Jeremy のことが知りたくて ~ ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)を愛するかたへ

英グラナダ・テレビでシャーロック・ホームズを演じた俳優の人生を言祝いで

最初は前回の記事と同じ、1992年の雑誌インタビューからです。

Baker Street Regular: Jeremy Brett and Edward Hardwicke
Interviews by Jim Knüsch
Scarlet Street, No.5, 1992

この雑誌記事にはジェレミーへのインタビューとエドワードへのインタビューと、両方が含まれているのですが、これはジェレミーが二人のワトスンについて話している部分です。SSはインタビューアです。

SS: 二人のワトスン、David Burke(デイビッド・バーク)とEdward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)を比べてどう思いますか。
JB: 二人のワトスンは、互いに見事に調和したかたちになりました。驚いたことに日本からのファンレターのなかで、そして最近ではロシアからも、「最後の事件」と「空き家の怪事件」の間にワトスンが年齢を重ねたさまがあらわれているのがとても素晴らしいです、と書かれていました。ですから、二人がこころを配って演じてくれたおかげで、そしてデイビッドの後のワトスン役にエドワードはどうかと言ってくれたデイビッド・バークの夫人のおかげで、私は大きな幸運に恵まれてホームズを演じてきました。それから忘れてはならないのは、このプロジェクトのすべてはMichael Cox(マイケル・コックス)がつくりあげたということです。ワトスンがどういう人間かをきちんと後世にまで示したのです。デイビッド・バークとエドワード・ハードウィックという優れた二人の俳優によって、それが可能になりました。
SS: ワトスンが変わったことで、あなたのホームズの演技は変わりましたか?
JB: はい、とても。

SS: How would you compare David Burke and Edward Hardwicke as your two Watsons?
JB: Well, they've very beautifully dovetailed each other. Quite remarkably, some people in Japan and now Russia have written saying how brilliant it was, the aging of Watson between THE FINAL PROBLEM and THE EMPTY HOUSE. So, fortunately, thanks to the enormous tact of both of them—and David Burke's wife, who suggested Edward to take over—I've been very, very fortunate. You must remember the whole project was created by Michael Cox at Granada, to put posterity straight in regard to Watson. Thanks to those two marvelous actors, David Burke and Edward Hardwicke, It's been done.
SS: Did your playing of Sherlock Holmes alter with the change in Watsons?
JB: Oh yes, very much.


二人のワトスンが「見事に調和した」と訳してみましたが、ジェレミーは"beautifully dovetailed"と言っています。"dovetail joint"をWikipediaでみると、なるほど、こういう木の継ぎ方のことなのですね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Dovetail_joint

そのあと、「日本」とあるのがうれしいですね!この方、自分の手紙のことをジェレミーがわざわざインタビューで触れてたことをご存知だといいですね。そして当時日本からお手紙を書いていろいろな感想を伝えた方が、この方以外にもたくさんいらしたのでしょう。

デイビッドとエドワード、それぞれのワトスン、私はまったく違和感ありませんでした。不思議です、俳優がかわると、少しすれば慣れるとしても、はじめは以前の印象が残っていて少し居心地悪い気持ちになるのが私は普通なのですが。そして多分多くの方が私と同じように、「最後の事件」と「空き家の怪事件」の間のワトスンの違いを、3年間という時間とその間の生活、そして感情の跡をあらわすものとして、自然にみたのでしょう。

ジェレミーはそれから、マイケル・コックスの功績に触れています。こうしてきちんとプロデューサーの名前を挙げるところ、ジェレミーはいつもそうです。どうしても俳優の名前の方が一般にはよく知られているので、映像作品が話題になっても、俳優以外の名前には触れられないことも多いでしょうが、ジェレミーの口からはメイキャップ係、デザイン担当者、照明や音響担当者などの名前が出てくるのを何度かききました。そしてプロデューサー、それぞれの作品の監督や脚本家の名前はしょっちゅうです。

最後のところ、「演技が変わった」というその内容をききたい気がしますが、このインタビューでは次の話題にうつっています。もしかしたらインタビューアは尋ねたけれども、それは言葉で説明するのは難しいことだったのかもしれません。ジェレミーが別のインタビューで、ホームズが変わったとアメリカPBSのプロデューサーに言われたけれども、自分ではどう変わったかはっきりとは言えない、と話していたことも思い出します。結果として変わったということかもしれません。(あ、でも別のインタビューではどう変わったか話していたのを思い出しました。みつけたらまた書きましょう。)


さて最後に、関連する部分をマイケル・コックスの言葉からご紹介しましょう。彼の著書の A Study in Celluloid (1999) からです。

デイビッドの演技を引き継ぐのは難しいことがエドワードにはわかっていたので、賢明にもエドワードはデイビッドのワトスンを真似ようとはしなかった。そのかわりに自分自身のワトスンをつくりあげた。少し年をとり、さらに思慮深くなり、ライヘンバッハでの悲劇と、それに続く灰色の3年間を悲しみの中にすごしたワトスン。デイビッド・バークのワトスンが3年後にこうなったことを、十分に信じることができるようなワトスンだった。

He knew that David was a difficult act to follow, and very sensibly Edward made no attempt to imitate him. Instead he gave us his own Watson: an older, more serious man, saddened by the tragedy at the Reichenbach Falls and the three drab years which followed. It was entirely believable that this was the character which David Burke's Watson might have become.


