone, this Blue Carbuncle, [sic] and then you all just whoop with joy, because you've created magic on film! You've managed to make a piece of glass, painted blue, into a blue, zonking great crystal! And that's absolutely breathtaking. That's what the magic of film can do.


ジェレミーが何のことを話しているか、おわかりになりますよね!青い紅玉を手にピータースンが221Bに駆け込んでくる、あのシーンです。ホームズがあの石を手にしてから、石にフォーカスがあたってこのシーンが終わるまで、見直したら20秒、ジェレミーが話すとおりのカメラの動き、ホームズとワトスンの動きでした。(ホームズが石を「親指と人差し指で持つ」というところだけが厳密には違うのですが、これはインタビューをまとめた人が「親指と人差し指で持つ真似をする」と表現したためで、ジェレミーがそう言ったわけではありません。)

こうやってたくさんの人が一緒に働いて、カメラが動き、ホームズの手が動き、カメラのフォーカスが合う対象が替わり、ホームズとワトスンがセリフを発し、カメラのフレームが切り替わり、照明がピンポイントであたり、そうやって撮影されたフィルムの、いわば切れ端が、さらにつなぎ合わされて一つの作品ができる。これをジェレミーはモザイク画にたとえたのだと思います。

カメラ担当と照明担当の人、ジェレミーは名前もあげています。こういうのもジェレミーらしいですね。ちょうど前々回の記事で、ジェレミーがインタビューでプロデューサー、それぞれの作品の監督や脚本家の名前をよくあげる、撮影班の人たちの名前も、と書いたところでした。彼らは単なる「スタッフの一人」ではなく仲間だったのですね。ジェレミーと撮影クルーとの関係については、何度かご紹介しました。たとえばこちらです。
話をきくこと

この記事で引用した部分、再度引用します。プロデューサーのMichael Cox著、A Study in Celluloidからです。

しかし撮影班はジェレミーのためなら、何でもしただろう。理由は二つある。ジェレミーは仕事を何よりも大切にして全力をつくしていたから。そして彼は全員と、仕事をこえた関係を築いていたから。撮影の初日に全員の名前を覚えただけではなく、誰の車が車上荒らしにあったか、誰の赤ちゃんが具合が悪いかも知っていた。ひとの気をひくためにお座なりにたずねたのでなく、本当に心から知りたいと思っていたのだ。

But a film crew would do anything for Jeremy and there were two reasons for this. First, because he was absolutely professional in his work and second, because he knew them all personally. Not only had he memorised everyone's name by the end of the first day's shooting but he also knew whose car had been broken into or whose baby was ill. And this was not a trick to curry favour; he genuinely wanted to know.


撮影現場でのジェレミーをよく知る人が書いた、私がとても好きなジェレミーの描写です。


さて、舞台と映像作品とどちらが好きかという問いに答えた部分を、2回にわけてご紹介しました。ジェレミーたちがどんなふうに撮影していたかが想像できて、今回の箇所も興味深いものでした。ここでジェレミーが名前をあげた撮影クルーは、エドワードもよく知っている、その頃も撮影に参加していた人たちかもしれませんね。エドワードもその名前に微笑みながら、うなずきながら聞いていたかもしれません。

なお、エドワードの発言に答える形でジェレミーが話しているこの部分、ジェレミーはエドワードにだけではなく、インタビューアの方も向いて話しているのだと思いますが、訳すときはエドワードに話している感じの口調で訳しました。

RM
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コメント

わくわく

ここのところ続いているインタビュー記事,コメント欄でのことりさんとのやりとり,ジェレミーの発言やそれを翻訳してくださるRMさんの「わくわく感」,すべてを楽しんでいます!

「映像でしかできない表現」にジェレミーが夢中になっている様子がよくわかりますね。
映像撮影についての知識はなにもないんですけれども,それでもこの場面は映像でしかできないこと,になるのかどうかを考えながら観るのも楽しそうですね。

また,ホームズを観る楽しみが拡がって,「ボヘミアの醜聞」から見直したくなってしまいました!

「モザイク画」の意味、とてもよくわかりました

RMさん、こんにちは。

さっそく前回のインタビューの続きを記事にしてくださってありがとうございます!

> こうやってたくさんの人が一緒に働いて、カメラが動き、ホームズの手が動き、カメラのフォーカスが合う対象が替わり、ホームズとワトスンがセリフを発し、カメラのフレームが切り替わり、照明がピンポイントであたり、そうやって撮影されたフィルムの、いわば切れ端が、さらにつなぎ合わされて一つの作品ができる。これをジェレミーはモザイク画にたとえたのだと思います。

とってもよくわかりました。面白いですね! ジェレミーが映像の仕事を気に入って楽しんでいたのがよく理解できて嬉しいです。
ジェレミーは演じている時にカメラにどう映るかを本当によく考えているんだなということもわかるインタビューですね。自分達俳優の周りでスタッフの誰が何をしていて、カメラの向きがどうで、その中で自分達がどういう動きをして、それが映像になるとどう映っているか、そういうことをすごく意識しているから正確に覚えているんでしょうね。(撮ってすぐのことじゃなくて、五年も前のデビワト時代の時のことを思い出して語っているんですものね!)