そうですそうです、と深くうなずきます。

RM
前回に続いて、Edward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)のインタビューから引用します。その後でジェレミーの言葉にも少し触れます。出典はどちらも、この1992年の雑誌記事です。

Baker Street Regular: Jeremy Brett and Edward Hardwicke
Interviews by Jim Knüsch
Scarlet Street, No.5, 1992

前回「いつもながらエドワードの冷静さを感じます」と書きました。このインタビューの言葉にはエドワードの理知的なところを感じさせる部分が多くありますので、もう一つ選びました。前回と同じくSSがインタビューア、EHがエドワードです。

SS: このシリーズでこころあたたまることの一つは、ワトスンがレストレードとつよい信頼関係にあるところです。特に「空き家の怪事件」と「六つのナポレオン」でそれがみてとれますね。二人のこの関係はColin Jeavons(コリン・ジェボンズ)と一緒に考え出したのですか、それとも台本にそうあったのですか。
EH: そうとらえてくださって、とてもありがたいです。そんなこと思いもしませんでした。もしも視聴者にそう見えるなら、もともと台本にあった人間関係を私たちがみつけて、それが演技にあらわれたということです。多分そういうことだと思います。「空き家の怪事件」では二人が一緒の場面がかなりありました。結局のところ、一緒に出るシーンがあるかどうかで決まります。そうするとシーンの中で二人の人間関係が出来上がっていくのです。

SS: One of the nice things about the series is the rapport that Watson has with Inspector Lestrade, particularly in THE EMPTY HOUSE and THE SIX NAPOLEONS. Did you work this out with Colin Jeavons or was it part of the script?
EH: Well it's very nice that you should have picked that up. It never occurred to me. I think that, if it's there, it was in the script, and we must have just found that and that's what happened. I think that probably is the case; certainly, in THE EMPTY HOUSE, I remember we had quite a few scenes. In the end it's a question of whether you have scenes together; a relationship will develop of some sort.


レストレードとワトスンの間にお互いへの信頼と好意をみてとれるのであれば、まずそれは、そういうシーン、そういうセリフがあるからで、それを元に俳優は画面上でその人間関係をみせるように努め、さらに深めていくのだ、という答えです。脚本をまず大切にする、脚本にあるセリフを尊重した上で、俳優としてそれを形にするという姿勢が感じられます。

とても冷静で理知的な答えで、俳優の仕事をインタビューアに説明しようという気持ちと、脚本家への尊敬がありますね。


こちらは同じ時のインタビュー、「犯人は二人」の話をする中でコリンのことなどをきかれた時のジェレミーの答えです。もちろん質問が違いますから答えが違うのは当然ですが、ジェレミーはあの情熱的な口調もまじえて答えたのではないかと思えて、エドワードとの対比が面白いです。どうにも訳すのが難しいところ、無理して直訳してカッコ内にもとの英語を入れています。

SS: 他の共演者については、何かありますか?ロザリー・ウィリアムズや、作品によってはコリン・ジェボンズが一緒ですね。
JB: 私のレストレード (my Lestrade)、つまり大切なコリン(my darling Colin)は「犯人は二人」に出てくれますし、最愛のロザリー(my darling Rosalie)も一緒です。つまり、言いたいのは私たちはこの長年の間に家族になったということです。ロザリーやコリンが撮影に参加してくれると、いつも大喜びです。

SS: Any remarks about your other co-stars? Rosalie Williams and, on occasion, Colin Jeavons?
JB: Well, my Lestrade, my darling Colin who's with me in this, and my darling Rosalie who's with me in THE MASTER BLACKMAILER—I mean we've become a family over the years. Every time Rosalie or Colin are in it I rejoice.


このジェレミーの情熱的な答えとエドワードの理知的な答えと、ずいぶん違っていて、でもどちらもあたたかいですね!

RM
前々回の記事「過去の映像作品の中で、ジェレミーが一番好きなワトスン」でご紹介したジェレミーのインタビューと同じ時におこなわれた、Edward Hardwicke(エドワード・ハードウィック)へのインタビューから引用しましょう。

Baker Street Regular: Jeremy Brett and Edward Hardwicke
Interviews by Jim Knüsch
Scarlet Street, No.5, 1992

SSはインタビューア、EHはエドワードです。

SS: あなたのワトスンは、それ以前にいろいろな俳優が演じたワトスンとは違うと感じていますか。
EH: そうですね、当然、私のは今までのワトスンと違っています。違う俳優が演じているのですから。映像作品ではそれぞれの俳優が自分に近い形で役を演じるものだと思います。私がワトスンと似ていると言っているんじゃないんですよ。医者になって自分のいのちを救うなんて、私にはできませんから。(笑い)
SS: ワトスンを医学の専門家としてみるひとは、そうはいないと思いますが。
EH: 私がそうみていますよ。医者であることは私にとって、ワトスンが持つとても重要な部分なのです。探偵であることは医者であることと、とても似ています。患者が痛みを訴えて「どこが悪いのでしょう」と尋ねたとき、医者は説明しなければなりません。とても探偵と似ていると思います。そしてホームズの捜査のなかに医者と共通の分析的な手法があることが、ワトスンの興味をひいたのだと思います。

SS: Do you see your Watson as being different from those of your predecessors?
EH: Well, inevitably it's different, because you're dealing with different actors. I think when you're dealing in film, you have to play very close to yourself. I don't mean to say that I'm remotely like Watson; I couldn't be a doctor to save my life. (laughs) That's a funny way of putting it.
SS: Not many people think of Dr. Watson as a professional man.
EH: Well, I do; that's a very important part of him. Being a detective is very much like being a doctor. Somebody comes to you in pain and says, "What's wrong with me?" and you have to tell them. I think there's a huge similarity, and this analytical side of Holmes' detection appeals to Watson.