「青い紅玉」で「宝石をきらめかせる」シーンでは、この後のヘンリー・ベイカー氏が221Bに訪ねてくる前の場面も映像作品ならではの魅力に満ちていて大好きです。
ワトスンの後姿と石を持つ手から始まり、そこにホームズが手から先にフレームインしてくるのがまず素晴らしいです。もうこの一瞬だけでわたしはたまりません(笑) そしてワトスンの斜め後ろに座ったホームズの斜め後ろ横顔が映る…エクセレントです。それからカメラが石を軸にするように徐々にワトスンの右側へ回り込んでいくと、やがて石は画面からはずれホームズの横顔がじっくりと映り、フレームの外側でワトスンから石を受け取ったホームズの手が再び石を画面の中に連れてきて、しきりに石をひっくり返してみるホームズ、暗い部屋の中でも仄かな明かりを受けてきらめく宝石、この作品ではここの前までずっと寝間着だった(笑)ホームズがきりっと身支度を整えた姿の美しさ、美しい横顔、愛すべきワトスンの後頭部(こういう映り方によってこの221Bという空間のリラックスした居心地のよさや二人の親密さまで感じられます)、青い紅玉についての説明を読み上げるワトスンとそれを聞きながら石を眺めるホームズ、そしてワトスン・ホームズ・宝石の三者が画面内におさまり少し引いて落ち着いた構図になったところでカメラの回転が止まると、次の瞬間ドアにノックの音! もうほんと何遍みても素晴らしい…。これは本当に、カメラによって空間の中の限られた一部分だけを切り取って見せる映像作品ならではですよね。

それから、ジェイムズ・ライダーに話を聞いた後、「その鵞鳥は死んでから美しい青い卵を産んだ」と言い(そう言うホームズこそが美しすぎて倒れそうになります…)、隠しておいた宝石を取り出してライダーの目の前でくるくるきらめかせて見せるシーンもたまりません。

…なんだか、インタビューから離れてジェレミーをみるわたしの幸福感にフォーカスが移動してきたようです(^^;

ではこの辺で。。。また次の更新も楽しみにしております!

何度でも見直して楽しめますね

さきさん、こんにちは。

>ここのところ続いているインタビュー記事,コメント欄でのことりさんとのやりとり,ジェレミーの発言やそれを翻訳してくださるRMさんの「わくわく感」,すべてを楽しんでいます!

わあ、そう言っていただけてうれしいです。

>この場面は映像でしかできないこと,になるのかどうかを考えながら観るのも楽しそうですね。

そうですね!今のコンピュータグラフィックスによる映像には私はあまり興味がないのですが、ジェレミーが説明してくれたような、地道な職人芸で作り上げるような映像は、撮影風景も想像しながら観るとまた違った楽しさが味わえそうです。

>また,ホームズを観る楽しみが拡がって,「ボヘミアの醜聞」から見直したくなってしまいました!

私もです!グラナダ・シリーズは見飽きることがありませんね。
そして、さきさんからのリクエストの記事もちゃんと覚えていますので、どうぞながーい目で見守ってくださいね!

何度でも倒れる...

ことりさん、こんにちは。

私もここのところを読んで、映像作品が舞台とは違う点として「モザイク画を作り上げる」とジェレミーが言っている意味がわかりました。そしてこのジェレミーの発言を引き出したのがエドワードだというのがまた、うれしいですね!

>ジェレミーは演じている時にカメラにどう映るかを本当によく考えているんだなということもわかるインタビューですね。自分達俳優の周りでスタッフの誰が何をしていて、カメラの向きがどうで、その中で自分達がどういう動きをして、それが映像になるとどう映っているか、そういうことをすごく意識しているから正確に覚えているんでしょうね。

これもまったく同感です!そして、映像の中でどう映っているかということと関連して、二つ思い出したインタビューがあります。ああ、忘れないうちに探したいです。

それとはちょっと違うのですが、A Study in Celluloid中の写真のキャプションで面白いのがありました。連想でこちらを思い出しましたので、これから今日の記事にちょっと書いてみるかもしれません。

>(撮ってすぐのことじゃなくて、五年も前のデビワト時代の時のことを思い出して語っているんですものね!)

私もびっくりしました。私がとんでもない勘違いもしかねないから映像を観てから訳そう、でもジェレミーの記憶違いもあるだろうからかえって迷うかも、と思ったら、まったくそのままでした。

>「青い紅玉」で「宝石をきらめかせる」シーンでは、この後のヘンリー・ベイカー氏が221Bに訪ねてくる前の場面も映像作品ならではの魅力に満ちていて大好きです。

わあ、言葉による詳細で美しい描写です。

>これは本当に、カメラによって空間の中の限られた一部分だけを切り取って見せる映像作品ならではですよね。

なるほど、舞台だと特定の動きに注目していても、どうしても全体も目にはいりますが、映像は完全に切り取りますものね。グラナダ・シリーズは特に、動いている映像をひとつひとつとめても、実に美しいですね。

>(そう言うホームズこそが美しすぎて倒れそうになります…)

うふふ。グラナダ・シリーズを観ると、何回も倒れないといけませんね。

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 RM

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和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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