最初のところ、「当然違っている」という答えの部分は、いつもながらエドワードの冷静さを感じます。エドワードは冷静だけど決して冷たくない、皆が言うように、あたたかくてユーモアがあって思いやりのある紳士です。

そしてエドワードは自分の役のことをこんなふうに考えているのですね。これを読んだとき、エドワードのワトスンの持つある一面がわかったような気がしました。冷静に一歩ひいて、観察し分析し、わかりやすく伝え、助けの手を差し伸べる。

David Burke(デイビッド・バーク)のワトスンとエドワードのワトスンを比べるとき、デイビッドの中に元軍人の面をより感じ、エドワードの中に医者の面をより感じるひともいるかもしれません。私もその一人です。もちろん二人とも、両方の面を持っているのですが。

エドワードが、ワトスンの特徴として特に医者であることを大切に思っている、ということをこのインタビューで知って、面白く感じました。

RM
自分にとっての映像上のホームズはBasil Rathbone(バジル・ラスボーン)だということ、いろいろなインタビューでジェレミーは話していますね。たとえばこのブログではこちらで触れました。
Rathboneへの敬意

それではどのワトスンがもっとも好きなのでしょう。もちろんグラナダ・シリーズ以前ということです。そのことを話しているインタビューは、私はこれしか思い出せません。
Baker Street Regular: Jeremy Brett and Edward Hardwicke
Interviews by Jim Knüsch
Scarlet Street, No.5, 1992

ジェレミーが、どのホームズとワトスンが好きか質問されている部分で、SSはインタビューア、JBはジェレミーです。

SS: あなた方より前の作品で、特に素晴らしいと思うホームズかワトスンはいますか。
JB: 一番好きなのはJames Mason(ジェームズ・メイソン)だと思います。私が一番好きなワトスンです。一番好きなホームズはこれからもずっとRathbone(ラスボーン)でしょう。ラスボーンは、Paget(パジェット)の挿絵がそのまま動いているようにみえます。William Gillette(ウィリアム・ジレット)はもちろん見たことがないのです(笑い)。

SS: Are there any predecessors in either role that you particularly admire?
JB: I suppose my favorite one is James Mason; that's my favorite Watson. I guess my favorite Holmes will be Rathbone forever. He seems to me to be the Paget drawings on the move—not having seen William Gillette, of course (laughs).


James Mason(ジェームズ・メイソン)が一番好きだと言っています。彼がワトスンを演じたのは、Murder by Decree (1979) で、ホームズはChristopher Plummer(クリストファー・プラマー)でした。ちなみにクリストファー・プラマーは、「ジェレミーにBAFTA賞を!」の活動を支持するメッセージを書いています。
https://web.archive.org/web/20120229202932/http://www.bafta4jb.com/2011/10/a-letter-of-support-from-christopher-plummer-cc/

演じるという私たちの職業にジェレミーがどれだけの貢献をしたかを見落としてしまって、しかるべき賞を与えないというのは、ひどく残念なことだと思います。たとえば彼はシャーロック・ホームズで世界的な名声を得ましたが、いままで私が観たうちで最高のホームズでした。もっとも完全に近く、もっとも人並みはずれていて、断然、一番本物のホームズでした。

It seems a crying shame to ignore Jeremy and his outstanding contributions to our profession. His Sherlock Holmes for example, which made him an international star, is the best interpretation of the role I have ever seen - the most complete, the most eccentric, the truest by far.


自分もホームズを演じたクリストファー・プラマーが、これほどジェレミーを讃えてくださったことにこころ打たれます。

さて、ジェレミーが過去の作品の中で一番好きなワトスンであるJames Mason(ジェームズ・メイソン)は、1984年になくなったのですね。ジェレミーのホームズはまったく、あるいはほとんど観ていないでしょう。とても残念です。

クリストファー・プラマーとジェームズ・メイソンの二人が出演した作品の邦題は「名探偵ホームズ 黒馬車の影」だそうで、DVDも出ています。「シャーロック・ホームズと切り裂きジャックの対決を描いたミステリー」と書かれています。
https://www.amazon.co.jp/dp/B008RVBX6O

ジェレミーはどういうところが好きだったのでしょう。The New York Timesの映画評を斜め読みしてみました。Mr. Mason's Watson is a splendidly staunch and reliable friend(ジェームズ・メイソンのワトスンは誠実で頼りになる友人だ)と書かれています。
http://www.nytimes.com/movie/review?res=9A00EEDF1331E432A2575AC0A9649C946890D6CF

この、ホームズの良き友としてのワトスンを、グラナダシリーズより前に演じたからこそ、ジェレミーに、自分たちより以前の作品で「私が一番好きなワトスン」と言わせたのかもしれませんね。機会があったら観てみましょう。


ところでジェレミーが「William Gillette(ウィリアム・ジレット)はもちろん見たことがないのです」と言って笑っているのは、ウィリアム・ジレットがホームズを演じたサイレント映画は1916年のもので、しかも映画は失われていたからです。

ところが2014年にフランスでこの映画のフィルムがみつかったという話はご存知のかたもいらっしゃるでしょう。
https://en.wikipedia.org/wiki/Sherlock_Holmes_(1916_film)


なお以前に下の記事に書きましたが、このインタビューは今では全文をネット上で読めます。
「青い紅玉」が大変だった理由:1992年のインタビューより

このインタビューの他の部分にも興味があるかたはどうぞ。少し誤植等がありますので、私は元の雑誌から引用していますが。

RM
Joan Wilson(ジョーン・ウィルソン)とジェレミーの夫婦に関して、前々回の記事を書きながら思い出していたもう一つはこちらです。

Tragedy leads to a new Holmes
by Linda Hawkins
TV Times, 19 December 1987-1 January 1988

このTV Timesのバックナンバーは割合とよく見るもので、そう高くなく手に入ります。また"For Fans of Jeremy Brett" 2007年の投稿に、このTV Timesの記事の切り抜きがあります。下2枚です。
http://jeremybrett.livejournal.com/66197.html

「ジョーンがいたから自分を信じられたのです。ジョーンがいないのなら、演じる意味はなくなりました。でも彼女の死に耐えるために私にできることは、働くことだけでした。無理をして働きすぎました。

(中略)

ホームズはとても孤独な男です。それに影響されてしまって外に出る気がしなくなり、ホテルの部屋に一人こもっていました。ひどい状態になって、ほとんどボロボロでした。」

しかし入院後数週間して、回復の兆しがみえはじめた。退院してからそれほどたたずに次の撮影にのぞんだ。自ら望んだわけではない、ひどく辛い経験をしてきたわけだが、心の傷をもたらしたその経験には、結果としては良い面もあったことが少しずつわかってきた。

「ものの見方がかわりました。ベジタリアンになってからだの具合がよくなりました。思っていたよりも、自分はずっと強いのだと知りました。あの辛い時期を乗り越えたのだから、私はきっととても強いはずです。それを知って、自分を信じることができるようになりました。今はずっと楽な気持ちで生きています。

もちろん今でも妻のことを思って、今も生きていてくれたらと思います。パートナーを失うことの一番悲しい面は、何でも話して気持ちを分かち合う人がいなくなることです。でも少なくとも今私は、悲しむだけではなく前を向いていられます。ホームズの他の映像化作品から重圧を感じることも、今ではなくなりました。膨大なセリフを覚えられるか心配して寝られずにいることもなくなりました。」

'Joan was my confidence,' says Brett, 'and without her there was no reason to go on. But the only way I managed to cope with it was to work. I worked too hard and it all got too much.'

[...]

'Holmes is such an isolated man,' he says, 'and that isolation affected me. It got so that I didn't want to go out. I stayed alone in my hotel room all the time. I became very ill and the experience nearly destroyed me.'

Yet after a few weeks in hospital Brett began to recover and not long after returning home was working on another Sherlock Holmes. He had been to hell and back and it was not an experience he would have willingly undergone, yet gradually he realised that the trauma, in a strange way, had had its positive aspects.

'My outlook changed,' says Brett. 'I became a vegetarian and felt better for it. I leaned that I'm much stronger than I thought. I must be strong to have survived, and that knowledge gave me confidence. Now I'm much more relaxed.

'I still miss my wife, of course. The worst thing about not being part of a couple any more is that you've got no one to share things with, but at least now I can go forward. I no longer feel the weight of those other Sherlock Holmeses. I'm no longer up half the night worrying about learning my lines.'


あのすばらしい作品を知っていて、ジェレミー演じるホームズへの評価と、グラナダシリーズがこれからもずっと賞賛され続け、生き続けていくであろうことを知っている今の私たちからは想像がつきにくいのですが、ホームズを演じるにあたってのジェレミーの重圧と不安はとても大きかったのでしょう。あれだけの大きなプロジェクトで、多くのひとが関わり、多くのお金が費やされているシリーズでした。またホームズは多くの有名な俳優が演じてきた役でした。ホームズという孤独で複雑な男は、明るいジェレミーに暗さももたらしました。そんな中でジョーンの存在、共感と助言は大きな支えだったはずです。その支えを失った中で、仕事に没頭することで自分を持ちこたえようとして、自分の中の何かがばらばらになってしまった。そこからゆっくりと回復する中で、自分を信じられるようになっていったということでしょう。

なおベジタリアンになったと言っていますが、ここ以外では読んだことがありません。1989年のScrawlのインタビュー "The Wonderful Mystery of Sherlock Holmes" で、The Secret of Sherlock Holmesの舞台の前にステーキと言っていましたから、ずっとベジタリアンだったとは思いません。この記事の後でかわったかもしれませんし、この時点ですでにそうではなかったかもしれません。

でもそれ以外の、ものの見方が変わったとか、自分に自信が持てるようになったとか、リラックスできるようになったということはこれまでも読んだことがありますし、亡くなるときまでそうだったのでしょう。そしてそれはジョーンを亡くした辛い経験がもたらしてくれたものだと思えるようになって、それでもやはり、いつも多くのことを話して気持ちを分かち合ってきたジョーンのことを死ぬまで思い続けて恋しく思っていたことでしょう。

久しぶりに会ったひととの話の中で、あるいは自分の日々のくらしの中で、別れのこと、死のことを思ったこの半月ほどですので、ここを引用するためにあらためてこのインタビューを読み直す機会があってよかったと思いました。

RM
(3/20追記:これ、3月18日に書いたのですが、間違って3月16日の日付をつけてしまいました。ですから本文中「ところで昨日 ... 発売されました」の「昨日」は3月17日のことです。なんかこう書いていると日にちとか時とか、そういうものがとても柔らかいもののように思えて不思議になります...。)

前回の記事で、Joan Wilson(ジョーン・ウィルソン)とジェレミーの夫婦は「アメリカとイギリスで離れ離れでも、しょっちゅう電話で話していたようなので」と書きながら、二つの記事を思い出していました。今日はそのうちの一つから引用しましょう。

Sherlock Holmes In America
by Sylvia Lawler
The Morning Call, November 10, 1991
http://articles.mcall.com/1991-11-10/entertainment/2827509_1_sherlock-holmes-charlton-heston-s-holmes-baker-street-irregulars

これはアメリカツアーの時のインタビューで、今までもここから引用したことがあります。
スイスのホテルの暗い部屋で:1991年の新聞記事より
「こんにちは!」「あああああああああ!」:1991年の新聞記事より

「ホームズに腹をたてていました。私はホームズにつかまっている、ホームズが心の中まで入ってきていると感じました。そう感じたのは何よりまず、私が家から長く離れてしまったからです。撮影はロンドンではなくイギリス北部、マンチェスターで行われたので、ホテルの一部屋に閉じこもって、給料のすべてを妻との電話代に使っていました。」

ブレットの二度目の妻、故ジョーン・ウィルソンはPBSの高名なエグゼクティブ・プロデューサーだった。看板番組の"Mystery!"と"Masterpiece Theatre"の責任者で、このプログラムの方針を決め、放映するドラマを選んだ。

「妻は『きっと大丈夫よ、あなた。それだけの価値があることですもの』と言い、僕は答えました。『そうだね、でも...。』」

"I resented him. I found him getting in my hair. I just felt invaded by him. First and foremost, I was whisked away because we don't shoot in London; we shoot in the north of England in Lancashire (Manchester) and I was thrown into a hotel room and I spent all my salary talking to my wife." Brett's second wife, the late, respected executive producer Joan Wilson, was the guiding hand, taste arbiter and ultimate influence over of "Mystery!" and "Masterpiece Theatre" during the golden years of those PBS mainstays.

"She said 'Oh, darling, it will be all right. It's worth it.'

"And I'd say 'Yes but ...'"


実際に電話代にすべてのお金を費やしたかどうかはともかく、普段のちょっとした話も、そして仕事の話も、二人は電話でいろいろと話していたのでしょう。ジョーンはプロデューサーの目からも、ジェレミーの話をきいたり、助言したことでしょう。でもそれだけではなく、俳優の気持ちもわかる人だったはずです。彼女自身がかつて女優でしたから。

女優だったこともあるウィルソンは、あたたかい人柄で、たくさんの人と一緒にいるのを楽しむ性格だった。同僚たちからは、エネルギーにあふれた完璧主義者として記憶されている。

A former actress, Wilson was a warm, gregarious person, remembered by her colleagues as an energetic perfectionist.


There's No Place Like Holmes
By Rhoda Koenig
TV Guide, October 22, 1988
(「完璧主義」の記事で以前もご紹介しました。)

ジョーンは女優の経験から、becomerのジェレミーがホームズを演じることの大変さも、そしてこれを演じることの俳優・ジェレミーにとっての大きな意味も十分わかっていたでしょう。そしてプロデューサーとして、この映像化作品が名作であることもわかっていたはずです。だから、これは素晴らしい挑戦で、それだけのことはある、と励ましたのでしょう。

それに対して'Yes, but ...'と答えた、その時のジェレミーの気持ち、そしてホームズは大きな成功をおさめ、ジョーンは世を去った、その後に訪れたアメリカで、ジョーンとの会話を思い出しながらこれを口にした時のジェレミーの気持ちを想像してみます。



ところで昨日、ジェレミーが詩を読んで参加しているPurcell Consort of Voicesのアルバム、"I Love, Alas" がアマゾンのデジタルミュージックストアで発売されました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B06XHH88FM

このアルバムについては以前こちらでご紹介しました。
詩の朗読のCD

絶版のCDが再び形をかえて手に入るようになるのは、とてもうれしいことです。それがジェレミーが関わったものであればなおさらですね。ただアルバムのタイトルが少し違います。以前は"I Love, Alas - Elizabethan Life in Music, Song and Poetry - the Elizabethan in Love"、今回は"The Tudors - I Love, Alas" です。デジタルミュージックストアに各トラックの曲名が載っていて、これは完全に以前のCDと一緒ですから、再発売にともなってタイトルを少しかえたのでしょう。

それぞれのトラックから、少しずつ試聴できます。もちろんジェレミーの朗読のトラックも聴くことができます(試聴は各トラック30秒ずつのようで、でもジェレミーの朗読は一番短いのが39秒ですから、このトラックはほとんどを楽しめます)。トラックごとでもダウンロードできるようですから、ジェレミーの詩の朗読だけの購入も可能です。ただ全体を通じて聴いた方が、このアルバムの良さはより感じられるかもしれません。

詩の朗読のCD」の記事でご紹介した絶版のCDの方も、タイミングによっては中古CDが数百円で販売されていましたから、そちらを待つのもよいかもしれません。

またもうすぐCDの形でもあらためて販売されるようです。絶版ではなく「現役」のCDも買えるようになるのですね。
https://www.amazon.co.jp/dp/B06XCGGSKN

こうしてジェレミーの朗読が古楽ファンにも知られるようになるのは、とてもうれしいことです。

RM
ジェレミーがホームズを語るとき、それぞれのインタビューでいろいろな面に焦点をあてます。ホームズは子供にとってのヒーローだと言っているもの、ホームズとワトスンの友情を語っているものをここ数回で引用したので、ホームズは健全で明るいようにも思えてきますが、もちろんそうではないですよね。ジェレミーはホームズのすばらしさだけではなく、ホームズが内に持つ暗さも見事に表現したのですよね。

本の中のあの複雑な人物を、生身のからだで演じたのがジェレミーでした。そしてbecomerのジェレミーは、しばしばホームズは好きではないと言っていました。(追記:あ、「しばしば」というのは言い過ぎでしたね。「ときどき」に訂正します。ジェレミーにとってホームズの一面である闇の部分は「時に」苦痛だったのでしょう。)

今日引用するのは、ホームズのそんな面を語っているものです。

Super sleuth could be a crook
by Charles Fraser
Evening Times, Sep 20, 1985
https://news.google.com/newspapers?id=Ego-AAAAIBAJ&pg=6012%2C4891201

ジェレミーはホームズのことを調べていくうちに、ホームズの卓越した頭脳と同じくらいに、その尋常ならざるふるまいや性格を重視するようになった。

「できる限り、危うい人間として演じました。ホームズはおそろしく複雑で、他人と交わらない人間でした。並外れた能力を持つ孤独な男です。
彼はコカインとモルヒネ中毒でもありました。誰もが眠りについている夜中にロンドンの通りをさまよう、こころを乱した夜の鳥です。
ホームズは女嫌いです。そして決して鹿撃ち帽をかぶったりしませんでした。田舎で、鹿撃ち帽をかぶるのによい時以外はね。
妙なことに、ホームズのふるまいや性格を研究してどんな男かわかればわかるほど、彼のことが好きでなくなりました。」

Jeremy's study of Sherlock Holmes led him to emphasise his eccentricities as much as his brilliance.
"I tried to play him as dangerously as possible," explains Jeremy. "Holmes was the most complex and isolated creature. He was a lonely man with brilliant instincts.
"But he was also addicted to cocaine and morphine. He was a demented nightbird who roamed around the city streets when everyone else was asleep.
"He was a dedicated woman-hater. And he would NEVER have worn that deer-stalker hat, except perhaps in the correct circumstances in the country.
"Oddly enough," Jeremy admits, "the more I delved into Holmes's personality and character and the more I understood him, the less I liked him."


ホームズが持つ能力とともにこの危うい暗さを、本から抜け出たように表現したからこそ、ジェレミーのホームズはいままでもこれからも、「自分にとってのホームズ」と多くの人に思われ続けるのでしょう。

RM
先月書いた記事「戦車の前に立つ青年:1989年のインタビューより」でご紹介したインタビューからです。2ページあるインタビューのうちの今度は1ページ目からで、ホームズとワトスンの友情についてです。ここで言っている「芝居」とは、"The Secret of Sherlock Holmes"のことです。

出典は以下で、実際のインタビューは1989年の終わり近くにおこなわれました。インタビューのPDFファイルのダウンロード方法については、先月の記事をご覧ください。
"The Wonderful Mystery of Sherlock Holmes"
Scrawl, 2002
https://questingbeastscrawl.blogspot.jp

「男性が互いに腕を組んで歩いているのは妙だと思われるようになりました。ホームズとワトスンはそうしていたものです。親子が道を横切るときのようにね。長いことホームズとワトスンは元祖『おかしな二人』なんじゃないかと思われてきました。この芝居の意味は、最も純粋で素朴な友情をみることができる点だと思います。これは二人の男の劇で、二人とも孤独で何かに傷つき、一人は天才、一人は良き市民です。二人ともそれまでの人生の歴史があります。彼らの友情は澄み切った水のようで、私たちにははっきりとそれがみえます。その純粋さ、そして昔風の品性、信頼、思いやり、礼節がそこにあります。そういった多くのことがその頃は大切にされていましたが、いまは変わってしまいました。」

"It's no longer palatable to see two men arm in arm. Holmes and Watson used to walk around linking arms—like a father and son crossing the road—and it has been suspect for years, they must have been the original 'odd couple'. I think the value of the play is showing friendship in its purest naivety and simplicity. It's a play about two men, both lonely, both lost. One is a genius, one a good man. Both have lived a bit. And their friendship is there like a pool of clear water to see right through, that purity and all those old fashioned things like honour, trust, consideration, manners. So many things were valuable then, and that's changed."


この現代社会のスピードと、ときにはつながりすぎ、ときにはおそろしく分断されすぎている、ひととの関係を思うとき、昔風の友情を語る言葉にほっとします。

もちろんジェレミーは、ホームズの頃が何もかもよかったと言っているわけではありません。上の引用部分に先立つところで、こう言っています。

「あの時代にもどりたいなんて決して思いません。あの頃の貧乏な人々がどれほどみじめな貧困の中にいたか想像もできないし、女性の境遇はあの頃からとても変わりました。いまや男女は友達にもなれます。あの時代、女性はあがめられるだけで、実際の自分をみてもらえず、男性はクラブへ出かけ、女性は家にいてお茶を飲んでいました。いまや全部かわって、私はこうなってよかったと思います。」

"I don't think we'll ever go back, thank God, because we have no idea just how unbearably poor it was, and remember that women have moved much faster—now men and women can be friends. Then, they were worshipped, put on pedestals, the men went off to their clubs and women sat and had tea. Now that's all changed, and I'm very glad about that [...]"


当時のひどい貧困についても女性の立場についても、いまはこうなってよかった、ただし男性どうしの友情については...と先の部分に続きます。

男女の間での友情という言葉で、ジェレミーが二度目の奥様のJoanのことを最高の友人で最愛のひと(my greatest friend and heart)と言っていたことを思い出します(「入院」)。ジェレミーにとって同性の間でも異性の間においても、friendshipが一番大切だったのだろうと感じながら、私にとってのfriendshipを思ってみます。

RM
新年のお慶びを申し上げます。当地は明るい陽射しの元旦で、私は初詣にも初売りにもなーんにも行かず、のんびりと過ごしました。

まず最初に、年末にネットでみつけた記事からご紹介します。BBCでSherlockを演じているBenedict Cumberbatch(ベネディクト・カンバーバッチ)へのインタビュー記事中の、彼の言葉です。

New year, new Sherlock
by Gabrielle Donnelly
Daily Mail Online, 30 December 2016
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-4074250/New-year-new-Sherlock-Benedict-Cumberbatch-marriage-children-ll-different-supersleuth-new-series.html

ジェレミー・ブレットがホームズを演じたテレビシリーズをとてもよく覚えています。私の家でいつも繰り返し再生されていました。母がジェレミーの友人でしたから。(同じ時に演劇学校のthe Royal Central School of Speech And Dramaに在籍していた。)彼は素晴らしいなあと思いながら観ていました。

'I have very strong memories of the television series with Jeremy Brett, which was always being replayed in our house because my mother was a friend of his [they attended the Royal Central School Of Speech And Drama at the same time], and I thought he was extraordinary.'


ベネディクトがこうしてジェレミーのことに触れてくれるのは初めてではなくて、何度もこうしたインタビュー記事で目にしているのですが、それでもやはり嬉しいです。嬉しさついでに、新年はじめての記事でご紹介しました。

今までにも何度か彼がジェレミーの名を出しているのをご紹介していますが、一番最近では、3年前のお正月だったのですね。やはりよいお天気のお正月でした。「私は三が日はひたすら家にいるのが常で、初詣にも初売りにも行ったことがないのです」なんて、同じことを書いています。
宝の山の端っこをかじったお正月、そしてベネディクト・カンバーバッチの言葉も少し

その他、以下のような記事でも彼の言葉を引用しました。ご参考までに。
ジェレミーのホームズが愛されていること;Sherlock(シリーズ2)の放送にあわせたトークショー (2012) から
補遺、備忘録 その3(Benedict Cumberbatchとジェレミー)
補遺、備忘録 その7(Benedict Cumberbatch, Martin Freeman, Top 5, Top10)

こちらはベネディクトによる、ジェレミー・ホームズの顔真似もご紹介した記事です。「ベネディクトはジェレミーが演じるホームズの表情の変化に魅せられていたようで、BBCのドキュメンタリー・シリーズ Timeshift の中の How to be Sherlock Holmes (2014) でもそれに触れていました」と書きました。
ホームズの瞬間的な笑み

上の記事であげた番組のクリップがYoutubeにアップロードされました。番組全体ではなく一部分ですから、ここにアドレスを記しましょう。クリックすると顔真似のところからはじまります。
https://youtu.be/lRdd1_bZTo0?t=2m3s


ベネディクト・カンバーバッチが自分よりも前にホームズを演じたジェレミーを評価し尊敬してくれるように、ジェレミーもBasil Rathboneの名をあげて、自分にとってのホームズは彼だ、と言っていましたね。

一方、次にホームズを演じる俳優、次のホームズ作品については、ベネディクト・カンバーバッチは若いですからまだ言及していませんが、ジェレミーは自分の次の俳優がまたホームズを演じるだろうという気持ちが、いつもこころの中にありました。ちょうど、ハムレットをその時代・時代のすぐれた俳優が演じた長い歴史があるように、ホームズもまたこれからも演じられていくだろうと。自分はその歴史の中の一人だと。それを示すジェレミーの言葉として、以前も引用しましたが、やはりこれが好きで思い浮かびます。少し訳をかえて再度引用します。

2ページに分かれて書かれた記事で、引用部分は2ページ目からです。
Brett remains the screen's definitive Sherlock
by Terry Pace
Times Daily, Sep 15, 2004
https://news.google.com/newspapers?id=vXs0AAAAIBAJ&pg=2282%2C2345201
https://news.google.com/newspapers?id=vXs0AAAAIBAJ&pg=4181,2325690

「重要な役は何度も何度も、世代を越えて演じられるものなのです。シャーロック・ホームズという役に私なりの何かを残して、次の人に --- 違う時代のための違うホームズに手渡すことができれば、と願っています。

「その時までの間この役を演じることができて、コナン・ドイルと彼が作り出した人物のために何かができたのをとても幸せに思います。」そしてブレットはこう言った。「自分が一生懸命やってきたことが、認められずじまいではなかったと確かに感じています。それは役者としてとてもうれしいことなのです。」

"Great roles are meant to be played again and again, from one generation to the next. I shall hopefully leave my mark on Sherlock Holmes and then pass on the part to someone else—a different Holmes for a different era.

"Until then, I must say that I feel very fortunate to have had my day and to have done some service to Conan Doyle and the character he created," Brett concluded. "I do know that my efforts have not gone unappreciated. For an actor, that's a very good feeling."


ホームズを演じた俳優の歴史の中にいる一人として、"A different Holmes for a different era"(違う時代のための違うホームズ)に無事に役を手渡せることを喜びとしていたジェレミーのことを思います。ジェレミー亡きあとホームズを演じた俳優は何人もいるでしょうが、この言葉でいつもベネディクト・カンバーバッチが思い浮かびます。

RM
もうすぐこの一年も終わります。

「私」と「あなた」ということも、折々に考えた1年でした。

私は本当のあなたのことを知ることはできない。「あなた」が私の家族であっても友人であっても、世界の向こう側の人であっても。(ここに来てくださっているあなたのことも。そしてジェレミー・ブレットという名のあなたのことも。)でも私が本当の私を「こう」感じるように、あなたは本当のあなたを「こう」感じているのですね。そこにおいて私たちは同じものです。

自分の中の子供ということを、折々に考えた1年でもありました。理屈とか価値とか評価とか、そういうことへの目が開く前の自分。

子供が自由できままでわがままで、好きなことを、好きだというだけの理由で楽しめる時間をすごせますように。不安と恐怖の中にいる子供が、少しでも減りますように。

この1年、いろいろなことがあったけれども、ふりかえって感謝の気持ちをたくさんもちます。


ジェレミーが子供のことを話しているインタビューはたくさん思い浮かびます。今までにもいくつか引用しました。
子供の感受性(「Mystery!: A Celebration」から)
女性の直感と子供の感受性(2);1992年のThe Armchair Detective のインタビューから
子供とホームズ:1991年の新聞記事より

今日はこちらからです。
Jeremy Brett Interview, November 6, 1991
Interviewer: Kevin P. Murphy
http://web.archive.org/web/20131231002736/http://www.murderandwriting.com/entertainment/restored-jeremy-brett-inter.html

これはインタビューア自身のウェブサイトにアップロードされていたのですが、サイトがなくなってしまっていますので、Wayback Machineによって2013年にアーカイブされたページのアドレスを上にあげました。

Kがインタビューア、Jがジェレミーです。1991年ですからアメリカツアーの時です。

J: ホームズが子供にとってヒーローだとは思ってもいませんでした。この9年で知ったのです、特に舞台で演じた時に。「シャーロック・ホームズの秘密」という劇を、彼が100歳になったのを祝って上演しました。

K: いつかアメリカでも上演したいと思っていらっしゃるんですよね。

J: もうその時間はないんじゃないかと今は思っています、正典を全部映像化しようとしているので。1995年までかかるでしょう。そしてバトンをダニエル・デイ・ルイスに渡そうと思っています。その頃には私はホームズにはもう歳をとっていますから、彼にやってほしいですね。

公演のあいだ劇場の責任者に「ずいぶん空席がありますね」と言ったことが何度もあるのですが、そのたびに「ブレットさん、もう一度みてください。あかりがつきましたから、さあもう一度」って言うんです。そして(客席の椅子の背中一つ一つの向こう側を覗いている身振りをして)、子供がいっぱい!かわいい顔、顔!信じられない!子供はホームズが好きで、僕はその理由を知っています。これは去年おきたことで、その理由がごく最近わかりました。セント・ルイスに住む8歳のMichael McClure II(マイケル・マクルア二世)に4週間前に教えてもらったのです。ホームズがドラゴンを退治している絵を僕にくれて、僕が「マイケル...」と言うと、「ホームズはドラゴンをやっつけるんだ。僕はもう、夜いやな夢をみたりしないんだよ!」

K: すごい!

J: すごい!よかった!そして、ドイルが子供の鋭敏な感覚と感受性のすべてをホームズに与えたのが子供達にはわかるのです。ホームズの推理と直感はそこから来るのですからね!子供はその感覚と感受性を8歳でなくしてしまいます。窓の外を見てはいけません、教科書をみなさいと言われた時に。でもドイルはホームズにそのすべてを与えました。だから子供はホームズが大好きなんです。ホームズは法の正義を守り支える者でもあります。だからママとパパがけんかしていると「ホームズを呼ぶよ」って言えるのです。そして子供は少し支えをもらいます。だからホームズは子供のヒーローなんです。3歳のSolomon(ソロモン)とダラスで会ったのですが、私のホームズを全部観ていて、せりふを全部知っているんです!信じられない!ソロモン!

J: And, um, well, what I didn't realize was "You-know-who: S.H." is a great hero to the children. That, I've learned over the last nine years, largely from the play I did. I commissioned a play called, "The Secret of (you-know-who)," for his 100th birthday. 

K: This is the one you're hoping to bring to the States yet.

J: I don't think I've got time now, because I'm going to complete the canon. That will take until 1995. Then, I think I'll just pass the torch on to Daniel Day Lewis, I think. Let him get on with it, because I'll be over the hill by then. Umm, it's the fact that I used to say to the house manager that there are so many empty seats. He'd say, "Mr. Brett, just look again. The lights are on, now. Look again." And, of course [motioning to show eyes just barely peeking over the back of the seats]--children! Little faces! Absolutely unbelievable! They adored him, and I think I know why. I think it's to do--this has all happened over the last year--this particular idea has only recently come to me--through a little boy, called Michael McClure II, age 8, of St. Louis, about four weeks ago. And he gave me a picture of Holmes killing a dragon. And I said, "Michael...," and he said, "Oh, he kills my dragons. I don't have nightmares anymore!" 

K: Oh, wow!

J: Wow! Good news! Then, there are the children who recognize that Doyle has endowed his hero with all the antennae and sensibilities of a child...that's what his deduction and intuition is all about! Children lose it at the age of 8, I think, when they're told not to look out of the window, get on with their books, and it closes in. Whereas Doyle endowed "you-know-who" with all that. That's why the kids absolutely love him. He's also a great upholder of the law. So, when Mom and Dad are fighting, they say "I'll get S.H.," and they've got a little strength there. So, he is a hero to the children. Three-year-old Solomon, is there in Dallas, a little aficionado, has all my films, and knows every word! I couldn't believe it! Solomon! 


このインタビューがネットにあらわれた経緯については以前このように書きました。

このインタビューは、ジェレミーのすごく楽しそうな感じが伝わってきます。インタビューは当時、かなり短く編集されて土地の新聞に掲載されたのですが、それから15年ほどたってこの時のことを突然思い出したインタビューアが、コンピュータの中からインタビューを書き起こした元のテキストをさがしあてたけれども、ワープロソフトの移り変わりのために、文字化けその他でうまく読めないところが多かったそうです。ところが幸いなことに当時の録音がみつかり、そこからあらためて文字におこしたのがこれで、とても臨場感にあふれています。たとえばジェレミーが歌をくちずさんだり、外輪船(paddle-wheel boat)の音の真似をしたところなども、括弧に入れて書かれています。
(「Dame Gwenのこと;1991年のインタビューより」)

ジェレミーの声がきこえてきそうで、好きなインタビューの一つです。客席の椅子の背中の向こう側に子供達をみつけて、"Children! Little faces! Absolutely unbelievable!"(子供がいっぱい!かわいい顔、顔!まったく信じられない!)と言うところ、 "I couldn't believe it! Solomon!"(信じられない!ソロモン!)と子供の名前を呼ぶところ。

短く編集された記事はこちらで読めます。

たとえば新聞掲載記事では"I didn't realize that Holmes is a great hero to the children"というところが、長い方では "what I didn't realize was 'You-know-who: S.H.' is a great hero to the children"となっています。ジェレミーはよく、「ホームズ」と直接名前を出さずに、'You-know-who'とか'S.H.'とか言っていましたね。訳には反映できませんでしたが。

この中でジェレミーが"He's also a great upholder of the law"(ホームズは法の正義を守り支える者でもあります)と言っているところ、もしかしたら首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。正式な法的手続きをすっ飛ばすことも何度かありましたから。でもここで言いたいのは、「悪は露見し(自分が推理により明らかにし)、正義が行われる」とホームズは信じている、ということだと思います。それが、直接ちからを発揮できない、弱い立場にいる子供にとって支えであり救いである、と。

別のインタビューでジェレミーは、「パパがママを叩くんです。助けてくれますか?」という(ジェレミー・)ホームズへの子供の手紙について話していました。そんな時どうすればよいかはとても難しいけれども、決してそのままにすることはなく、専門家の手に委ねる、と。('Holmes is where my heart is...' 雑誌・日付不詳 )

ジェレミーは劇場やアメリカツアーで子供と接することで、子供がホームズを大好きなことを喜び、時にホームズが子供の支えとなっていることに安堵したでしょう。でも悲しい手紙をもらっても直接には助けられないつらさも感じたことでしょう。


最後に、ドラゴンをホームズに退治してもらって悪夢をみなくなった、セント・ルイスのマイケル・マクルア君とジェレミーの写真をご紹介しましょう。Sherlock Holmes Society of St. Charlesのブログからです。写真をクリックすると大きくなります。ジェレミーが右手でマイケル・マクルア君の肩を抱いています。
http://sherlockholmesofstcharles.blogspot.jp/2013/09/how-interesting.html

そしてコメント欄にそのマイケル・マクルア君、いえ大人になったマイケル・マクルア氏からのコメントがついています。今は数学の教授だそうです。「ジェレミー・ホームズは、モリアーティ教授と同じ職業を選んだマクルア青年をよしとするでしょうか?」と書いています。もちろんジェレミーはにこにこ笑っていますよね。


今年はこれが最後の記事かもしれません。ここに来てくださるかたとのご縁に感謝いたします。コメントを下さったかた、拍手をくださったかた、長く来てくださるかた、最近みつけてくださったかた、どうもありがとうございました。みなさま、どうぞよいお年をお迎えください。

RM

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Author: RM
コメントは承認後に公開されます。古い記事へのコメントも大歓迎です。2010年8月7日に始めました。
私の記事へのリンクはどうぞご自由になさって下さい。
和訳には間違いがあるかもしれません。最近は必ず英語原文を併記・またはアドレスを書いて読めるようにしていますので、どうぞそちらも参考になさってください。

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